１９４３年１月２９日～モルディブ大英帝国東洋艦隊本部
サマーヴィル提督は、執務室で報告書を読んでいた。わずか１週間ほどで太平洋のアメリカ艦隊は壊滅状態になったらしい。オーストラリアのダーウィンを基地とする潜水艦隊も二日前に８隻を喪失し、ほぼ戦力を失っていた。潜水艦は、フィリピン近海や台湾沖などに進出していたので船尾の損傷をなんとかふさいで浮いていたとしても救援の艦艇を送ることができない。フィリピンに潜入している魚雷艇や現地漁船を使って乗組員を救助したあとは、機密保持のため自沈するしかなかった。なかには日本海軍に発見され、乗組員は大急ぎでボートに移乗して、自沈した例もあるようだ。
昨夜は、インド北部の空軍基地が攻撃を受け、１５０機以上を失っている。なかなか補給を受けられる状況でもないのにどうすればよいのか。上空からであることには間違いないが、どうやって攻撃しているのかまったくわからないため、対策のしようがない。駐機している航空機は偽装を徹底するぐらいしかない。しかし、先日の攻撃では完全に偽装していた戦闘機も格納庫内の爆撃機も破壊されてしまった。今まででわかったことは、航空機などにつかわれている弾丸は、直径１インチほどのタングステン弾であり、艦船に用いられているのは、直径８インチほどのタングステン弾であるらしいということだ。
「提督。環礁内の戦艦、護衛空母、潜水艦が攻撃を受けました。戦艦は沈没を免れましたが、他は沈没。なお、人的損害は軽微とのことです。」
なんてことだ。戦艦や護衛空母は旧式かつ鈍足すぎて実戦の役にはたたないものだが、潜水艦は唯一、索敵やいやがらせに使える存在だった。
「損害を報告書にまとめろ。本国に連絡する。」
これで喜望峰まわりによる中東地域への補給路も危険にさらされる。チュニジアに追い詰めたドイツ軍をさらに追い詰める作戦にも支障が出るおそれがある。太平洋のこともあわせて戦略を練り直す必要があるだろうな。
