1943年10月15日~ロンドン
チャーチル首相は、ルーズベルト大統領との電話会議を終えて、ぐったりと椅子に身を沈めた。ソ連が、休戦してしまった。モスクワ市内では、かつて以上のパニックが起きたというし、政権の存続への危機感を感じたのだろう。しかし、せっかくシチリア攻撃を行ったというのに、無駄になった。あれは、やはりやらないほうがよかった。モントゴメリーが、マスコミに憤懣をぶちまけて、大騒ぎになった。アメリカでも、政府や軍部が随分批判されているらしい。
イタリアでは、ムッソリーニが失脚し、バドリオ政権が成立したが、なぜか3国同盟は維持されている。ムッソリーニはスペインに亡命した。しかも、フランスの様子がおかしい。米英の軍隊を国内に入れないのであれば、ドイツ軍も撤退するといわれているようだ。これが実現すると、アルジェリアから撤兵する必要があるし、フランスに上陸する案は実行できなくなる。
さらに、ソ連への宣戦を行うと同時に日本政府が各国へ行った声明。ハルノートの要請を原則受け入れるので、休戦したいという要求。
ハルノートの4原則、(1)あらゆる国家の領土保全と主権を侵害してはならないこと。(2)他国の国内問題に関与してはならないこと。(3)通商上の機会や待遇で平等を守ること。(4)紛争を防止し平和的な解決ができるように、国際協力をすること。これらは、日本政府としても尊重すべき原則と考える。
さらに10項目の要求。①日本・アメリカ・イギリス・ソ連・オランダ・中国・タイの間での相互不可侵条約を締結すること。②日本・アメリカ・イギリス・オランダ・中国・タイの間で、フランス領インドシナの不可侵と、フランス領インドシナにおける経済上の平等待遇に関して、協定を締結すること。③中国・フランス領インドシナから日本軍を撤収させること。④日本が蒋介石率いる国民政府以外の政権を支持しないよう確約すること。⑤中国における治外法権と租界を放棄すること。⑥最恵国待遇を基礎とする日米間通商協定を締結すること。⑦日米が経済制裁のため相互に行っていた資産の凍結を解除すること。⑧円・ドル為替を安定させること。⑨日独伊三国軍事同盟を実質的に破棄すること。⑩日米両国がこの協定内容を推進すること。
これについては、③、④、⑤項は実行しつつあり、他の項目も、実行する準備はある。
但し、ベトナム、ラオス、カンボジア、ビルマ、マレーシア、フィリピン、インドネシア各国については、自治権を認め、旧宗主国は完全独立のための支援を行うことが条件である。
つまり、休戦したいなら植民地を放棄しろということだ。これを実行すれば、確実にインドを失うことになる。ただでさえ、インドはきな臭くなっている。ボースのインド国民軍は、ビルマでおとなしくしているが、インド各地で反イギリスの暴動が起きている。インド駐留イギリス軍は、ビルマ奪還どころではなくなっている。兵士も大半インド人だ。軍隊自身が反乱に参加する危険がある。今までは、宗教対立を利用してうまくバランスをとってきたが、いつまで続くことか。
絶対に飲めない、ということでルーズベルトと一致した。我々がイニシアティブを持った形での終戦にしなければならない。ここ1か月以上、謎の攻撃による被害がない。思い切って、4発爆撃機を南部イングランドに移してみたが無事だ。戦艦や空母も続々修理なって、活動できるようなっている。どこかで、彼らに一撃を加える必要がある。




