1943年9月21日~ロシア・オリョール東方
第4装甲軍を率いるヘルマン・ホト上級大将は、壁に貼られた大地図を睨んでいた。クルスク後にかなり補充を受けたが、100%とはいかない。これから500キロ北東のモスクワを目指すのだ。途中にあるトゥーラ。前回のモスクワ戦でグデーリアンが落とせなかった要塞都市。ここが大きなポイントになるだろう。そして空軍。前回は、後半、ロシア側が優勢だった。10月後半に予想される泥濘。なんとか1か月以内でけりをつける必要がある。多分、最後の電撃戦になるだろう。いや、そうしなければならない。敵も随分学習して、計画的な撤退で誘い込み、反撃するという手段をとるようになったが、モスクワを放棄することはできないはずだ。
第4装甲軍が切り開いた道は、フランス、イタリアから呼び寄せた歩兵師団が固める。ヴィヤヅマ方面へは、モーデルが圧力をかける。昨日、ノルウェーから回航したティルピッツが、オラニエンバウムに砲撃を仕掛けた。さらに、北方軍が、攻勢の姿勢を見せたので、敵の注意をいくらか北に向けさせることができただろう。
偵察によると、ロシア側は、南部に戦力を集中しているらしい。恐らく、ハリコフの奪還を目指している。南部では防衛戦闘を行うことになっている。最悪、ドニエプルにまで下がって、敵の攻勢を食い止める。その間にモスクワを落そうという計画だ。
夜明け1時間前に、準備砲撃が始まった。そして、上空を友軍航空機が、群れを成して、敵陣へ飛び去ってゆく。
「戦車、前へ!」
ホト上級大将は、号令を下した。パンツァーカイルが轟音とともに進み始め、シュバルツ(黒)作戦が発動した。




