1943年6月5日~ベルリン
ドイツ参謀本部参謀総長グデーリアンは地図を前に考えていた。【彼】との会合で、3か月前に示された技術的な提案が実を結びつつある。一つは、パンターの変速機の強化で、たしかにこれで大幅に故障が減った。サスペンションについても提案があり、これも良い結果があった。もう一つは、ジェットエンジン用耐熱合金の組成の提案で、これはクロム3トン、モリブデン2トン、コバルト1トンの現物提供もあった。この合金でタービンブレードを作ったところ大幅に寿命が延びた。かつこれまで以上に高温になっても耐えられることがわかった。これでこれまで以上の出力と、耐久性が得られた。高温高圧にしたことで、燃費まで伸びた。タービンブレードは、10時間もつかどうかだったのが、100時間は持ちそうとのことだ。これでMe262の実戦投入は近い。新型パンターの投入で、クルスク突出部を切断する案を提案したが、マンシュタインは、200~300両の新型戦車の投入では、数的不利を変えられない。あくまで、南方方面軍、中央方面軍は、敵の進出を待って、叩くべきとの意見である。
戦車の生産ラインの統合整理についてはマンシュタインとも意見が合致し、実行に移した。3号戦車は廃止し、突撃砲等の歩兵補助戦車とする。4号は長砲身G型を中戦車の補助戦車として生産するほか、一部対空戦車等の特殊車両のベースとする。中戦車はパンター、重戦車はティーガーとする。
意見が対立したまま5月末に【彼】との会合の日を迎えた。グデーリアンはベルリンで政府首脳とともに会合に参加したが、東部戦線からは、マンシュタインとヴァルター・モーデル上級大将が参加した。その中で、グデーリアンは【彼】に2つの意見について説明した。
【彼】は言った。
「ユダヤ人の人種絶滅政策の中止ありがとうございます。さて、今回の作戦ですが、目的はスターリンにあきらめさせて講和させることです。従って、クルスクは勝ち取る必要がある。しかし、約束してください。たとえ圧倒的な勝利を得たとしても、それ以上前進しないということを。勝利したら、講和を呼び掛けていただきたい。それを約束していただけるなら、ソ連が東方から投入するであろう予備戦力を阻止します。いかがでしょう。」
「現在の戦力比はどうなっているのだろうか。」ベック首相が言った。
「ドイツ軍の投入可能な戦車は約2500両、航空戦力は2500機前後でしょう。対して、ソ連軍は戦車5000両、航空機5000機が投入可能と思われます。」
「ざっと倍ということか。マンシュタインさん、やれそうかね。」
「さきほどの戦力が全部戦場に投入されれば我々の勝利は困難でしょうが、増援を阻止してくれるのであれば可能性はあります。中央方面軍は防衛戦闘を行い、南方方面軍が敵の下腹を食い破るという作戦でどうでしょう。」
特に異論は出なかった。ベック首相は言った。
「では、その方向でお願いしたい。」