1943年4月2日~台北
議長を務める東郷外相が立ち上がって挨拶を始めた。
「本日は遠いところから、このアジア独立拡大会議にご参集いただき誠にありがとうございます。
手配した飛行機の乗り心地はいかがでしたでしょうか。私としてはなかなか快適に感じました。」
【彼】は、調布基地に丁度100機の一式陸攻を配備していた。外見は、完全に一式陸攻である。しかし、近くによるとまったく別物であることがわかる。機銃はあるものの機銃手の座席はない。搭乗員は正副操縦士、2名の通信士兼機銃操作員、1名の偵察員兼客室乗務員である。そして、爆弾槽の代わりに、客室には8名分の座席があり、長距離移動に備えてトイレのほか簡易ベッドが2名分ついている。客席には小さいながら丸窓がついており、閉塞感を和らげている。
操作手順書を読んで、試乗した海軍少佐は、2時間も試乗してようやく降りてくるなり、興奮していった。
「こいつはものすごい。8000メートルまで10分で上がれるし、対地速度は600キロ以上出る。しかも、全然エンジン音がしない。加圧されている上に暖房が利いていて、余裕で寝られる。それに自動操縦とやらを試してみたが、相当な気流の変化があっても勝手に操縦して、もとの進路を維持してくれる。一応、8000メートル以上は酸素マスク着用とあったが、9000メートルでも普通の陸攻の4000メートルくらいの感じだった。」
驚いたことに、この飛行機は燃料補給が必要ない。機体の上部全体に太陽電池とやらが張り付けてあり、勝手に充電するらしい。大型の蓄電池が搭載されているが、見慣れた鉛電池ではないのは確かだ。夜間は充電されないが、夜間でも600キロ巡航で12時間飛行可能となっている。機体は金属ではない。しかし、非常に硬いものでできている。なんでもナノセルロースとかいう植物の成分を再構成したものらしい。どこにも継ぎ目が見えないうえに滑らかである。植物由来の機体なので、電探に感知されにくいというおまけつきである。機体は15ミリの鉄板と同等の対弾性があるという。
機銃手席の前には直径30センチほどの画面があって、切り替え装置をつかって、各所の機銃の銃身が向いている方向が映るようになっている。目標をとらえてボタンを押すと、あとは銃身が勝手に目標を追尾しボタンを戻すまで打ちまくる。さらに驚異なのが、通信機で、昔ながらのモールス通信機もついているが、通常は電話機で連絡するようになっている。なんと太平洋の西半分とアジアの東半分が通信範囲だという。【彼】がいくつかの中継器を超高空に設置したらしい。本土にもこの電話機と、送受信装置が、やはり100台配布された。この通話は、地上で従来の受信機で受信しても、一瞬の雑音にしか聞こえない。圧縮して送受信しているとなっているが、その理屈はよくわからない。
【彼】との約束で、この機体は、遠方との連絡のみに使用されることになっている。また、この機体や通信機は、彼が未来に戻る際には返却することになっている。今回の会議では、アジア各所から代表団を集めたので、この機体が使われたのだ。政府はこの機体を3式連絡機と呼ぶことにした。
「…我が国は、各国での民主的な選挙制度の確立、憲法の制定、教育、医療体制の整備を支援したいと考えております。各国がそれなりの自衛力をもった独立国となってくれることが望みであります。」
東郷外相が一息つくと、台湾代表が立ち上がった。
「我々が日本帝国内に残ることは許されないのでしょうか。」
「国民の総意として、そういう結論がでたならば我々も国会で議論することになるでしょう。独立したならば、各国にある日本の資産は、簿価でお譲りする。返済は、無利子30年分割を考えています。日本軍は2年以内に、戦前の日本領まで撤退します。べトナムはもちろん、朝鮮、台湾についても独立という結論に至ったならば、撤兵するつもりです。」
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