1943年3月10日~満州
関東軍総司令官梅津大将は、満州全図に示された18の点を見ながら、考えていた。東部ソ連国境沿いに6か所、北部の北安、チチハル、ハイラルに2か所づつ、アルシャンから黄海方面にかけての内蒙古との国境沿いに6か所となっている。満州をぐるりと囲むような形になる。
ここに、金剛などの戦艦から外された主砲、36センチ連装砲塔が移設されるという。たしか、36センチ砲の最大射程は30キロメートル以上あるはずだ。36センチ砲の榴弾をくらっては、どんな戦車もどうすることもできないだろう。満州の内陸型の砲台には3式弾とかいう散弾式の砲弾が多めに配分されるらしい。しかし、爆撃機の攻撃には長くは耐えられないだろうな。【彼】は、この設置は、どちらかというと威嚇と、満州国民へのアピールのためであるといった。一応、航空機対策として、25ミリ3連装対空砲を1砲塔当たり4基ずつ配分するという。予定地に工兵部隊を派遣して、砲台づくりを急がせている。予定地は、どこも高台が選ばれており、通常、人が立ち入るところではないのだが、直径100メートルほどの空き地が簡易整備されていた。
現在、工兵は、その地点への資材運び込みのための接続道路を建設中である。また、観測所の設置場所選定や、電話線の配置を行っている。砲塔を据えるための大穴を掘り、地下に砲弾保管庫を作り、それらを鉄骨とべトンで固める必要がある。大本営からは、整地機械や、穴掘り機、資材運搬用トラックを製造中であるので、本格着工はあとひと月ほど待つよういわれている。
今回、戦艦から外される予定の36センチ連装砲塔は、全部で28である。残りの10は、朝鮮の対ソ国境、鴨緑江、そして仁川に1基づつ、南樺太に4基、千島列島に3基とのことだ。【彼】のいうには、今回、輸送船転用対象となった戦艦は、史実では、一部を除いてほとんど実戦での活躍はなかったらしい。その最大の理由が燃料不足というから情けない。
これほどの大型海軍旋回砲塔の運用知識は陸軍にはないので、戦艦の砲術士官が完成後にやってきて、満州軍の士官に試射がてら訓練を施すことになっている。関東軍ではない。満州軍の士官にである。関東軍は要塞設置後、段階的に内地に引き上げることになっている。日本では数少ない機甲師団も戦車ごと置いていくことになっている。航空隊も飛行機は残していくことになっている。
願わくば、砲塔がどうやって設置されるのか、冥途の土産に見てみたい。そして、ソ連の戦車軍を36センチ砲が薙ぎ払うところも。自分は裁判で終身刑となり、獄中で死ぬらしい。そんなことなら、闘って死にたい。今度、陛下にお会いできたらお願いしてみよう。