1943年2月25日~ホワイトハウス
フランクリン・デラノ・ルーズベルト大統領は、いらだっていた。今年に入ってからろくでもない報告ばかりはいってくる。南太平洋の艦隊が行動不能に陥ったかと思えば、パナマ運河が破壊される。そして、ハワイの艦隊まで攻撃されてしまった。そればかりではない。北アフリカからファシストを追い出す作戦も、補給に支障が出て延期せざるを得ない。しかも不可解なことに、日本で内閣交代が起き、ドイツでも政変が起きたらしい。ヒトラーが死んだのはいい話だが、新政権からは何の提案もない。おそらくナチスの残党の制圧に手間取っているのだろう。この絶好の機会に軍事的圧力をかけられないのが残念でならない。
「ハワイから南太平洋に送った臨時艦隊が攻撃を受けただと。」
「はい。護衛空母2隻と巡洋艦3隻がフィジー近海で攻撃を受け、護衛空母1隻が沈没しました。」
「すると太平洋にわが軍の空母は護衛空母さえいなくなったのか。」
「はい。正規空母はエセックスのみで、メキシコ湾で完熟航海中です。」
「どうするのだ。キング。」
所在無げに立っていた連合艦隊司令長官キング大将は、ハッとして答えた。
「サラトガ、エンタープライズは西海岸で修理中で、4月末までには復帰見込みです。」
「では、5月には攻勢に出れるのだな。」
「それは。敵の攻撃がどのような方法なのかわかっておりませんので。」
スティムソン陸軍長官が発言した。
「ハワイの航空機の損害の調査によると、敵はおそらく2万メートル以上の高度からタングステン弾を発射したと思われます。」
「2万メートルだと。わが軍の航空機はそこまで届くのか?」
「現在の技術では不可能です。」
「ジャップがそんなものを開発したというのか。」
「わかりません。ありえないことだと思いますが。」
「パナマ運河はどうなんだ。」
ハル国務長官が答えた。
「船舶が航行可能となるのは、最も楽観的な予想で10月以降です。」
「するとこれから半年の間我々は何もできないのか。」
キング長官が恐る恐る発言した。
「艦隊の派遣ができないのではきっりと断言はできませんが、アリューシャンのアッツ、キスカの日本軍は撤退したようです。」
「そうか。我々は自国の領土を回復したのだな。なるべく早く確認させろ。国民に発表したい。」
「それは。北氷洋で動力を失うと沈没の可能性もあります。」
「む。航空機で近づき、可能であれば着陸して確認するのはどうだ。」
「きわめて危険なミッションですが、希望者を募ってみます。」
「少しでも国民を勇気づけたい。よろしく頼む。」
それにしても、この状況で日本は撤退ばかりしているのはなぜだ。ガダルカナルの守備隊からはせっぱつまった補給要請が繰り返し来ている。2回出した補給船団はガダルカナル千キロ手前で攻撃を受けた。本格的に撤退を検討すべき時かもしれない。モロッコの米軍からもヒステリーじみた要請がある。
「フィリピンの状況はなにかわかるかね。」
「大統領。今年に入って太平洋に配置した潜水艦は既に22隻破壊されておりうち15隻は自沈せざるを得ませんでした。現在、敵領域で活動している潜水艦はありません。」
「つまりなにもわからないということか。」
「はい。ほかに中国の国民党と日本の間でなんらか会見が行われたらしいという情報もあります。」
「まさか中国が離反することはないだろうな。」
「まさかとは思いますが、なにぶんそれ以上の情報がありません。」
「破壊された戦艦、空母の修理状況はどうだ。」
「西海岸の大型ドックは数が限られており、しかもなんらか製造中でふさがっているものが多く、今ドック入りしているのは空母2隻です。いずれも推進軸にダメージを受け、機関室に浸水したため最短でも2か月かかる見込みです。」
「東海岸は。」
「カサブランカ級の護衛空母を量産する予定でしたが、それを延期して、大西洋で被害を受けた護衛空母の修理に入っており、早いものでは来月末に復帰できるものもあります。」
「そうか。しかしそれらはまず北アフリカに投入すべきだろうな。」
「大西洋と地中海でもイギリスおよびわが軍の潜水艦の被害が増大しており、29隻が自沈処理となりました。耐圧区画に穴をあけられてはどうしようもありません。しかしなぜか駆逐艦や小型の輸送船の被害はないですね。小型艦ならあれを食らうと一発で沈没してしまうと思うのですが。」
「敵の弾も有限だということだろう。とにかく、太平洋の艦隊を再建するには、まだまだ時間がかかるということか。」
大坂なおみ選手、おめでとう!