青いビスケット
僕が眠りながら見る夢は、君の心臓だった。君はある時言ってくれたね、あの砂場のカモメが可哀想で仕方がないと。その言葉を聞いた時、僕は心に決めたんだよ。歩道橋をゆっくり魚が泳ぐように歩く。青い魚だ。僕は青が好きだ。出来るだけゆっくり呼吸して水を吸い込む。車、サーチライトの先を辿るとメリーゴーランドが見える。急に方向転換して、スピードを上げた。エラが痛いけど、もっと早く。危うく車と衝突しそうになり、クリスマスケーキの用意のことを思い出した。車からランニング姿の男が出てきていった。
「囲碁で家を建てるつもりなんだ。だから今日のことは黙っていてほしい」
当然だと思った。こんなことを言われては怒るのも致し方ない。
「というわけでだ。俺は囲碁を覚えようと思う」
「こんな寒い公園の真ん中でですか」
出来る限りの正しい言葉遣いを心がけて、さも驚いた風を装って、僕は縄跳びを始めた。小学校以来だ。男も興味津々に下手な二重跳びを眺めている。
「なんて偶然だろう。俺も今から飛ぼうと思ってたんだ」
そして車からホッピングを取り出すと周りでポンポン飛び始めた。だが僕はもう全部飽きていた。縄ももはや絹糸より細くなり、うまく力が伝わらない。
「楽しそうですね」
場違いな鳩。光一というのだが、そいつが車から身を乗り出して声をかけてきた。
「ビスケットはやらないよ」
楽しいはずがあるか、と思い口走った。
「大丈夫ですほら。このマンホールをよく見てください」
光一が突く先に、割れた薄青のラムネ瓶がある。
「わかりますか?」
「なに?」
「ないでしょう」
ビー玉か、と思い、そうだね、と言いかける。
「でも大丈夫です」
そう言って光一は歯をむき出して笑う。彼女と交際してまだ3週間なのだから、これはおかしい。
「それよりも彼はどこ」
「あそこの階段下です。どうも追試があるみたいでそれで急いでいたらしいんです」
「そんな場所でやるのか。やっぱりこういう状況だから」
彼女の前でつまらなぬ受け答えしかできない自分が苦しい。勇気を出して、
「ビスケットやっぱり探しに行こうか」
光一は喜びのあまり走り出して、瞬く間に鳩から雀に姿を変えた。上気した顔をこちらに向けて食べかけの板チョコを僕にくれると言う。
どうしてそんな、夢を壊すことをするんだろう。青は沈黙したまま、じっと車のフロントガラスを見つめている。僕はずっと青の話を聞いていたのだ。