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夢の職場なんです!

あけましておめでとうございます

本年 は がんばります!!


【その後】


 ええ、飲ませるには飲ませたのですが、これ本当に普通のウィスキーですか? 上等だから? 

 いえ――ぜったいうちの誰かの特製品ですよね。このわたしがつぶれましたもの!

 あ、リオナール様は先につぶれましたよ。遊び疲れた子どものように、いきなりスイッチが切れました。

 思い返せば、二口、三口と飲んでから、妙に饒舌になっていた気がします。




「ローデオ様には相思相愛の方がいるのです!!」

「なんだと!? どこのどいつだ! 今からでも捜査してやる!!」

「捜査どころか、操作されて飛ばされますよ! 消されますよ!!」

「ああ、兄上! お前が嫁なら、兄上の横に並んで三人で川の字で寝ることも可能かと思っていたのに!!」

「それご自分が真ん中ですか!?」

「もちろんだ。そしてお前は予備寝台だ」

「ひどい! 一緒のシーツで眠りたいです!!」

「未婚の俺に配慮しろ」

「嫌です、わたしはリオナール様と寝たいんです!」

「俺は兄上の隣がいい」

「そんなあなたの隣がいいんですっ!」

「……お前、ちょっと変だな」

「あなた様がそれを言いますか!?」




 と、話していたらだんだんリオナール様の口数が少なくなっていって、もっとお話ししましょうよぉと話しかけようとしたら――記憶がなくなりました。


 朝チュンです。


 でも、夢見る朝チュン・シチュエーションっていうのは、ふかふかの白いシーツの上で迎えるものではないでしょうか。ほんのり頭痛とお酒の匂い、てのはちょっとしたスパイスですね。


「……」


 ――腰と顎が痛いです。

 お酒の匂いがひどく漂う室内に、昨夜腰かけていた姿勢のままテーブルに顔を突っ伏してお互い眠っていたようです。鼻先のチーズの燻製が、カッピカピに乾いています。

 ゆっくり固くなった体を起こせば、同じように眠るリオナール様を発見しました。室内の時計を見れば、まだ早朝といえる時間。まだ二時間は寝れます。

「リオナール様しっかり!」

「うっ」

 うめくリオナール様を支えて寝台までどうにか運んだのですが、あと一歩及ばず床に倒れてしまいました。まだ体がうまく動きません。

 

――おかしい。


 こんなに体がだるくなるなんて、やはりあのウィスキーには細工がしてあるようです。

 まずい、とわたしは覆いかぶさるリオナール様の下からなんとか脱出しますが、やはり体は思う様になりません。

 すやすや眠りつつ「…ぁにぅえ」と、究極のブラコンを披露するリオナール様をお守りすべく、わたしは歯を食いしばって上半身を起こしました。


 誰の陰謀かは知りませんが、最悪、盾になってでもリオナール様をお守りします!!


 フンっと決意を新たに、執事様が様子を見に来るまでの二時間と少しを、わたしは寝ずの番で番犬よろしくお守りしたのでした。



 が。



 犯人は執事様でした。

 

「お前のバカ力でリオナール様がお怪我をしないように、と細工をしたのに……」


 普段、リオナール様のお酒を飲まれるペースはゆっくりなんですが、昨夜はわたし以上にハイペースでした。自分が言ったこととはいえ、ローデオ様が結婚を後押しするのは相当嫌だったようです。

 呆れた様子でため息をついた執事様は、ポイっとわたしをリオナール様から引き離し、抱き上げて寝台へと運んでいきました。

 え、わたしは床に放置されていますよ。

 リオナール様を寝かせた執事様は、かわいそうな目でわたしを見降ろします。

「あの方に報告はしなければなりません」

「!」

 ビクッと大きく体が震えました。

 とたんに襲ってくる恐怖は、もうリオナール様のおそばにいる時間がないというものです。お仕置きなんて怖くありません。でも、もう仕方ないのです。

 がっくりとうなだれたわたしは、静かにうなずきました。

「……はい。申し訳ございません」

 執事様はまだ力の入らないわたしの手を取り、ゆっくりと立たせました。

 悲しすぎてまともに顔を上げられない、なんて失礼な態度をとるわたしに、執事様はちょっと口調を柔らかくして言いました。

「そう悲観することもないでしょう」

「ですがっ!」

「リオナール様が目覚めたら、ちゃんとご挨拶しなさい。きっといいことがありますよ」

「え……?」

「さあ、まずはそのひどい恰好をどうにかしなくては。ここの片付けはしますから、あと二時間あげますので、しっかり休みなさい」

 そう言われて、わたしは用意してあるという熱いお風呂に入り、少しだけ仮眠してリオナール様が目覚めるのを待つことにしました。

 眠れ、と言われたら寝る。上司の命令は絶対。それがわたし達には染み込んでいます。それは失恋しようが関係なく発揮されたようで、短時間でぐっすり眠ってしまいました。


 さて、目覚めはすっきりです。

 足りない分は今夜寝ましょう。それより朝です。夜会の次の日のように遅い支度となりましたが、リオナール様のお部屋に行かねばなりません。

 いつも通りに廊下を歩いていると、スッと執事様が目の前に現れました。マジで気配殺して現れるので、いつも内心ビクッとしております。いつまでたっても慣れない未熟者ですみません。

「リオナール様はまだお休みです。朝のお仕度からお願いします」

「かしこまりました」

 二日酔いされていたらいけないので、香りの少ない冷たい飲み物と、お薬、熱く蒸したタオルを用意して向かうことにしました。

 ドアをノックして返事がないままですが、部屋に入ります。ここまでは返事がなくても入ってよい、と言われているわたくしに許された特権です。ムフフ。

 ただし、続き間の寝室は別です。

「おはようございます、リオナール様」

 ノックをして返事を待つ。

 耳を澄ませていると、声を出すのがおっくうなのか、寝台横のテーブルにあるベルの音が鳴りました。

「失礼いたします」

 御目覚めになったリオナール様は、昨夜の失態からかわたしを見てサッと目をそらされました。

 そして、やや早口でまくしたてます。

「おおお、お前と兄上はやはり釣り合わん! お前をあ、あああ義姉上なんて呼べるものか」

「はい、まったくその通りでございます!」

「お、お前はこれまで通り俺の愚痴を聞き、世話を焼いていればいい」

「はい! 承知いたしました」

「た、たまにならお前の愚痴も聞いてやる。酒もたまにはいい」

「はい、ぜひ」

 と、言いつつ悲しくなる。

 きっともう『次』はない。早ければ明日にでも、次の者が派遣されてくるでしょう。朝のお手伝いもこれで最後……。

 そう思うと、長年訓練してきた身とはいえ、視界がぼやけてきました。心底惚れた方のもとを去らねばならないということは、こんなにも苦しいものなのですね。

「え、エル! どうした!?」

 リオナール様が慌てた様子で、わたしの顔をのぞき込んでいます。

銀髪短髪ドストライク男性大接近。眼福です。

「何が悲しい。俺が愚痴を聞くのがたまにだからか!?」

「いえ、毎日でも聞きたいくらいです」

「そうか。毎日は無理だ。兄上の周囲にいる邪魔者を、日々排除することにも忙しいからな。ミッション終了後に結果を報告しよう」

「下剤を購入されるのはよされたほうがいいですよ。リオナール様が便秘持ちだと噂されますので」

「何を!?」

「しかも毎回購入されるたびに、より強力なものをお探しとか。あと眠り薬とか。もうリオナール様が性的にアブない思考を持っている、と思われてもおかしくありませんよ」

「うっ! それは嫌だ」

 自分の肩を抱いてぶんぶん頭を横に振ったせいで、ちょっと気分が悪くなりふらりと寝台に身を沈めるリオナール様。その顔を寝台に伏せたままの姿で、リオナール様が言いました。

「……エル。兄上が見合いをしたようだ」

「はい」

 見合いどころか婚約中です。

「兄上との仲もよく、たいそうお似合いだそうだ」

「はい」

 相思相愛の中です。間違ってもお二人の邪魔をしてはいけません。邪魔しようものなら、軽くて地方左遷。最悪消すなんてことはないと信じたいのですが、隣国移動とかも視野に入るかと。

 そうならないように、わたしはあなたを近くでお守りしたかったのですが……。

「……義理の姉ができるらしい。俺のような弟がいては、きっと気持ち悪いだろうな」

「どう、でしょうか」

 つい本音をもらしました。

 わたしが任務を頂いたとき、顔を隠した上官が言いました。


『ターゲットの傍に仕えて、彼の兄への関心を削りなさい』


 

その言葉を聞いたとき、わたしだけじゃなく誰でも思ったことがあります。

 どうしてターゲットを壊さないのですか、と。もっと優しく言えば、無理やり相手をあてがったり、左遷させたり、病人扱いにしたってよかったんです。中途半端な依頼をする依頼人だなぁ位にしか思っていませんでしたが、お屋敷に来てびっくり仰天。まさかリオナール様だったとは! と事故に見せて壊そうと思っていた自分を心底殴りたくなりました。

知らなかったとはいえ、廃人にする、とか壊すとか言ってしまいましたよ、わたし。そっと陰ながら想い続けていた相手に、わたしったらなんてことをっ!!と壁に頭を打ちつけました。あ、三回目で執事様に昏倒させられ、修理代は分割給与差し引きされました。

ベラリス様は、正直言えばイラナイモノは全部排除する方です。

 でも、ローデオ様はリオナール様をかわいがっておいでですから、悲しむようなことはしたくない、というお考えだったのではないでしょうか。 

つまり、これ以上リオナール様が暴走したり、ましては婚約の邪魔をするようなことがなければ大丈夫なのです!!


「べ、ベアトリクス様が、リオナール様をお嫌いになることはないと思います」

 ただし、暴走しなければですが。

 って、そのストッパーがわたしの役目でしたのに、解任直前に何を言っているのでしょう。

 気が付けば、わたしはリオナール様の両手をしっかりと握って前のめりになっていました。

「え、エル」

 珍しく、戸惑っていらっしゃるようです。ほんのり赤い頬と、成人男性のクセしてぷるっとした唇がたまりません!!

「ベアトリクス様に、少しだけローデオ様を分けてあげてください。そして、いつかお生まれになるお二人のお子様を、リオナール様がローデオ様にかわいがられたように、しっかりと慈しみお守りしてはいかがでしょう」

「! あ、兄上の子!?」

 しまった、逆効果だったかしら!? とサッと血の気が引いたのですが、目に前にあるリオナール様の目は、どこか遠いところを見つめて幸せそうに表情が緩んでいます。

「兄上のお子かぁ。……イイなぁ」

 まだ見ぬ甥っ子姪っ子様達への想像を膨らませ、デレッデレに緩みまくったお顔はこのまま溶けていくのではないか、というほどでした。

「起きてくださいませ、リオナール様!」

「ハッ!」

 慌てて半開きだった口を引き締め、じっとわたしの顔を見て少しだけ笑われました。

「ありがとう、エル。お前はやはりイイ奴だ。これからも頼むぞ」

「……」

 わたしは何も言えず、初めてお返事をしないままただ微笑んでいました。

「よし、着替えて兄上にお祝いを言わねば!」

 リオナール様は少し冷えてしまったタオルで顔を拭くと、サッと朝の支度を済ませてローデオ様のもとへと向かっていかれました。

 わたしはそんな後姿をお見送り、少し先にするはずだった夏服の手入れと確認、それからリオナール様の寝台のリネンの取り換えをしていましたら、執事様がやってきました。

 ベッドメイキングをいつも以上に丁寧にすませ、わたしが終わるのをただじっと待つ執事様へ向きなおります。

「お待たせしました、執事様」

「問題ありませんよ、エル」

 そして、少しだけ沈黙が落ち、執事様がそっと目をそらします。

 いよいよか、と身構えて思わずエプロンをぎゅっと握りしめました。

「エル。ベラリス様はたいそうお喜びです」

「え?」

「先ほど、王城より隼四号が参りました」

 隼四号はベラリス様専用の緊急用の鳥で、名前は別にあるようですが、気安く呼ぶとくちばしと爪で攻撃されるそうです。

「ベアトリクス様がローデオ様とご対面中に、リオナール様がお祝いを持って駆けつけご挨拶なさったそうです」

「まあ!」

「お前の任務は継続です」

「! ありがとうございます!!」

 涙が出るほどうれしいです!

 うるうるしているわたしに、執事様がふと話題を変えました。

「ところで、リオナール様はお前になにか言いましたか?」

「え、あ、これからもそばに愚痴を聞いてほしいと言われました! とっても幸せです!!」

「……愚痴? それだけですか?」

「はい! 愚痴もお酒も一緒に飲んでいただけるそうです!!」

 幸せです~! とご報告したにも関わらず、執事様は渋顔になりました。

 なんて能天気な奴だ、なんて思われているのでしょうね。執事様のお仕事は大変だし緊張感の連続でしょう。ですが嬉しすぎて顔に出てしまうんです。許してください。

「――まあ、いいでしょう。しっかりやりなさい」

「はい!」

 そういって執事様は出て行かれました。

 わたしは超ご機嫌なまま仕事をこなしつつ、夜はリオナール様が夜勤のため早くお仕事を上がることができました。

いつもは早々に寝たりしないのですが、今朝見たリオナール様の接近映像を、やや暴走モードで妄想するために早めに寝台に埋まります。

もう、頭の中でならなんでもやりたい放題。何をやらせてもいいんです! あんなことやこんなこと。ああっ! ついにあの唇をぎゅと接近させて……!!


ええ、わたしは大変幸せです。

リオナール様。あなたのおそばにいる限り、わたしはとっても幸せなんです。だから、どうか変わらない貴方様でいてくださいませ。




数日後、リオナール様が不機嫌でお帰りなさいました。

なんでも、ベアトリクス様に嫌味を言ってきた令嬢がいたそうです。

「即刻排除だ! 作戦をねるぞ、エル」

「……はい」

 多分、というか間違いなく問題ありませんよ、リオナール様。でも、一応どんな作戦になるのかは気になります。


 兄の幸せを守る番犬、それがリオナール様。

 ああ、今日もリオナール様はお元気です。


 



読んでいただきありがとうございます。


執事視点であと1話です。

続編もあるんですが、また書き終わってからにします。

よければその日、また読んでいただけると嬉しいです。

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