不悪(おず)
「これは、不悪と言います。
可愛らしいですね。高山植物の一種です。
ちなみに、普通の不悪は、黒い花を開きますので、白い花は、稀です。
そして、白い花しか、薬草としては使えません。
四葉のクローバーしか使えないようなものです。
四葉は、遺伝子的な変異、つまり奇形ですからね。
この白い花も、奇形と言えるでしょう。
でも困ったことにですね、クローバーと違って、この花は、母数が極端に少ない。
環境にも弱い。
しかもですね、今年の豪雨災害、まあこれは、ばば様から預言されていたんですが、この豪雨災害で、壊滅的打撃を受けました。
ちなみに、この不悪は、悪という遺伝病の治療に使われます。
駆悪の因果は、みなさんご存知ですよね。
2.5倍の速さで歳を取るという因果です。
最近はあまり見かけませんが、周期的に大量に発現します。
なんせ、隔世遺伝ですからね。
彼らは、現実年齢で12歳、体内年齢30歳の時に、悪という遺伝病を、漏れなく発症して、死ぬようにできています。
この悪の治療に使われるのが、不悪なんですね。
これを使うと、治癒率100%ですから、非常にありがたい。
しかし、あまりにも数が少ない。
さらにこの豪雨災害だ。このままでは、白どころか、黒の不悪すら全滅してしまう。
そこで、わたくし境間は、村の智恵者達と、額を寄せ合って、対策を考えたのです。
まあ、ご存知のとおり、村には、休暇の趣味で、大学教授などもしている方々がいらっしゃいますからね。
ある智恵者の一人が提案をしました。
『種を取っておいたらどうだろう』
とても合理的だと思いました。
幸い、人類の科学は進歩していきます。
不悪を発芽させずに、栽培技術が整うまで取っておく。
こうすれば、駆悪の因果の者たちは、遠い将来は、人らしく生きることが出来るようになるでしょう。
別の智恵者が提案をしました。
『外の国から、類系を取ってきて、掛け合わせたら、どうだろう』
酷い案だと思いました。
類系の植物が、どこにあるのか、まず分かりません。
掛け合わせて、不悪の特性が失われでもしたら、目も当てられません。
外来種というのは、総じて傲慢なものですからね。
しかし、鴨と家鴨を合わせて、合鴨が出来るように、変化というものは、悪いものばかりではありません。
気候というものは、大きな時間の中で、移り変わるものですからね。
不悪の育ちやすい気候の時期が到来するまでの、つなぎに、外来種を探すことは、そこまで悪くないのかもしれません。
成功すれば、駆悪たちは、12歳以上の年齢を生きることが出来るのです。
ああ、もちろん、九虚君に治してもらっても良いのですが、これは100年単位の話ですからね。
それで、わたくし境間は、この二つの案をばば様に上奏しまして、結論として外の国から探す事になりました。
と言っても、不悪自体が特殊ですからね。
類もめったに在るものではありません。幻と言っても良いほどのめったになさです。
その効能も神の領域。
つまり、幻の神花という表現が、大げさではないのです。
それでも、智恵者達と奔走に奔走を重ね、やっと見つけたのが、こちらです。
青が綺麗な花でしょう。
南米の火山地帯の花だそうです。
出所は不明ですがね。
というのも、この花の存在が発表されたのは、はい、切り換わりますね。
この、フランスの遺伝子工学学会。外人ばかりですね。
ここでなんですね。で、発表したのは、この、画面中央の、はい、この男性。
カルロス・フィッツ・サントスというお名前の方です。
歳は35歳。
バロセロナ大学遺伝子工学部の教授です。
元々は南米からの移民だそうです。
ここまでの話は平和なんですがね。
わたしたちの村は、このカルロスさんにコンタクトを取って、この青い花の出所を伺う。
それだけのお仕事のはずだったんですが、いささか、きな臭いな、と思う事が、色々と起きました。
まず、こちらの画像。これは、復元されたファイルです。
動画は消されました。
それなりに大きな学会ですし、保管先は多数に渡りますが、その全てから、この学会のビデオは物理的に消されました。
電子保管サーバーにも攻撃があって、やはり記録は消去されています。
それから、カルロスさんは、失踪しました。
わたしたちは、もちろん、彼を探す必要があります。
で、誰がこんな悪戯をしたのだろう、という話です。
犯人は現場にいるものですからね。
画像をくまなく探しました。
すると、ですね。この、端。この人。
学者じゃないんですよ。服装は、一見、係りの人なんですがね。
この方の手首、拡大しますね。逆十字の刺青でしょう。
ちょっと覚えがあるマークでして。で、分かったわけです。
この方、かなり昔、村とやり合った組織、ロシアのカルト教会の方です。
きっちり壊滅させたはずだったんですけどね。世代を越えて、復活していたんですねえ。
いやあ、信仰というものは、本当に恐ろしいものです。
おそらく、データの消去は、この教会のお仕事でしょう。
カルロスさんについては分かりませんが。
というのも、逆忌さんにですね、彼の捜索を案件としてお願いしたんです。
で、逆忌さんは、カルロスさんの、スペインのアパートに赴いた先で、珍しい物を見つけました。
それをわたくし境間に空輸してから、誰かと戦闘をして、負けて心臓を抉り取られて死にました。
で、これが、その珍しいものです。
綺麗な羽根ですね。青い空のように美しい。
しかし、動物に詳しいわたくし境間でさえ、この羽根には覚えが無い。
新種の鳥でしょうか。
と、疑問符を頭に浮かべながら、違和感に気づきました。
煙草の臭いがするのです。
で、飼われていた鳥なのか、はたまた、ということで、遺伝子検査に出してみたんですね。
戻ってきた結果に驚きました。
この羽根は、99.999999999%、ヒトゲノムと一致します。
つまり、ヒトの遺伝子からできた、ヒトから生えた羽根なんです。
おそらく、この羽根の持ち主と、逆忌さんの死には、強い関係があるでしょう。
もちろん、カルロスさんにも。
まとめますと、不悪の維持のために、青い薬草が必要なわけです。
これの情報は、カルロスさんが握っています。
カルロスさんを狙っているのは、ロシアのカルト教会と、おそらく、青い羽根のヒト、です。
彼らか、またはカルロスさんと、潰し合う事になるのでしょう。
この案件の生存確率は25%ですが、皆さんの組合わせが、一番高い。そういう点も含めて、わたくし境間は、皆さんが、ベストメンバーであると信じています。
要は、薬草さえ手に入れば、良いのです。皆さんには、大いに期待しています。全員が生き残る事も含めて、これが最強の布陣だからです」