第7話 パーティー
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銀狼系獣人族と闇長耳系妖精族の混血であるノル。ダークエルフ特有の膨大な魔力を体内に宿すが、魔力を体外に放出する魔術を使えない特異体質であった。
そんなノルは特異体質が原因で持病を患っている。魔力が過剰に体内に溜まることで魔力過多症という病気になってしまったのだ。症状は、発熱、目眩、頭痛、全身の倦怠感等である。一般人であれば苦しい程度であるが、探索者にとっては戦闘中に症状が出てしまうと命にも関わる病気である。
定期的に、魔力の循環を促す薬や魔力を散らす薬を服用するか、定期的に魔道具を使って溜まった魔力を抜き取るかが必要になる。
ノルは、地上にいる時は馴染みの店で定期的に魔力を抜き取っているが、念のため、薬も常備しているのだ。
この前の迷宮探索でそれらの薬を全て失ってしまったので、また迷宮探索に戻るために薬を揃える必要があった。
その為のオーク討伐だったのだ。その結果、ノルは僅か半月で銀貨180枚(小金貨18枚)の報酬を手に入れた。贅沢しなければ、一般人が1年間暮らせるほどの金額である。前回の迷宮探索では事故もあったが半月で小金貨9枚にも届かなかった。
「迷宮探索より儲かっちゃったな……」
考えものである。金を稼ぐために迷宮に潜るのだが、迷宮に潜るための準備に必要な資金を討伐報酬で貯めた結果、迷宮に潜るよりも討伐報酬の方が稼げるのだから。
「いや、男の浪漫だ!迷宮の宝で一攫千金を狙うのだ!」
「……独り言、大き過ぎ」
「ぬあっ!ファノ!なんで居るの?」
「……居たら、いけない?」
「構わないけど……」
ノルは、迷宮管理局内のカフェで探索計画書を書いていたのだが、いつの間にか向かいの席にファノが座っていたのだ。
「どどどうしたの?こんなところで」
「……動揺しすぎ、独り言聞かれたの恥ずかしかった?」
「恥ずかしくないよ!全然!」
「……男の浪漫、ぷっ、くすっ……」
「もう、やめてあげてください。やっぱり恥ずかしいです……で、どうしてここに居るの?」
ノルはどうにか話題を変えようと必死であった。
「……私、迷宮、探索しようかと思って……」
「おっ!いいんじゃない!ファノならすげぇ魔術使えるし……あぁ、でも初めてだよね?」
「……初めてですけど、なにか?」
「ちょっ、なんで怒り気味なの?怒らせるつもりないからね。
俺が言いたいことは、迷宮探索って初めてで1人だと辛いかなぁ~と思って」
実際、ノルがそうだったのだ。何度かパーティーを組んだことがあるが、荷物持ちや雑用だけだったり、凄く蔑まれたり、あまり良いことがなかったのだ。それで、結局、今も1人で潜っている。
「実際、1人だと限界も直ぐだよ。ファノの場合、遠距離タイプだから特に厳しいんじゃないかな?」
「……なんで、1人で潜る、前提なの?」
「あっ……」
ノルは自分の発言を後悔した。自分がいつも持たれている偏見を、あろうことか自分がファノに対してやってしまったのだ。
「ごめん。実は……」
ノルは全てを正直に話した。パーティーを組む場合、気心の知れた仲間同士で組むのが普通で、既にパーティーが出来上がっているところに入るのは難しいこと。普通でも難しいことであるが、ノルやファノにとってはもっと難しい理由がある。
闇長耳系妖精族は皆に嫌われる傾向があり、ノルやファノなど、特にダークエルフの特徴が強く出ている者は、パーティーを組むことが非常に難しいこと。
「……ダークエルフが、嫌われてるのは、知ってる。私、いつも、独りだったし。でも、そうじゃなくて……」
「あれ?そうじゃないの?」
ノルは考える。
ファノは何か言い難そうにしている。
「……だから……」
「だから?」
「……私は……ノルと……」
ここでやっとノルは気付く。
「ファノ、俺と一緒に迷宮探索してみない?色々と分からないことあるだろうから、俺が教えるよ」
「……ぅん、まぁ、ぃいかな……」
上から目線で組んであげてもいいよ、と言いたいファノだが、恥ずかしさ、嬉しさが混じり合い、顔を赤くしながら俯き気味に答えるのであった。
「ありがとう!嬉しいよ。それじゃ、まずはお互いのことをもっと良く知ろうか?」
「えっ!?」
「ここじゃなんだから、俺の泊まってる宿に行こうか」
「えっ!?えっ!?」
◇◇◇
「俺の技能板を見せるよ。詳細も表示しとくね」
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名前:ノル
性別:男
年齢:22歳
職業:迷宮探索者
・最深到達階層:20階層
戦闘技能:☆☆☆
・短剣術:☆☆
・長剣術:☆
・大剣術:☆
・槍 術:☆☆
・棍 術:☆☆☆
・盾 術:☆
・投擲術:☆☆
索敵技能:☆☆☆☆☆
・距 離:☆☆☆☆☆
・暗 闇:☆☆☆☆☆
・遮 蔽:☆☆☆☆☆
野営技能:☆☆☆
・設 営:☆☆☆
・火起こし:☆☆
・野草知識:☆☆☆
・炊 事:☆☆☆☆
・危機管理:☆☆☆
追跡技能:☆☆☆
・距 離:☆☆☆☆☆
・隠 密:☆☆☆
・魔力跡:☆
作図技能:☆☆
・空間把握:☆☆
・作図技術:☆☆
鑑定技能:☆
・鉱物鑑定:☆
・植物鑑定:☆
・武具鑑定:☆
・道具鑑定:☆
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「技能検定受けてないけど、罠の解除や宝箱の解錠もある程度は出来るよ。今度、技能検定を受けるつもり」
「……ふーん」
「何か質問ある?」
「……遮蔽って?」
「これは、遮蔽物、例えば森の中だと木とかだね。それらに視界が遮られていても索敵出来るかってこと」
「……危機管理?」
「野営に適した安全な場所を探したり、その土地で出くわす可能性のある脅威、例えば魔物とかの知識だったり、夜の見張り管理だったり、要は安全に野営出来るように色々と注意できる能力のことだよ」
「……魔力跡?」
「誰しもが持っている魔力って、微量ながら地面とかに残ってることがあるから、それを感知しながら標的を追跡する技術だよ。一応出来るけど、俺は苦手なんだよね」
「……作図技能?」
「迷宮探索では欠かせない地図を作る技能だね。高い金を払えば他の人が作った地図を買えるけど」
「他に質問なければ、次はファノの見せてくれる?」
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名前:ファノ
性別:女
年齢:23歳
職業:魔術研究者
戦闘技能:☆☆☆☆
・風属性魔術:☆☆☆☆
・木属性魔術:☆☆☆☆
調薬技能:☆☆☆
・病気知識:☆☆
・薬草知識:☆☆☆☆
・薬物知識:☆
・調薬技術:☆☆☆☆
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「へぇ、歳上だったんだ。あれ?氷の魔術は?載ってなくない?」
「……氷は、検定、受けてない」
「お、おう。そうか」
何故か不機嫌なファノに困惑するノルであった。
「ファノって、魔力過多症の薬作れる?」
「……余裕」
「おぉ、いいね!実は俺、魔力過多症だから、迷宮探索の時には必ず常備してるんだよね。あれって高価だから、今度からファノに作って欲しいなぁ~なんて……」
「(ふんすっ!)まぁ、いいよ」
嬉しそうなファノ。それなのに少し不機嫌です風を装う。ノルは少しだがファノを理解してきていた。
(ファノは頼られるのが嬉しいみたいだな、素直に感情に出すことが恥ずかしいのかな?なんか小鼻が膨らんで可愛いな……)
◇◇◇
「今日は軽く1階層を探索するよ。戦闘での2人の役割分担を確認したり、探索中のお互いの位置関係や距離も確認しておこう。
あと、技能は取得してなくても出来ることもあると思うんだよね。お互い耳がいいから距離空いてても小声でコミュニケーション取れると思うし、ファノなら簡単な索敵も出来ると思うんだ」
「……うん、やってみよう」
まずは慣らしと言うことで1階層の探索を始める。
「地上の魔物と違って迷宮の迷宮守護兵には臭いがほぼない。生物特有の気配もないから気を付けて」
「うん」
ノルがファノを先導しながら、迷宮での注意事項を話していく。
「1階層から5階層までは、基本的には野山、森、平原だよ。6階層から10階層は山岳、砂漠、深い森なども出てくる迷宮守護兵のタイプは動物型が多い。野犬、兎、鼠、蜥蜴、蛇とか。下の方に行くほど大きな迷宮守護兵が出てくるよ。10階層まで行くと大型の狼とか熊とか」
「動物なんだ」
「動物に似せた擬似生物みたいな……作り物な感じだよ。造魔って呼ばれたりもする。木製だったり、粘土っぽかったり、金属っぽかったり」
迷宮に潜った途端、ファノの喋りが滑らかになってくる。気持ちが乗ってくると喋りも滑らかになるようだ。
ファノの反応を見て、ノルもつい饒舌になってくる。今まで独りで潜っていたが、常々話し相手を欲していたので、その反動が出始めている。
◇◇◇
「お疲れさま。今日はどうだった?」
「……楽しかった」
「いいね。楽しいことが一番だよ」
ファノとしては迷宮探索が楽しかったのではなく、誰かと一緒に協力して何かを成し遂げることが楽しかったのだ。それがノルだったことも楽しさの一因にはなっている。
「戦闘は?」
「……物足りない」
戦った相手は、超小型の迷宮守護兵・鼠と兎である。ファノの本気の魔術の100分の1程度で倒せるのだから物足りないのは当然である。
「だよね。その内、手応えのある迷宮守護兵が出てくる階層に行こうか。疲労は?」
「……大したことない」
「まぁ、1階層だしね。その内、防御面だけじゃなくて、歩きやすさも考慮して装備を変えていこう」
半日もせずに帰還したノル達は、迷宮管理局内のカフェで反省会兼ちょっとした飲み会を行う。
「まぁ、なにはともあれ……新しいパーティーの誕生に乾杯しないか?」
「……うん、する」
こうして嫌われ者の闇長耳系妖精族の2人だけのパーティーが誕生したのだった。
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