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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第1章 妖魔討伐
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第5話 王

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 剛猿系獣人族のジンガは両拳を『剛猿の覇気』で覆い、押し寄せる敵を打ち砕いていく。


 相手は、オークの上位種であるオークリーダー。そのオークリーダー10数体がジンガ1人を取り囲んでいる。


 オークリーダー達は、槍、斧、剣、こん棒などで絶え間なくジンガを攻めるが、どの攻撃もジンガの鉄のような両拳で弾き返される。


 数の多さとリーチの長さで、なんとかオークリーダーの集団が優位に立っているが、徐々にジンガがオークリーダー達を押し返していた。



 ◇◇◇



 斑獅子系獣人族のシンバは2体の屈強なオークに苦戦を強いられていた。


 相手はシンバの倍ほどの身長で、体の厚みは3倍に近い。全身を闇色の金属製鎧で覆っているオークジェネラルだ。


 オークジェネラル1体でもシンバには荷が重いのだが、それが2体である。


 背後を取られないように、挟まれないようにと立ち回るのが精一杯であり、攻撃する隙もない。


 シンバは、助けを求めるつもりもないが、他の二人も手助けする余裕がなさそうである。



「1人で何とかするしかない……

 うぉおおおお!『獅子王の覇気』!」



 シンバはようやく闘気を使う。全身を白い光が覆い尽くす。獅子系獣人族で、王の血脈を持つ者だけが使える覇気である。


 シンバは滅多に使わない奥の手(切り札)をここで使ったのだった。



 ◇◇◇



 黒竜系竜人族のガイルは、身の丈を越える大太刀を正眼に構え、強敵と向き合っていた。


 相手は身の丈4メートルもある巨躯。

 体表は太い針金のような黒ずんだ金色の毛が覆い、刃を通さない。

 丸太のような両腕で構える斧は巨牛と見紛うほどの大きさであり、その一撃は大地を軽々と破壊する。

 大木が地に根を張ったように両足は地面をしっかりと掴んでおり、何をしようとも揺るがない。



「破っ!」



 それでもガイルは立ち向かう。相手が強大なオークキングだとしても。



 ◇◇◇



「うっわ~……すげぇ戦い……これ、俺の出る幕ないような……」


「……私、あの黒いの狙う」



 ノルとファノは、決戦の場となっている大きな広間に辿り着く。そこかしこで戦闘が繰り広げられていた。


 ノルは助太刀を躊躇していた。ファノは迷わずオークジェネラルに狙いを定めていた。


 ファノの紡いだ魔術が白い閃光となりオークジェネラルを襲う。


 この攻撃により均衡が崩れ始める。


 ファノに狙われたオークジェネラルは、慌てて左手の盾を閃光に向け、なんとか魔術を弾く。


 ファノの魔術に気を取られ、体勢を崩したオークジェネラルへ、シンバが渾身の突きを放つ。


 シンバの槍はオークジェネラルの喉を突き破り、絶叫するひまも与えずに命を刈り取った。


 しかし、もう1体のオークジェネラルは、大技を出した直後のシンバを冷静に狙っていた。


 オークジェネラルは、大剣を大きく左薙ぎに振るった。深い踏み込み、長いリーチ、回避し辛い胴への攻撃である。


 シンバは槍を手離し、地面に転がるように大剣を避けるが……

 避け切れずに、左肩を深々と抉られた。


 大剣を受けた衝撃で体勢を崩し、激しい痛みによりその後の動きが僅かに遅れたシンバ。


 その隙を逃さず、オークジェネラルは大上段から大剣を振り下ろす。


 ガキンッと硬質な音が響く。


 オークジェネラルの放った唐竹割りを大剣の根元で受け止めたのはノル。


 ノルの体は淡く金色に発光していた。銀狼の覇気は既に使ってしまい、直ぐには使えなかった。しかし、魔術による『金剛』だけはいつでも使える。


 オークジェネラルの大剣を受け止めたのは交差させた両腕である。


 ノルの棍で受け止めれば、確実に折れるだろうと考えた末に、両腕で受け止めたのだ。



「……死んだ、と思った……」



 ノルには受け止める自信があったとしても、周りから見ると自殺行為に見える。ファノはノルが飛び込んだ瞬間、ノルが死んだと思い、少しチビっていた。



「ぶもぉぉぉぉおおおお!」

「うぉぉぉぉおおおおお!」



 オークジェネラルが大剣を上から押し込む。ノルも最大限の力で押し返す。

 腕力も体重もオークジェネラルの方が圧倒的に上だが、その力比べは互角であった。



「どうした?そんなもんか?」

「ぶもぉぉぉぉおおお!」



 ノルはオークジェネラルを挑発する。


 それまで冷静にシンバと戦っていたオークジェネラルであったが、いとも簡単にノルの挑発に乗ってしまう。

 こんな単純な力比べに負ける筈がない。

 矮小な存在に負ける筈がない。

 下手にプライドの高いオークジェネラルはこの力比べに負ける訳にはいかなかったのだ。


 力比べのカラクリは単純である。ノルは体を一つの鉄の塊のように硬化させている。オークジェネラルが大剣で押しているのは鉄の塊とそれを支えている地面である。地面に足を着けた者が上から腕力によって押し込むとしても、相手が地面ならば始めから勝負にならないのだ。



「そんなもんか?ジェネラルって大したことないなぁ?」



 更に挑発するノル。



「ぶもぉぉぉぉおおお!」



 力を入れすぎ、どこかの血管が切れたのか、鼻血をたらしながらも奮闘するオークジェネラル。


 その隙にファノが仕掛けていた魔術が効果を表してくる。



「ぶもぉぉおお?」



 オークジェネラルは下半身の違和感に気付く。下半身が動かないのだ。


 地面から足が離れない。膝が曲がらない。腰も捩れない。


 地面と下半身が物理的に繋がっていたのだ。凍り付いている。


 それが下半身にとどまらず、胸まで凍らし、肩から腕も凍らし、首も凍らし、やがて頭も凍り付いていた。



「てりゃ!」



 ノルが力を込めて凍り付いたオークジェネラルを蹴ると、そこから罅が入り、全体に広がり渇いた音を立て砕け散った。



「ふぅ。

 ファノ、助かったよ。ありがと」

「……ん、いいよ……」


「リーダーは大丈夫か?」

「なんとか……」



 シンバが持っていた治療薬で表面の傷を塞ぎ、なんとか出血を止めることは出来たが、肩の傷は想像以上に深く、筋肉も骨も断たれたままであった。



「……さぁ、次に向かおうか。最終決戦だ」



 左腕が使えないシンバであるが、気丈に振る舞い、残っている右腕で槍を掲げ、オークキングを指し示した。



 ◇◇◇



 オークリーダーどもを蹴散らしたジンガ。素早く戦況を確認し、不利そうなガイルへと駆け付ける。


 ガイルへと大上段から巨大な斧を振り下ろしたオークキング。攻撃してみろとでも言うように隙だらけであった。


 ジンガはその隙だらけの脇腹へと渾身の右ストレートを放った。


 まるで金属で出来た地面でも殴ったかのような手応えに思わずジンガの顔が歪む。


 オークキングはそんなジンガをひと睨みする。


 怯んだジンガは大きく後ろに飛び退く。



「なんてぇ堅さだよ。生き物とは思えねぇな」


「ジンガ殿、助太刀無用と言いたいところだが、そうも言ってられぬ。情けないことに拙者の太刀はもう役に立たないのである」



 ガイルは、オークキングの攻撃を太刀で受けることはせず、全てかわしている。


 何度も斬りつけただけなのだ。


 何度も何度も、隙だらけなオークキングを斬りつけたのだ。結果、オークキングにはダメージを与えられず、太刀が刃こぼれしていく。



「拙者には相性が悪いのである」



 オークキングには斬擊が効かない。ガイルは、それを痛いほど思い知らされた。



「なるほど。だが、オイラの打撃も効いてるのか分からねぇな」



 先ほどの感触からは、渾身の攻撃でさえも、あまり効いてるようには感じられなかったのだ。



「ジンガ殿、ヤツの攻撃は拙者が引きつける。隙を見計らって攻撃をお願いしたい」

「おうよ!」



 ガイルは、オークキングの正面に立ち、オークキングの注意を引き付ける。

 ジンガは、ガイルの数歩後ろに立ち、オークキングの動きを注視する。


 オークキングの動きに合わせ、ガイル、ジンガが動き出す。


 オークキングは、両腕で巨大な斧を地面と水平に薙ぎ払ってくる。


 ガイルはギリギリまで引き付けてから素早くバックステップし、後ろに大きくかわす。


 ジンガは直ぐに斜め後方に下がり、巨大な斧が通り過ぎた瞬間にオークキングの横へと飛び込み、足の間接を中心に打撃を叩き込む。右フック、左フック、少し溜めてからの右ストレート。全てをオークキングの右膝へと叩き込んだ。


 だが、オークキングには効いていない。まるで小蝿を振り払うかのような仕草で、ジンガを払い除ける。


 軽く振るわれた腕であったが、それに当たったジンガは凄まじい勢いで吹き飛んでいく。


 数メートル飛ばされ、地面にバウンドし、数回転しながら地面を滑っていくジンガ。



「くぅ……効いたぜ……肋骨イッたかも」



 受け身をとったので、地面に衝突したダメージはさほどないのだが、オークキングの腕に当たった胸部には多大なダメージがあった。

 ジンガは文句を垂れながら、即効性の治療薬を取り出し飲み干す。即効性の治療薬といっても、直ぐに折れた骨がくっつく訳ではない。ずれた骨を自力で元の位置に戻すジンガ。安静にしていれば数分で骨がつき始めるが、安静にしている余裕はない。



「ジンガ殿、大丈夫か?」

「おうよ、なんとかな」



 そこにシンバが駆け付ける。



「ジンガ、ガイルさん、待たせたね」

「別に待ってねぇぜぇ」

「シンバ殿も負傷しているな。攻撃に支障は?」

「あるね。攻撃を避けるだけならなんとか」



 太刀が刃こぼれしているガイル。肋骨を折ったジンガ。左肩が動かないシンバ。

 3人ともに自分らが持ち得る最大威力の攻撃を放てない状態であった。



「仕方ない。拙者らはヤツの注意を引くしかなさそうであるな」



 ◇◇◇



(矮小な人間が我の領分(テリトリー)を荒らしにきた。情けないことに将軍(ジェネラル)等は葬られたようだ。子供等も随分とやられたようだ。また一からやり直し。子作りからだ。腹立たしい。茶番もそろそろ終らせるべきだな)



 オークキングにとっては負ける見込みが皆無である。戦闘中であろうと気を逸らそうと負ける筈がない。何故なら、矮小な存在ではオークキングに傷を負わすことも出来ないからだ。


 油断や慢心ではない。これらの矮小な存在は敵にもならない存在なのだ。蟻が象に挑むようなもの。気付かないうちに踏み潰すような存在なのだ。


 ガイル、ジンガ、シンバは必死にオークキングの攻撃を避けていた。だが、3人に興味を失い、早急な復興に気持ちが向いたオークキングはこの茶番を終わらすことにした。


 オークキングは体を捻り、巨大な斧を大きく後ろに引く。そこから弧を描くように左薙ぎの斬擊が放たれる。


 モーションが大きく避けるのは容易い筈だった。今まで通りの攻撃であれば。



「なっ!」



 ガイルはこれまで通りにギリギリまで引き付けてから、素早いバックステップで避ける筈であった。

 やや後ろにいたジンガとシンバは数歩下がれば攻撃の範囲外になる筈であった。

 だが、オークキングの巨大な斧は薙ぎ払うのではなく、そこから投げ出されたのだ。


 巨大な斧に3人は巻き込まれ、遥か後方まで吹き飛ばされていく。



「拙者達の勝ちであるな」



 吹き飛ばされながらもガイルはそう呟いていた。



 ◇◇◇



「……時間が掛かるから」

「分かった。集中してくれ。ファノの身は俺が守るから」

「……お願い」



 オークキングとガイル達3人が戦っているところから数十メートル離れた所で、ファノは大魔術の準備をしていた。


 オークキングの背後であり、ガイル達からは正面にあたる。ガイル達はファノが複雑で強大な魔術を組み上げているのを視認していたが、オークキングは一切気付いていなかった。



 ガイル達が巨大な斧とともに吹き飛ばされた時、ファノの魔術が完成していた。



絶対零度の監獄(アブソリュート・ゼロ)!」



 ファノの詠唱とともにオークキングの足下に巨大な魔方陣が浮かぶ。急速に熱を奪い、氷の柱が立ち並ぶ。一瞬で凍てついた監獄が出来上がる。


 オークキングの巨躯を凍り付かせ、心臓をも一瞬で停止させる。この監獄の中では、あらゆる物理現象が時を止めるのだ。



「すっすげぇ……」



 巨大な氷の彫刻が出来上がっていた。巨大な氷の柱に囲まれ、檻の中には巨大なオークキングの氷の彫刻が仁王立ちしているのだ。壮観であった。いかなる芸術作品をも凌駕する彫刻。まるで生きていて動き出すかのように。



「……ノル、まだだよ。生きてる、から。止めを……」

「フ、ファノ?大丈夫か?」

「……暫く、動け、ない」



 ファノは術を組み上げていく時から既に魔力が切れており、途中、何度も魔力回復薬を飲み干していた。魔術を行使した現在は魔力は切れていないが、身体にも精神にも相当な負荷が掛かっていたため、暫くは動けないのだ。



「よ、よーし。俺が止めを刺して来よう!行ってくるよ!」



 とは言ったものの、どうやって止めを刺すか悩むノル。


 近付いただけで凍り付きそうな程に寒い。檻に触れば手が凍り付きそうなのだ。

 それに、今にも動き出しそうなオークキングに、出来れば近寄りたくなかったりする。



「あ、思い付いた!」



 投擲である。ナイフや石などを投げて氷の彫刻を壊せば良いのだ。だが、あれほど巨大な彫刻を壊すには、それ相応の巨大な何かを投げなくてはならない。



「あった……」



 オークキングが使っていた巨大な斧である。ガイル達3人を巻き込んでかなり遠くまで飛ばされているが、あれが大きさといい、重量といい、丁度良いのである。



「大丈夫かい?薬は置いとくよ。まだ生きてるようだから、止めを刺してくる。少し待っててくれ」



 ノルの持っている安価な治療薬では気休め程度にしかならない。おそらく3人が持っている治療薬は割れてしまっているだろう。ファノのところに治療薬を取りに行く必要があるのだが、幸い3人とも致命傷は受けてない。

 ノルは3人の治療よりもオークキングの止めを優先した。


 巨大で重い斧を引き摺るノル。

 こんなものを勢いをつけて投げ飛ばすのは普通であれば無理。今も持ち上げることすら出来ずに引き摺るので精一杯なのだ。だが、手はある。



「『金剛』『銀狼の覇気』」



 闘気も多少回復はしているが全快には程遠い。もって10数秒。

 ノルは巨大な斧を持ち上げ回転する。回転速度を上げ遠心力を付ける。ギリギリまで力を溜めて一気に放つ。


 これが外れたら他の手を考えるしかない。そう思いながら飛んでいく巨大な斧を見送るノル。


 巨大な斧は氷の柱を薙ぎ倒し、オークキングの氷の彫刻へとぶち当たる。当たった場所は腹から腰の辺り。そこは砕けたのだが、他は無傷。

 的がデカ過ぎて、あれほどの巨大な斧でも一部にしかダメージを与えられない。

 失敗したかと諦めかけたノル。

 しかし、オークキングの腰の辺りから罅が走り、全身に至ると……


 渇いた高音を響かせ粉々に砕け散ったのだった。



「おぉ、なんか綺麗じゃないか」



 砕けた氷が辺りを舞い、幻想的な景色を生み出していた。


 その時、キラリと輝く何かがノルに向かって飛んで来る。


 かなりの勢いで飛んで来た何かをオークキングの最後の攻撃と思い込んだノルは必死に避ける。


 ノルの後方に転がった輝く何か。

 ノルは恐る恐る近付いて、輝く何かを拾い上げるのであった。



「何これ?」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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