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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第1章 妖魔討伐
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第4話 オーク

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(……おぉ!おいおいおいおいおい!いきなり当たりじゃないか、これ!)



 ノルは追跡していたオークの向かう先に複数のオークらしき気配を捉えていた。


 巣であれば、通常10体~20体程度、多くても30体の集団である。リーダーとなるオークがハーレムを築いた一つの集団である。

 それよりも大きなものが集落。70体~100体程度、多くても150体の集団であり、幾つかのハーレムが集まったものだ。希に廃村や廃砦に幾つもの集落が集まった数百~千体規模の大集落が出来上がることもある。その規模を率いるリーダーを人はオークキングと呼んだりする。


 で、今、ノルが捉えている気配は少なくとも100体以上。100体を越える規模の集落を殲滅するのはかなり難易度が高いが、幾つもの小さな巣を叩くよりは手間が省ける。


 ノルは早速ハンドシグナルで後方へ情報を送り、その場で暫く待つ。



「ノル君、どうだい?」



 リーダーのシンバが聞いてくる。シンバを含め、やってきた4人の瞳はとても輝いていた。



(あ~この人達は、全員戦闘狂なんだね、分かってたけど)



 戦闘技能の☆の数はその者の戦闘能力の高さを表すものでもある。☆1つであれば、単独で小鬼(ゴブリン)数体を倒せる程度の強さ。☆2つであれば、単独でオークを倒せる程度の強さ。☆3つであれば、単独でオーク数体を倒せる程度の強さ。☆4つであれば、単独でオークの巣を殲滅できる程度の強さ。☆5つであれば、単独でオークの集落を殲滅できる程度の強さである。

 この5人の中で一番戦闘技能の低いノルでさえ☆3つである。☆4つが3人に、☆5つが1人いるのだ。

 ここまでは退屈だったのだろう。ノル以外の4人は、大きな集落を見つけ、ようやく退屈が凌げるとでも期待しているような瞳であった。



(どうせ、みんな、我先にと行くのだろう。俺は後からちまちま稼ぐとするかな)



 ◇◇◇



 剛猿系獣人族のジンガの咆哮が響く。


 近くにいたオークどもは一斉に振り返り、直ぐにこちらのパーティーが見つかる。


 飛び出していたジンガを斑獅子系獣人族のシンバが追い抜き一番槍を狙う。


 更にシンバを追い抜き黒竜系竜人族のガイルが突撃する。


 先制したのは闇長耳系妖精族(ダークエルフ)のファノの氷の暴風(アイスストーム)


 目に見える範囲のオークどもが氷の暴風に襲われ血飛沫が舞い上がる。


 氷の暴風がおさまりきらない内に、その暴風の中にガイルが突っ込んでいく。


 ガイルはそこらのオークには目を止めず、更に奥へと突き進む。


 追い付いたシンバは負傷したオークどもに止めを刺していく。


 ジンガはガイルを追うようにシンバの横をすり抜け奥へと急ぐ。


 シンバはジンガに抜かれると止めもそっちのけで慌てて奥へと向かう。



「おいおい、どーなってんのよ」



 ノルは呆れ半分に止めを刺されなかったオークどもを仕留めていく。


 暫くすると、その場に転がっているオークの死体だけでも10体は軽く越えていた。



「討伐証明は……あとでいいか」



 ノルは追い付いてきたファノとともにガイル達を追いかけ奥へと向かって行った。


 ノルが奥へと進むにつれ、そこら辺に転がるオークの死体が増えていく。ガイル達の通った道が分かりやすく、ノルは追うのが簡単でいいな、と場違いな感想を浮かべていた。



「なぁ、ファノ。なんでリーダー達は奥に急いでるんだろうな?」



 ノルはファノに疑問を投げる。特に答えを期待した訳ではなかった。



「……知らないの?」


「ん?なんか知ってるのか?」


「……さぁ……」



 明らかに何かを知っている様子のファノだが、答えるつもりはないらしい。



「まぁいいや。俺はちまちま残りのオークを狩って行くけど。ファノはどうする?」


「……私、ゆっくり行くから」



 ファノは、もともと単独で突っ込む戦闘スタイルじゃないしな、とノルは納得しファノと一緒に残っているオークどもを狩っていく。



 ◇◇◇



「グアオオオオオオォォォォォォオオオオオオオオオ!!」



 突然、地響きのような咆哮が辺りの大気を揺るがした。耳の良いノルとファノは耳を塞ぎ、うずくまりそうになった。



「……なんだ?今の……」


「……おそらく、オークキング」



 今度はノルの疑問にファノが答える。オークキングと言えば、戦闘技能☆5つの者でも単独では敵わないと言われるほどの強敵である。それ以前に、オークキングが居るならば、この集落の規模は100や200どころではない筈であり、更にオークジェネラル等の強敵も存在する筈だ。



(ヤバくない?俺、帰ろうかな……)



 オークキングの強さは戦闘技能☆5つの者が数人分と言われており、オークジェネラルの強さは戦闘技能☆5つの者が1人分と言われている。戦闘技能☆3つであれば、せいぜいオークリーダーと渡り合える程度である。完全にノルの出る幕ではない。



「ファノはどうするつもり?」


「……このまま、行くけど?」



 まさか同じくらいの若さの女性を1人で向かわせる訳にもいかないとノルは考え、結局、このまま奥へと向かうことにした。



 ◇◇◇



「……凄い数だな」


「……200以上」



 ノルとファノの視界には、人垣と言うかオークの壁が立ち塞がっていた。どのオークもノル達に背中を見せているので、まだノルもファノも気付かれていない。



「……私の魔術で何とかする」


「お、おう。頼んます」



 ノルは素直にファノに道を譲る。


 ファノが瞬時に術を紡ぐと大量のオークどもへと氷の矢が降り注ぐ。

 氷の矢は10や20どころではなく、毎秒30本程度の矢が止まることなくファノの手から発射されている。



「す、すげぇ……」



 ノルが素直に驚き、尊敬の眼差しをファノに送る。それを感じ取ったのか、普段は感情を表さないファノが、小さな小鼻を広げ、ふんすっと自慢気な顔になっていた。だが……



「……ちょっと力使いすぎたかも……」



 突然、氷の矢が止まると、ファノがふらついて倒れそうになる。



「おっと!大丈夫か?」



 ノルは、倒れそうになったファノを後ろから抱き止める。調子に乗り、明らかにオーバーペースで魔術を放っていたファノは、魔力切れ寸前であった。



「顔色が悪いな……少し休憩してくれ」



 生き残ったオークどもは、氷の矢がおさまったことで、そろりそろりと動き出していた。やがて、氷の矢が来ないことに確信を持ったオークどもは、ノルとファノに向かって走り出す。その数はざっと30体程度。



「ようやく俺の見せ場だな。まぁ見ててくれよ」



 ノルはファノを優しく地面に横にし、気合いを入れる。


 ノルは放出系の魔術は使えないが、己の身体に影響を与える魔術であれば少しは使える。



「金剛!」



 ノルの身体が淡く金色の光を纏う。身体強化系魔術の一つで、身体を金属のように硬化させ、防御力、耐久力を上げる魔術だ。


 更に……



「銀狼の覇気!」



 獣人族が得意とする闘気を使った身体強化であり、銀狼系獣人族特有の『銀狼の覇気』により、一時的に筋力、俊敏性、持久力を底上げしたのだ。


 魔術による『金剛』と闘気による『銀狼の覇気』によってノルの身体は淡い銀色に発光していた。



「かかってこい!」



 ノルはオークどもを挑発しながら、向かってくるオークどもの中心へと向かう。オークどもの関心を自分に向けるとともに、戦闘となる場所を少しでもファノから遠ざけるためだ。



 ◇◇◇



 オークどもは、ノルを中心に弧を描くように周りを囲み近付いてくる。


 ノルとオークどもの距離はおよそ3メートル。


 ノルは半円を描くように棍を水平に薙ぐ。


 届かないと見誤ったオークはその鼻面に棍の一撃をもらう。


 ノルは、僅かな時間であったが、怯んだオークの隙を見逃さず、連続で突きを放つ。


 一瞬で前方にいた5体のオークが戦闘不能に陥ったが、オークどもの勢いは止まらない。


 倒れた仲間を踏み越えて、飛び掛かるようにノルへと殺到する。


 ノルは棍を利用して飛び掛かってくるオークどもの更に頭上へと飛び上がる。


 オークどもは空中でノルを追うように仰け反り、手に持ったこん棒や剣を振るう。


 どれもノルには掠りはせず、逆にノルの棍がオークどもの鼻面、目、頭頂部に突き刺さる。


 ノルはバランスを崩したオークの背中に着地し、そこから大きく飛び上がる。


 ノルの着地を狙って突っ込んで来ていたオークどもは勢いを止められずに、仲間同士で衝突する。


 オークどもの背後に降り立ったノルは、着地と同時に、下段の右薙ぎ、中段の左薙ぎ、喉元への突きを連続で放つ。


 この僅かな時間で、オークどもはその数を半分にまで減らしていた。


 オークどもは少し躊躇し、馬鹿みたいにノルへ突っ込んでいくのをやめる。



「はぁ?どうした?臆病なブタめ!かかってこい!」



 ノルはちょいちょいと指を折りオークどもを挑発する。



「ふぐぉぉぉぉおおお!」

「ぶもぉぉぉぉおおお!」



 挑発されたことを理解したオークどもは、雄叫びあげながらノルへと殺到する。


 ノルは冷静に突っ込んでくるオークを回避し、すれ違い様に一撃を入れていく。


 致命傷にはなっていないが、徐々にオークどもの動きが悪くなり、数分後には動けるオークは居なくなっていた。



「なんとか間に合ったな……相手が阿呆で助かった」



 ノルが使用した『銀狼の覇気』には時間的な限界があった。まだまだ闘気を鍛えられていないノルでは5、6分の使用が限界だったのだ。

 もし、オークどもが様子見に徹していたら、負けはしなくてももっと手こずった筈だ。

 容易に挑発に引っ掛かるオークで良かったと安心するノル。



「っっ!」



 直ぐ近くで魔術の着弾があり、驚くノル。


 振り向くと背後のオークに氷の槍が突き刺さっていた。



「……油断大敵」



 いつの間にか復活していたファノが、ノルの背後から襲い掛かろうとしていたオークへ魔術を放ったのだ。



「おお、サンキュ。あれ?魔力切れじゃなかったの?」


「……薬、これ必須」



 ファノは左手で空いた小瓶を振って見せる。魔力回復薬である。それも即効性があり回復量の多い、とても高価な薬である。



「そうか、回復したなら良かった。それじゃ、行こうか」


「……ぁ、まもっ……れて、ぁ…が…と…」


「ん?どうした?何か言った?」


「……何でもない。うん、行こう」



 ノルは、当初、ファノの表情から何も読み取れなかったのだが、少しだけ感情が読み取れるようになってきた。



(無表情に見えるけど、感情はあるのか。少し照れてたな。なんだか少し可愛いかも)



 殺伐としたオークの集落には似つかわしくない雰囲気の二人。オークどもの死体を乗り越えて奥へと向かうのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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