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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第5章 神秘の迷宮
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第39話 神秘の迷宮

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 見渡す限りの平野。緑の絨毯が何処までも広がる。遠くにはぽつりぽつりと低木が見える。太陽は何処にも存在しないのに晴れ渡る青空。



「懐かしいな~この景色!この空気感!この雰囲気!」

「1階層は殆ど変わらないのね」



 ノルとファノは神秘迷宮の1階層に降りてきていた。


 1階層の入口から緑の絨毯を切り裂くように延びる一本の茶色い道。多くの冒険者が真っ直ぐに2階層を目指すために、踏み固められた道が出来上がったのであろう。


 1階層で現れる迷宮守護兵(ガーディアン)は、鼠や兎などの造魔である。得られら素材は屑魔石だけであり、殆どお金にはならない。その為、多くの冒険者が1階層を素通りするのである。



「ノル、私たちはどうする?」

「いつも通り行こうよ。まずは、この階層を隈無く探索して地図を完成させよう」



 ノルとファノは、思いがけない稼ぎがあり、当面はお金には困らない予定である。急ぐ理由もないので、いつも通り、1階層ずつ、隈無く探索して踏破していくのであった。



 ◇◇◇



 ノルとファノが迷宮に潜り始めて3週間が過ぎる。二人は、情報収集の傍ら、迷宮探索も順調に進めており、先ほど10階層の豚頭鬼(オーク)型の造魔である階層守護者(フロアマスター)を倒したところだ。



「次からはいよいよ中層だ。敵も強くなってくるけど、稼げるようにもなるから」

「ようやく、ギリギリの生活から脱却できるわね」

「面目ないです……」



 レーツェルで神秘迷宮に潜りながらダイジの情報を集めていたノル達。潤沢にあった筈のお金がいつの間にかなくなってしまい、毎日ギリギリの生活を送っていた。

 それは、あまり稼ぎの良くない低層を1階層ずつ丁寧に探索していたため、日々の収支が常に赤字となり、少しずつ貯金を切り崩した結果である。



「低層は飛ばしても良かったかな……」

「ギリギリだったけど、別に貧相な生活ではないから、良いんじゃない?これから、黒字に変わると思うし。それに、知らない迷宮なんだから慎重で良いと思うわよ」



 落ち込むノルを、ファノが励ます。ファノにしても、自分がしっかりと金銭管理のフォローをしようと思っていたのに、全く力になれず、後ろめたい気持ちもあったのだけど。


 そんな感じで喋りながら迷宮管理局に仲良く戻って来た二人。帰還報告を行い、報告書を提出すると、隣接するカフェでお茶をする。



「よぉ!ノル、ファノ!今日も仲良くお茶会か?」



 そんな二人に声を掛ける男。



「ホグスか、久し振りだな!1週間振り?」



 名はホグス。神秘迷宮ではノル達の先輩にあたる冒険者である。茶髪茶目で中肉中背の普人族のおじさん冒険者である。



「あぁ、1週間振りだな。俺たちは、潜るのは1週間って決めてるからな」

「深層には挑戦(アタック)しないのか?」

「俺たちは、己の実力をわきまえてるからな。無茶はしねーよ」



 ホグスがリーダーを務めるパーティーは『鉄の門(アイアンゲート)』。神秘迷宮の中層を探索する冒険者パーティーである。若い頃は果敢にも深層に挑戦(アタック)を試みていたのだが、いつしか無謀な挑戦をしなくなっていたのだ。



「そっちは順調か?」

「まぁ、スローペースだけど、着実に。今日で低層もおしまいだよ」

「やるじゃねぇか。ノル達の攻略方法を聞いた時はもっと掛かると思ってたよ」



 ホグスは純粋に驚いた。階層の隅々まで探索して、この短い期間で10階層をクリアしたのだ。自分達とは根本的に違うのだと理解する。



「この調子だと、あと数ヶ月で36階層を突破しそうだな?」

「まぁ、俺らはいつまでここにいるかわかんねぇから、何とも言えないけどな」



 神秘迷宮の最深到達階層は36階層である。ノルとしては、ダイジの情報を集めることが主の目的であるから、迷宮攻略に深くはまることは出来ない。



「あぁ、そうそう、ノルが言ってたダイジらしきヤツを知ってるヤツがいたぜ」

「やった!その人、紹介してくれるか?」

「いいぜ。あぁ、だが、そいつといつ会えるか分からねぇな。そいつ、深層を攻略中のヤツなんだよ」



 深層を攻略しているとなると、短くても1週間、長いと1ヶ月以上は潜りっぱなしになる。それは、ノルも経験上わかっている。更に、ホグス達の予定と合わせるとなると、本当にいつになるか分からない。



「……じゃあ、その人の名前と容姿とパーティー名と……何階層を攻略中か教えてくれるか?」

「良いけど……まさか、迷宮で探し当てるつもりか?」

「地上で待ってても、いつ会えるか分からないだろ?

 だったら、無駄かも知れないけど、迷宮に会いに行ってみるよ」



 ノルの発言の裏には、最近、情報が集まらないことも関係していた。ここでの情報収集も潮時かと思い始めたタイミングだったのだ。有用な情報を持ってる人がいるなら、会いに行ってみよう。決して迷宮探索に力を入れたい訳ではない。



「ノル、はまり過ぎないようにね」

「分かってるよ」



 ファノに釘を刺されるノル。



「ふふ。これで俺らはあっという間にノル達に抜かれる訳だ。あ~あ、俺らも深層に挑戦(アタック)してみるかな~……まぁ、しないけど」



 目を輝かせているノルを見て、ホグスは眩しそうに目を細めるのであった。



 ◇◇◇



「ファノ、あっちに冒険者が居るよ……3人組だ。当たりかな?」

「男、女、女か。おそらく、そうじゃないか?」



 ノル達は中層をかっ飛ばし、2週間で20階層を突破すると、深層を探索し始める。深層を探索し始めて更に10日。22階層で目的の冒険者らしきパーティーを発見した。



「すんません、『神の鉄槌(ゴッドハンマー)』の方々ですか?」



 ノルは相手を警戒させないよう、適度な距離を取ったまま、3人組の冒険者パーティーへと声を掛ける。



「……そぅ、だけど、君は?」

「ノル、と言います。『鉄の門(アイアンゲート)』のホグスの知り合いで、バラックさんの事を聞いて」

「まさか、態々、迷宮の深層まで会いに来たのかい?」

「ははっ、まさかこんなに早く会えると思いませんでしたけど」



神の鉄槌(ゴッドハンマー)』のバラック。金髪碧眼の色男。ノルより僅かに背が高く、細身だが筋肉質。鮮やかな長剣を腰に差している。両隣には、金髪蒼眼で色白の美女と、金髪碧眼の美少女がべったりとくっついている。勘違いしそうだが、ハーレムパーティーではなく、美女と美少女はバラックの妻と娘である。



「君がノルくんなら、そちらの女性はファノさんかな?」

「そうですが……なぜ、それを?」

「数週間前にホグスさんと17階層で会ってね。有望な冒険者の二人組の話をされたよ。確か、ダークエルフの二人組で、ノルくんとファノさんだって言ってたな」

「有望なんて、恥ずかしいですね」



 何となく打ち解け始めたノル達。立ち話もなんだからと、迷宮探索を切り上げて地上でご飯でも食べながら話そうということになる。



「態々、すんません」

「僕らは構わないよ。もうすぐ戻ろうって話してたところだし」



 イケメンは顔だけではなかったようだ。バラックは、見た目だけでなく中身も爽やかで素晴らしい人物である。


 こうして、地上に戻った5人は、それぞれ帰還報告を済ませると迷宮管理局に隣接するカフェで、軽食とお酒を頼む。



「で、ノルくんの聞きたいことは、ダイジくんのことで合ってるかな?」

「まさに、その通りです。やはり、知ってるんですね?」

「あぁ、知ってるよ。とは言っても、僕が知ってるのは8、9年前のダイジくんの情報だけどね」



 その後、バラックが語ったダイジの情報は、

 11年前にレーツェル国が異世界より召喚した6人の勇者の1人。9年前に勇者たちが神秘の迷宮で訓練を行った際に、バラックたち数人の冒険者が付き添った。ダイジは地属性魔術を使う目立たない勇者であったらしい。



「その後の噂だけど、6人居た勇者達から2人が脱落したらしいよ。噂だから確証はないけど、その脱落した2人のうちの1人がダイジくんっぽいね」



 その脱落した2人は行方不明となり、残りの4人は、5年前に魔人族の大陸へと渡り魔王討伐を目指したらしい。

 ただ、未だに4人とも帰還しておらず、魔王討伐を果たしたのか、志しなかばで倒れたのかは不明。現在、ここレーツェルに残っている勇者は居ないと言うことだった。



「ダイジの出自は分かったけど、ダイジの目的は何だ……

 何となく、神秘のメダルを集めているようだけど……」



 メダルの情報を追うように世界各地を移動しているダイジ。では、何故、神秘のメダルを集めているのか……



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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