第37話 東方の国
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルフ大陸の北部のネライダ地方と北東部のファートゥル地方を分け隔てるのは、地竜山脈。その地竜山脈を東西に穿つ洞窟を東に抜けると、森に出る。
ノルとファノは、地竜系竜人族と別れ、その森に居た。
この森からは、普人族の領土であるファートゥル地方となる。
この森にも、硬い土で舗装された道があったため、それを東に辿るノル達。5日程で森を抜けると、広大な平野が広がっていた。
そして遥か彼方にうっすらと浮かび上がる巨大な建造物。
「何あれ?」
「……分からないけど、壁?」
「確かに壁っぽいな……」
ノルとファノは、とりあえず、それを目指して更に東に歩いていく。
道中は小鬼や狗鬼等の低級の妖魔が出現するが、中位以上の妖魔や魔獣とは遭遇しない。
そして、巨大な建造物を目指すこと1日半。広大な畑の向こうに聳え立つ、高い城壁に囲まれた普人族の国、レーツェルであった。
レーツェルの西の門に着くと、街中に入るための列に並ぶ。思ったよりも列は長くなく、ノルとファノの番は直ぐに回ってくる。
「何者だ?」
「大陸北西部の獣人族国家ノースグラスから遥々やってきました。ノルと」
「ファノです」
「身分証はあるか?」
レーツェルの入口で衛兵に止められるノルとファノ。ここもすんなり通れないのかと半分諦めていたが……
「とりあえず、迷宮探索者の登録証ですけど……」
「どれどれ……うむ、通ってよし」
思わず、えっ?いいの?と問い返しそうになるほど、あっさりと通ることが出来たノル達であった。
◇◇◇
「す、すげぇ……」
「……圧倒的……」
ノル達のホームタウンであるノースグラスも、かなり栄えた街ではあるのだが……
レーツェルは規模が違っている。
大通りの広さはノースグラスの2倍以上。建ち並ぶ建造物は、どれもノースグラスの迷宮管理局と同じくらい大きい。
そして、大通りの行き着く先を見ると、黒くて巨大な建物が建っている。
大通りの賑わいも圧倒的である。通りに居る人の数。並ぶ露店の数。そして、活気。
田舎者が突然都会に出てきたかのように、辺りをキョロキョロと見回すノルとファノ。
「おう、兄ちゃん達、レーツェルは初めてか?」
そんなノル達に話し掛ける露店のおっちゃん。
「はぁ、初めてなんですが、凄いですね!」
「ははっ、ここに初めて来るヤツは大体同じリアクションだよ。まぁ、直ぐに慣れるって。それより、この串焼き買わねぇか?安くしとくぜ」
ほいほいと串焼きを買わされるノル。その後も唐揚げ、酒、焼き芋、果実等々、持ち切れないほど買わされるノルであった。
阿呆みたいに買わされたノルだが、やることはしっかりとやっている。買い物と同時に情報の交換もしているのだ。
ここまでで手に入れた情報を整理すると……
レーツェルは別名、迷宮都市とも呼ばれている。その名の通り、レーツェルにはノースグラスの神造迷宮にひけを取らない大きな迷宮がある。その迷宮の名は『神秘迷宮』。
レーツェルの国自体が迷宮を中心に作られており、街のど真ん中には立派な迷宮管理局の建物が建てられている。
街の南区には城や貴族の屋敷が建っており、この国の王や貴族が住まう貴族区。中央区は、迷宮管理局、冒険者協会、商人協会を中止に、様々な商店が建ち並ぶ商業区。西区、東区は、国民が住居を構える一般区。北区は冒険者向けの宿屋や酒場が建ち並ぶ冒険者区。そのように区切られていた。
中央地区のど真ん中には迷宮管理局を含むデカイ建物群があり、その周囲は広場となっている。その広場から東西南北に向かって伸びる大通りにはびっしりと出店が並び、人通りもかなり多い。
「へぇ~、あの黒くてデカイ建物は、迷宮の入口であって、更に迷宮管理局なんだな。ノースグラスとは本当に規模が違うぜ……」
「ノル、目的忘れないでよ?」
迷宮に惹かれ、ダイジという目的を忘れそうなノルに釘を刺すファノ。
「大丈夫、忘れてないよ。とりあえず、このまま情報収集を続けようか」
「その前に宿を取って荷物を置くべき」
「確かに、これ以上は持ち切れないしな」
一旦、宿を取り荷物を置くと、ノルとファノは再び情報を集めに街へと出ていくのである。
そして、ノル達は、丸二日を情報収集に当てた。その結果、次のような情報を集めたのだ。
◇レーツェルの周辺情報◇
西は地竜山脈、北は海峡を挟んで魔人国、東は大海、南は湖、首都レーツェル周辺は肥沃な大地。
レーツェル国は首都レーツェルの他に二つの大きな街がある。東の街チョーシ、北東の街セーダイ。セーダイは魔人軍防衛の要でもあり、城塞都市となっている。かつて、英雄グリードはセーダイで防衛の要として活躍していた。
定期的に妖魔・魔獣狩りが行われるため、レーツェル周辺には妖魔や魔獣が殆ど近寄らない。
周辺の平野は肥沃な大地であり、街の周辺には広大な畑が広がる。その畑を囲うように、街の外にも木の柵が設けられている。
◇迷宮に関する情報◇
この国では、迷宮を探索する者を冒険者と呼んでおり、迷宮管理局と隣接するように、冒険者協会の建物と商人協会の建物が建てられている。
神秘迷宮は現在までに36階層まで攻略されている。トップの攻略パーティーは、主に30階層以降を探索している。
◇その他の情報◇
以前までは北方の魔人族の国と戦争が絶えなかったのだが、数年前から戦争がかなり少なくなってきていた。今では国境(海峡)付近で小さないざこざがある程度。
十数年前に国が異世界人の勇者を召喚している。噂であるが、数年前にその勇者達が魔王を倒したのではないかと言われている。
勇者達は、全部で6人。勇者達は全て黒髪黒瞳の平坦な顔立ちの普人族であった。
「勇者達ってのが、ダイジの特徴と一緒なんだよな……」
「そうね、そのうちの一人がダイジってことなのかしら……」
ノルとファノはおそらく、ダイジは異世界から召喚された勇者の一人なのだろうと推測するのであった。
◇◇◇
「今後の方針だけど……」
ノルは今後どのように行動するかをファノと共有する。
「暫くはこの街に止まって情報を収集しようと思う。ダイジの情報、勇者の情報、メダルの情報かな」
「うん、それで良いと思うよ」
「……で、情報収集の合間で迷宮探索もしようかな?なんて……どう?」
「まぁ、迷宮探索にどっぷり嵌まらなければ、良いのかな……」
目の前に大きな迷宮があるのに潜らない、なんて選択肢をノルは持っていない。ファノも始めからそれを分かっている。いつ言い出すのかと待っていたくらいだ。
「じゃあ、来週くらいから集迷宮探索もして行こうか」
「ふふ、来週で良いの?」
「大丈夫。それくらいなら、なんとか我慢できるから」
ノルはそう言って飛び跳ねそうな勢いで歩く。それを見てファノも表情を柔らかくする。楽しそうなノルを見ると、ファノも楽しくなってくるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆




