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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第5章 神秘の迷宮
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第32話 足跡

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルフ大陸は大きく3つの地域に分けられる。大陸西部のテイーア地方。大陸北部のネライダ地方。大陸中央部、南部、東部のファートゥル地方。


 ノルとファノは1ヶ月半を掛けて、大陸南部のファートゥル地方の普人族国家アラガントー都市デキャミラから、大陸北西部のティーア地方の獣人族国家ノースグラスー首都グラスガンへと帰還したのである。



「はぁ、長かったなぁ……ただいま!グラスガン!」

「帰ってきたよ~」



 久しぶりのノースグラスに、ノルもファノもテンションが上がっている。

 白い石畳の大通りを跳ねるように歩き、露店で串焼きやビール、果実酒を買い、飲み、食べ、踊る勢いで歩く。

 グラスガンの南地区にある、もはや、新居とは呼び難い自宅が見えてくると、ノルもファノも懐かしさのあまり、歩調が早くなりついには駆け出してしまう。

 玄関を開け、居間へと飛び込むと、馬車旅で痛む尻を気にしながらソファーへと飛び込むように転がるのだった。


 長い旅路の途中、ノルとファノはずっと話し合ってきた。

 二人とも目指すのは神造迷宮の踏破。もうすぐ未探索階層に足を踏み入れるのだ。未知なる冒険に心を踊らせ、未知なる宝を求めて、より深く潜るのだ。


 だが、それをするには心残りがある。


 普人族のダイジ。


 いつも何処からか監視されている。ノルの持っている神秘のメダルを狙われている。


 心置き無く迷宮を探索するために、ダイジの件はどうにかしておきたいのだ。



「とりあえず、明日はゆっくりダラダラ過ごそうか」

「賛成~」



 二人は、久し振りに緊張から解き放たれる。周囲を警戒しながら休む必要もなく、いつでも起きれるように浅い眠りでなくても良いのだ。

 長旅で汚れた衣服を脱ぎ捨て、シャワーで垢や汗を流し、すっきりさっぱりすると、大きなベッドでゆっくりと眠りにつくのであった……


 ゆっくりと寝ていたノル達は、翌日、玄関の呼鈴で起こされる。



「こんな朝早くにどなたですか?」

「朝早くないよ!昼前だよ!

 シンバです!」



 ノルが玄関を開けると、立派な騎士の鎧に身を包んだシンバが立っていた。



「シンバ!久しぶり!」

「ノル君!久しぶりって……服、着ろよなぁ……」

「まぁ、上がってくれよ!」

「いや、ちょっと待って……」



 シンバを居間に上げようとするノルだが、シンバがそれを拒む。



「ノル君、今から急いで支度して。城に来て欲しいんだ」

「え~!」

「……え~……」



 シンバの言葉にがっくりと項垂れるノル。奥の寝室で二人の会話を聞いていたファノも、がっくりと項垂れる。今日はゆっくりと過ごすはずだったのに……


 そうは言っても城に行かねばならない。おそらく、カイラス国王かその辺からの呼び出しなのだろう。

 急いで身支度を整え城へと向かうノルとファノ。


 城に着くと、いつもの謁見の間ではなく、国王の私室へと案内される。



「よう、久しぶり。色々と噂は聞いてる」

「カイラス国王陛下、お久し振りでございます……

 えーと、何の用事なの?」



 失礼のないように敬語を使おうとしたノルだが、周りに大臣等がいないことから、途中から言葉が砕ける。



「ノル君、きみが欲しがっていた情報だよ」



 シンバが横から説明する。



「トワイライトメーア国のメーア公爵からも情報を頂いている。一応、情報は全て紙に纏めたから後で目を通して欲しいんだけど……」



 シンバが紙の束をテーブルに置き、カイラス国王に目配せをする。



「なぁ、ノルよ。このダイジってヤツは一体何者なんだ?」

「さぁ?

 相当な曲者なんだろうけど、何者なんだろうな。俺が知りたいよ」



 カイラス国王は身を乗り出し、ノルに迫るが、ノルも肩をひょいとあげ、知らないことをアピールする。



「こいつは国家間の争いを裏で操っていると感じたんだが……普通、そんなこと、一人の男が出来ると思うか?」

「俺は出来ないが、それを実現できる頭の良さと能力があるんだろうな」



 ノルの返答に渋い顔をするカイラス国王。実現できる頭と能力。やっかいな相手である。



「……俺らは引き続き情報を集めるが、お前、狙われているからな……気を付けろよ」



 カイラス国王がノルを呼び出した理由は、直接、注意を促したかったからである。己が強さと生き方を認めた男が狙われているのだ。死なれては困る。だから、呼んだのだった。



「忠告、感謝するよ。俺も簡単にはやられない。むしろ、こっちからヤツを追い詰めてやるよ」



 ◇◇◇



 ダイジの特徴は、普人族、黒髪黒瞳、黄色系の肌、平坦で特徴のない顔立ち、中肉中背、黒系のローブに身を包む。おそらく、移動系の魔術と遠見の魔術を使える。そして、神秘のメダルを求めている。


 あまり目立った特徴はなかったのだが、多数の目撃情報が集まっていた。


 その目撃情報の中でも有力なものは、1~2年前では、アルフ大陸中央部から南部の普人族国家アラガント周辺。2~4年前では、アルフ大陸北西部の獣人族国家ノースグラス周辺。5年以上前では、アルフ大陸南西部の獣人族国家サウスヴァルト、大陸北部の妖精族の国々、東部の普人族国家等々。

 その他にも、5年以上前の情報であるが、大陸北東部、東部、南東部の普人族国家でそれらしき目撃情報が多数あるのだが、それらが全て正しい情報とは限らないので、情報の取捨選択は必要であった。


 更に、ノースグラス国からもたらされた情報によると、ノースグラス国が独自に調べていた神秘のメダルの情報とダイジの目撃情報で重なる部分もあったようだ。


 ・『戦車のメダル』

 普人族のアラガント国ー都市デキャミラの英雄グリード→現在の持ち主はノル


 ・『愚者のメダル』

 獣人族ノースグラス国の北東の森のオークキング→現在の持ち主はノル


 ・『正義のメダル』

 獣人族ノースグラス国のルーラス元国王→現在の持ち主はカイラス国王


 ・『隠者のメダル』

 妖精族ー濃霧の森(詳細は不明)


 ・『吊られた男のメダル』

 普人族の東方の国(詳細は不明)


 ・『恋人のメダル』

 獣人族国家サウスヴァルトの元国王→現在の持ち主は不明



 ノル達は、ダイジの足跡を辿るように妖精族の国へと向かうことに決めるのだった。



 ◇◇◇



 ノルとファノはこれからの長くなりそうな旅に向けて支度を整えることとした。グラスガンの南地区を、二人はデートするように仲良く歩く。


 舗装された白い石畳の道を手を繋いで歩く。石造りの街並みを眺めながら、他愛もない話をする。


 普通の生活を送ることが少ない二人は、このような普通の日常を大事にする。


 食料店では、あれやこれやと話し合い、干した肉、干した果実、乾パン、塩や胡椒などの調味料を沢山購入する。


 服飾店では、鎧の下に着る服の他に下着や普段着なども大量に購入する。


 雑貨店では、野営用の鍋やフライパン、鉄串、フォーク、ナイフ、スプーンを新調する。


 馬車での旅に備えて、上等なクッションの購入も忘れない。


 お昼には大通りに面した喫茶店で、お洒落な料理と軽めの果実酒をいただき、食後のデザートも二人で仲良く食べた。



「はぁ……暫くは、また旅になるのね……」

「ゆっくり過ごすためにも、障害は取り除いておきたいからな。はぁ……」



 これからの旅に乗り気ではない二人。それでも、一旦、旅に出てしまえば、それなりに楽しく過ごせるのだが……このような都市での生活が恋しくなることもあるのだ。


 1日を買い物や食事に費やしたノルとファノ。いよいよ、明日からは、東に向かって長い旅に出る。


 以前、ノルとファノが訪れたファノの故郷である闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の国ヴァルファノスよりも更に東方にある緑葉の森。まずは、そこを目指すこととなる。


 そこには長耳系妖精族(エルフ)の里がある。その周辺でダイジの目撃情報があったらしいのだ。


 ダイジが一体何者なのか、ダイジの目的は何なのか。ダイジは何処に潜んでいるのか。


 ダイジが危険極まる人物で、この先もノルとファノの障害となり得るのであれば、過激な考え方だが、どこかでダイジを排除しなければならない。


 ノルは、ダイジという者を見極めるために、この旅に出るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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