第31話 暗躍する影
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館の迷宮の最下層の最奥。迷宮守護者が居た部屋。
そこで、ノルは深い深い穴を掘っていた。
納得できる深さまで掘り終えると、横たわっていたファノを抱き上げ、穴の底へと横たえる。
その一部始終を部屋の入口で隠れて見ていたレパードとレイラ。
二人はノルの前に進み出ると、この状況をノルに問い詰める。
ノルと二人は口論になり、やがて戦闘へと発展する。
混乱したノルは短剣で、レパード、レイラの腹部を刺す。
血を流したレパードとレイラを穴に落とすノル。
ノルは、穴の入口で喚き散らし、自らの腹部に短剣を突き刺し、穴へと転げ落ちるのだった。
◇◇◇
薄暗い部屋で水晶球に映し出されたその一部始終を見ていた男。
数時間、水晶球を覗いていた男。徐に腰をあげ転移の魔術を使う。
一瞬で、館の迷宮の最下層の最奥の部屋へと移動する男。
注意しながら穴の底を覗く。
「……居ない、だと?」
男は穴を覗きながら、そう呟いた。
◇◇◇
ノルが穴へと転げ落ちる数時間前。
「ねぇ、知ってる?私の職業」
ファノは、そっとノルに耳打ちする。
「迷宮探索者じゃなくて……」
「魔術研究者よ」
そんな会話を少し前にもしていたことを思い出すノル。
「……と言うことは……」
「そう。この状況、全く問題ないよ。ただ……」
出口は設定してないから、地上の何処かに転移することになると思うけど。
話している内容は、レパードやレイラに聞かれても問題ない。だが、聞かれたくない者が近くで聞き耳を立てているかもしれないから。そう続けるファノ。
それについては思うところがあったノル。
神造迷宮内や黄昏迷宮内では感じなかったのだが、それ以外の地上で過ごす時に、常々、何者かの視線を感じていた。
その視線が、この館の迷宮に入ってから、より強く感じられるようになっていた。それは、ノルだけでなく、ファノも感じていたのだ。
ここは、何者かの裏をかいて、どうにかしないかと、ノルとファノで相談する。
それをそっとレパードとレイラにも伝えたのだ。
その後、ノルとファノ、レパードとレイラに分かれて、レパードとレイラが5階層の探索に向かう。
ノルとファノは最奥の部屋で待機。
ノル一人で野営準備をしているところで、ファノと言い合いになる。
次第に激しい口論へと発展していく。
激怒したノルが短剣を抜き、ファノの腹部を貫く。
激しく出血したファノ。
ノルは慌てて傷薬を使うが、ファノの意識は戻らない。
ノルは茫然自失となりながら、墓穴を掘る。
墓穴の底にファノを寝かせ、穴の前で延々と懺悔するノル。
そこへ現れるレパードとレイラ。
再び口論になり、戦闘となり、ノルは二人を刺してしまう。
レパードとレイラを墓穴に落とし、自ら腹に短剣を突き刺すノル。
よろよろと墓穴に落ちる。
ここまでが、その男が現れる前までの出来事であった。
◇◇◇
「……居ない、だと?」
数時間後、墓穴の前には一人の男の影。
「ちっ、やはり演技か……」
男が覗いた墓穴には何者も居なかった。どうやったのか、ここから脱出したようである。
ただ、男は腑に落ちない。脱出するだけならば、演技する必要はなかったのだ。
すると、突然、男は背中に衝撃を受ける。
隠れ潜んでいたノルが男の背中に短剣を突き立てたのだ。
「貴様っ!」
「ダイジ!?」
その男は普人族のダイジであった。止めを刺していなかったノルは、理由を問い質そうとしたのだが……
「馬鹿め……」
ダイジは忽然と姿を消す。魔術を使い何処かに転移したのだった。
◇◇◇
普人族のダイジに逃げられた後、ノルは、ファノが設置した転移陣で転移石を使い脱出し、皆と落ち合う。
「レパードとレイラは知らないが、黒幕は普人族のダイジだったよ」
黒幕がダイジであったことを告げる。ファノはどこか納得する。
ノルは、疑問だらけのレパードとレイラにダイジと出会った時の話を説明する。そして、ダイジがノルの所持していた『愚者のメダル』を狙っていたことも説明する。
「この館の迷宮は、まるでノルを誘い出して閉じ込めるかのようだったな……」
ポツリとレパードが呟く。
「……レパード。それは外れではない気がする。
アイツは、ずっと俺達のことを見張っていた」
「ずっと?いつからなんだ?」
ノルの発言に疑問を投げ掛けるレパード。
「おそらく、数年前のノースグラスと魔人の戦争より前から」
「この前のサウスヴァルトとアラガントの争いの時もか?」
「……ああ」
それが何を意味するのか……
ノルを監視していたダイジ。
ノルが手に入れた『愚者』『戦車』『運命の輪』の3つのメダル。
ノルのメダルを狙っていたダイジ。
何者かが裏で糸を引いているようなサウスヴァルトとアラガントの争い。
「普人族のダイジか……私もトワイライトメーアの力を使って情報を集めてみよう」
「宜しく頼むよ」
そして、そこから、ノルとファノはダイジを追う旅に出るのだった。
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