第30話 館の迷宮
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アルフ大陸南部に位置する普人族国家アラガントの都市デキャミラ。1年前、当時の領主とノル達で、妖魔軍の侵攻を命懸けで食い止めたのだが、少し前から異変が起きていた。
隣国である獣人族国家サウスヴァルトの調査により、都市デキャミラが死者の街へと変わり果てていることが判明した。
獣人族国家の女王ビアンカ・ラパン・サウスヴァルトは、普人族国家アラガントへと使者を送り、デキャミラの共闘での魔物討伐を提案する。
「……そうですか、残念なことです……」
だが、普人族国家アラガントからの返答は、『我が国、我が領土である。一切、関与するな』であった。
「陛下、国境警備の体制を強化するように指示をしておきます」
獣人族国家サウスヴァルトが出来ることは、国境付近の警戒警備のみ。大臣は、その国境警備を強化することを申し出る。
「女王陛下、我々は依頼完了とさせて頂きます」
レパードは話の流れから、女王へと具申する。レパードが話す内容は、事前にノル達も含めて合意していたことだ。
「……レパード様、共闘が実現できない以上は、貴殿方を引き留めることも出来ません。此度の協力、まことにありがとうございました」
そして、レパード一行はサウスヴァルトを出国するのであった。
◇◇◇
死者を弔うため、ノル達は大量の聖水を購入していた。
「ファノ、レパードってさ、女王にご執心だよね?好きなのかな?」
「……間違いないわね」
大量の聖水を買い集めていたノルとファノ。レパードが居ないことを良いことに、そんな会話をしていた。
「僕らは、貴女や貴女の国とは一切関係ありませんって、公の場で宣言しといて……」
「私らの独断ですから……まで装うんですものね」
「……それは、私のことかな?」
ノルとファノが話を続けていると、目の前にレパードが現れる。油断していたノルは、驚き、買い物袋を落としそうになる。
「び、びっくりさせるなよ!驚いて心臓止まったらどうする!」
「少々、驚き過ぎだと思うがな」
ノル達は、これから独断で都市デキャミラへと向かう。デキャミラの元住人である普人族の食屍鬼を浄化して死者を弔うていである。
もしかすると食屍鬼の中には獣人族奴隷だった者がいるかも知れない。獣人族でなくても、死者を冒涜されているようで許せない。
レパードは、高潔な想いが強く、静観出来ないのだ。それと、女王ビアンカ・ラパンが困っているのを何とかしてあげたいという気持ちも強い。
仮に普人族国家アラガントが積極的にこの状態を改善しようとしているならば、我慢したかもしれないが、そうではなかった。
普人族国家アラガントは、首都アラァーグ内の内紛への対処で忙しく、デキャミラまで何とかする余裕がなかったのだ。
おそらく、直ぐにはデキャミラは改善されない。それどころか、状況は更に悪くなるかもしれないのだ。
レパードの提案に、ノル、ファノ、レイラは賛同したのだった。
◇◇◇
ノル達は死者の街へと潜入する。
門が壊れている北側から街へと入ると、直ぐにゾンビオーク、ゾンビゴブリンが寄ってくる。
ファノが氷の矢で先制すると、ノルが棍で叩き潰し、レパードとレイラが剣で叩き斬る。動かなくなった骸に聖水を振りかけ浄化する。
パーティーに聖属性の魔術が使える者が居れば楽だったのだろうが、無い物をねだっても仕方ない。
ノル達は地道に死者の街と化したデキャミラを浄化していく。
「レパード……どうやら、あの館があやしいぜ」
死者の街の中心にある領主館から濃密な負の力が流れ出ていることにノルが気付く。
「……あぁ。私も何となく感じるよ」
ノルだけでなく、レパードも、ファノも、レイラもそれを感じていた。
「……行こうか」
「承知。俺が先導する」
ノルの先導で領主館に入ると、玄関を抜けた大きなホールに地下へと続く大きな穴が口を開けていた。
「……以前伺った時にはありませんでした」
黒犬系獣人族のレイラは、この四人の中では一番多く、この館を訪れている。レイラの記憶にはない穴なのだ。
「濃密な負の臭いは、この穴の中からだ。レパード、どうする?」
「……確認すべきだろう」
レパードの判断で、四人は穴の中へ入り、地下に降りると、そこは……
「この感じ……この空気……この雰囲気は……」
「これは……私達が良く知ってる……」
ノルとファノは何かに気付く。
「迷宮だ」
「迷宮ね」
ノルとファノの発言に驚くレパードとレイラ。しかし、ノルとファノの発言を疑うことはしない。二人も、地下に降りた瞬間に何かが変わったことを感じ取っていたのだ。
この迷宮は、廃墟となった館のような構造である。朽ち果てた廊下や部屋が続く。存在するのか分からないが迷宮の主がいるとすれば、生前あるいは死ぬ間際に、館に執着する何かがあったのかもしれない。
「ノル、ここは君に任せるよ」
「承知。ファノ、地図を頼む」
「分かったわ」
レパードは、迷宮探索の専門家であるノルへと任せる。ノルは周囲を警戒しつつ、ゆっくりと歩を進める。ファノは地図を描きながら、進むべき方向をノルへと伝える。
途中の部屋を一つずつ確認しながら、ゆっくりとしたペースで迷宮を進む四人。
途中で出会う迷宮守護兵は全て食屍鬼タイプ。意味がないかと思いつつも、全てを浄化しながら進む。
ゆっくりとしたペースで、何度も野営し、遂に迷宮の最深部まで辿り着く。館の迷宮は全5階層であった。浅い。迷宮は年々成長すると言われている。古くに発見された迷宮ほど、深いのだ。この迷宮が出来たばかりであることを物語っていた。
そして、ノル達は最下層の5階層で厳しい戦いを強いられていた。
◇◇◇
「くそっ、連携してくるぞ!気を付けろ!」
ノルは、敵から放たれた矢を叩き落としていた。
ファノは、相手の放った魔術を全て迎撃する。
レパードとレイラは、敵の前衛である槍戦士、大剣戦士、大槌戦士の3人を相手取っている。
いつか、デキャミラでの妖魔軍との戦いで、一緒に戦い抜いた5人組の傭兵であった。5人は全て食屍鬼へと変わり果てていた。
「ノル、聖水を放り投げて!」
ファノの言葉に素早く反応するノル。
ファノは宙を舞う聖水の入った瓶を風の刃で切り裂き、宙に舞った聖水を巻き込むように、小規模の竜巻を作り出す。
散布された聖水を浴びた5人組の傭兵は、若干動きが鈍る。
その隙を逃さず、ノルが槍戦士を叩き潰す。
続いてレパードとレイラが連携し、大剣戦士と大槌戦士を斬り伏せる。
最後にファノが聖水の竜巻で、後衛の弓士と魔術師を切り刻む。
そして、最後。この迷宮の迷宮守護者へと挑むのだが……
「最悪だ……どんな悪意だよ」
最後に待ち受ける者は二人。それもノル達が良く知る二人であった。
黒狼系獣人族の青年グラン、デキャミラの領主であった英雄グリード。
グランもグリードも生前ほどの強さはなかったため、戦闘能力的には苦戦しなかったのだが、精神的に苦戦したのだった。
レイラは泣きながらグランを斬り伏せ、倒したグランに聖水を振りかけ、また泣いていた。
全てを倒し、全てを浄化し、迷宮を出ようと引き返すのだが……
「出口がない……」
5階層から4階層へと続く出口が消失していた。
「ファノ、疑う訳ではないが、地図は間違いないのか?」
レパードがファノに地図を確認させる。ノルもファノと一緒に何度も地図を確認するのだが、出口は見つからない。
このまま迷宮に囚われ、死ぬまでここで過ごすことになるのか。レパード、ノル、レイラは途方に暮れる。
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