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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第3章 獣-人戦争
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第24話 英雄

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルフ大陸の南部、普人族国家アラガントの都市デキャミラへ妖魔の大軍が押し寄せていた。


 デキャミラは、北側に防護柵を築き、妖魔軍の突撃に備えていた。


 防護柵の後ろには50人の兵士と50人の有志兵が弓や長槍を構えている。


 防護柵の前には腕に覚えのある者が並んでいる。


 中央には鋼鉄の鎧で身を固めた大男。手には斧槍を携え、堂々と立っている。その男の周囲には誰もおらず、間を開けて東側に3人の傭兵がいる。前の二人は黒狼系獣人族の男と黒犬系獣人族の女。後ろの一人は闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の女。西側には5人の傭兵。いずれも普人族の男であり、普段は迷宮探索を生業にしている者だ。

 遠く離れた東の草陰にもう一人潜んでいる。この男は銀狼系獣人族と闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の混血である。



 妖魔軍は勢いを落とさず、突進してくる。先頭は四つ足の獣。猪やら狼のような魔獣である。


 その後ろからはオークや小鬼(ゴブリン)小鬼亜種(ホブゴブリン)が武器を携えて走ってくる。


 軍の最後方からはゆっくりと大股の巨人達がついてくる。大豪鬼(オーガ)醜悪鬼(トロル)である。



 すると、唐突に先頭を走っていた魔獣の群れに氷の暴風が発生する。避けられずに魔獣が巻き込まれ、血だらけになって地面に倒れていく。


 そこに突っ込んできたオークやゴブリンの一部も被害を受けたが、勢いを止めずに突進してくる。


 幾つかの魔獣やゴブリンが防護柵を乗り越えようと柵に張り付くが、それらは兵達によって防がれる。


 オークどもの多くは近くにいる人間に向かっていく。


 中央に陣取る大男に向かって行ったオークどもは、竜巻のように荒れ狂う斧槍に刻まれ、吹き飛ばされる。


 東側の三人に向かったオークどもは、氷の矢が突き刺さり、生きて近付く者は次々に槍で串刺され、剣で裂かれていく。


 西側の5人に向かうオークどもは、矢が刺さり、火弾で焼かれ、槍で貫かれ、最後は大剣で二つに裂かれるか、大槌で頭を砕かれる。


 それでも、何体かの妖魔は、防護柵まで辿り着く。柵に張り付いた妖魔は次々に兵士が処理するのだが、処理が追い付かなくなってくると、後方の街壁の上から少年達が石を投げ、ゴブリンどもを倒していく。


 妖魔の勢いが弱まると、残った妖魔は、ゆっくりと隊形を整えて迫ってくる。

 オークリーダー3体、ホブゴブリン30体、オーク60体が3組に分かれ、西側、中央、東側へと向かう。その後ろからオーガ3体がゆっくりとついていく。


 いつの間にか姿が見えなくなったトロルは、集団の後方で動かぬ骸となって転がっていた。


 西の5人の傭兵達は疲れは見えるものの、未だに健在である。


 中央の大男は疲れも見せず、堂々と仁王立ちしている。


 東の3人の傭兵には被害が出ている。黒犬系獣人族の女は足を怪我して、後方に下がっている。黒狼系獣人族の男は未だに元気なのだが、後方の闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の女には疲れが見える。


 そこへ、妖魔がそれぞれ襲い掛かる。


 中央を除くと、西も東も劣勢であった。

 そこへ、後方の防護柵で待機していた兵士達が防護柵を乗り越え駆け付ける。弓や長槍で傭兵達の後ろに隠れながらの攻撃であったが、傭兵達にとってはありがたい助太刀であった。


 その頃、妖魔軍の後方では3体のオーガと一人の男が戦闘していた。


 男は身体を白銀の淡い光で覆い、孤軍奮闘していた。


 白銀の閃光が迸る度、オーガが傷付いていく。


 どの戦局でも人間側が有利に運んでいると思われたその時、天秤が傾く。


 圧倒的に有利に戦っていた中央。大男は背中に短剣を生やし、血を流していた。

 明らかに動きが悪くなった大男へオークリーダー、ホブゴブリンが決死の突撃を行った。


 大男に覆い被さるように次々に妖魔が重なっていくと、そこには小さな山が出来ていた。


 一つ、大きな咆哮とともに、その小さな山が爆散する。


 残ったのは大男。ただし、斧槍を地面に突き刺し、寄り掛かるように立っていた。



「ファノ!姿を隠したヤツがいる!広範囲のヤツで!」



 後方でオーガと戦っていた男が前線に向かって走ってくる。


 男が持っている棍で指し示す辺りに氷の矢の雨が降り注ぐ。


 姿を現したのは、爬虫類の特徴を持った魔人。魔人は手に持った石へ魔力を込めると、上空へ飛ぶように離脱する。

 その魔人をキャッチしたのは優雅に上空を舞う鷹獅子の魔獣であった。



「くそっ、逃すか!」



 白銀の光に身を包んだ男は手にした棍を投げ槍のように、上空へ投げる。


 鷹獅子は優々と棍を回避し、更に上空へと高度を上げる。



 都市デキャミラの北に広がる平野には、動く妖魔は居なくなっていた。


 一応は、人間側の勝利であった。



 ◇◇◇



「グリード様!」



 中央でなんとか立っていた大男に兵士が集まる。かなりの出血をしているのだ。


 治癒師が大男の傷を診て、手当てを行うが……



「肺は修復不可能です。それと、ナイフには毒が……」



 大男は片方の肺を貫かれ、大量の血を失ってしまった。更に毒が全身に回っていると言う。何とか目に見える傷は治療したものの、治癒師の判断では……



「もって半日です。意識があるのが奇跡でしょう」



 その治癒師の言葉を聞いた大男。懐から書物を取り出し、部下の男に託す。


 掠れた声で聞き取れなかったが、5人の普人族の傭兵と4人の獣人族の傭兵を未来永劫讃えるように、と英雄グリードの名で最後の指示をしたのだった。



 ◇◇◇



「グラン!おい、グラン!返事をしろ!」



 ノルはファノ達の元へ駆け寄り、起き上がらないグランを抱きしめ、呼び掛けていた。

 ファノから貰った高価な治療薬を振り掛け、口から飲ませようとするのだが、グランの意識は戻らない。


 グランの胸には大きな穴が空いている。既に血は止まっているが、穴の先にある臓器は……治癒していない。



「ご、ごめ……なさぃ……」



 黒犬系獣人族の女性レイラは、グランの手を握り、涙を流しながら、しきりに謝る。


 レイラが怪我をし、動きが鈍かったところへ、ホブゴブリンが殺到したのだ。


 オークの処理に追われたファノは、そちらまで手を伸ばせず、前で踏ん張っていたグランがレイラの前に立ちはだかった。


 ノルが姿が見えない魔人に注意しろと言った直後にグランは心臓を貫かれた。


 レイラが怪我をしていなければ。


 ノルが魔人ではなく、グランに殺到していたオークを優先していれば。


 ファノが魔術を魔人ではなく、オークに撃ち込んでいれば。


 タラレバではあるが、グランが命を落とさなくても済んだかもしれない。


 悔やんでも悔やみきれない。



「レイラ、グランの亡骸を弔ってくれ。

 ファノ、まだやれるか?」

「はぃ……弔います」

「……やれるよ」



 ノルは心を決める。あの、鷹獅子魔獣と姿を消す爬虫類系の魔人を必ず倒すと。


 そして、ノルとファノはそのまま北へ向かうのだった。



 ◇◇◇



 その日の夜、領主館では押し問答が発生していた。



「話が違うぞ!」

「そう言われましても……グリード様はもう話すことも出来ないので……」

「だからどうした!俺は事前にグリード様と約束したのだぞ!」



 怒りを顕にグリードの部下に詰め寄るのは普人族の傭兵のリーダーの男。この男は、戦争の前にグリードを訪ね、戦いに参加し、戦いを勝利に導く。その報酬としてグリードの持っているものを一つ貰う。そう約束したのだ。



「『戦車のメダル』を譲り受けるのが俺の願いだったんだぞ!」

「わ、分かりました……それでは、案内しますから……くれぐれもお静かに」



 渋々、グリードの休む部屋へと案内する部下。



「グリード様は既に意識を無くされています。グリード様の傍らにある斧槍が『戦車のメダル』でございます」



 こちらは代々、グリード様の家系で受け継がれてきたメダルでして、英雄に相応しい人物が持つべきものです。と部下の説明を蔑ろに、斧槍へと手を伸ばす男。



「ははっ、これが夢にまで見たメダル……遂に……!」



 その手に掴もうとした瞬間、斧槍が眩い光を放ち、元のメダルへと形を変えていく。



「おぉぉぉぉ……グリード様、遂にお命が尽きてしまわれたのですね……」

「そうか、メダルが俺を次なる主と認めたのだな。ははっ」



 そして、完全にメダルの形へと姿を変えると、もの凄い勢いでメダルが飛んで行った。



「なっ!待て!」



 部下は、もし次の主をメダル自身が選んでいるのだとしたら、次の主が、あの銀髪の狼獣人であることを願うのだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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