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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第3章 獣-人戦争
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第19話 失踪事件

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ノル達が巡回するようになって一週間。新たに失踪事件が発生した。


 失踪者は夕方まで東の麦畑で働いていた若い女性リリ。十代の少女である。丁度、ノル達が巡回当番であった日の翌朝に発覚した。



「最後に目撃されたのは東の麦畑。翌朝に居ないことが家族から連絡があった訳だが……」

「特に変わったことはありませんでしたよ」



 ノルとファノは夜勤明けで皆が集まる会議室に呼び出されていた。



「大方、居眠りでもしてたんじゃねぇの?」

「二人でお楽しみだった可能性もあるぜ」



 大勢に囲まれ、罵声を浴びせられるノルとファノ。二人とも明らかに機嫌が悪い。



「皆、静かに……

 で…どんな巡回路だったか、詳しく教えてくれ」



 まるで容疑者のように疑われ、根掘り葉掘り聞かれる二人。



「これ、俺達が疑われてないか?そもそも、俺らが夕方に麦畑に着いた時には人っ子一人も居なかったのだが?」



 農作業を行う人々は、普通は夜明けとともに動きだし、日暮れ前には帰るのだ。ノル達が巡回に着いたのは日暮れ直前。その頃には出歩く者は居なかった。



「……暫く、君達には外れて貰う。悪く思わないでくれ、疑いを晴らす為だ」



 黒豹系獣人族のレパードは、ノルとファノにそう告げる。疑いを晴らす為と言いつつ、思いっきり疑ってるじゃないかと、ノルは叫びそうになるのを何とか堪える。



「……承知した。じゃあ、俺らは自由にさせて貰うよ」



 そう告げ、ノルとファノは会議室を荒々しく出ていく。



「……ノル、どうするつもり?」

「俺らで犯人を見つけたいと思っているが……」



 ノルはそこで言葉を切る。



「面白くねぇな……俺らに監視をつけやがった。どこまで疑うんだよ」



 ノルとファノの耳は、遥か後方で尾行している三人の男を捉えていた。



「今のところ実害ないし……放って置きましょ」

「ああ、分かってる」



 それから、ノルとファノは独自に調査を開始する。失踪したリリという少女が普段、どんなサイクルで生活していたのか、当日、何か変わったことがなかったか等。それは、レパードが既に調べ終えたことであったが、残念ながらノル達には、その情報が回って来ない。


 リリの臭いを辿ることも考え、実行したのだが、麦畑より外側には臭いは残っていなかった。



「お手上げじゃないか。全く情報がない。しかも、消えるように失踪しているぞ?」



 忽然と姿を消しているのだ。



「……こんなことってあり得るのかな……」



 どうすれば、突然、消えたように居なくなるのか。ノルもファノもそれが分からない。



「足跡もなく、臭いも残ってない……」

「私達の能力では、他に辿る手段がないね……」

「あぁ、一つだけあったよ」



 ノルの追跡技能の中で苦手な『魔力跡』である。魔力の残滓を辿る方法であった。



「既に1日経っているから、どこまで辿れるか分からないけどね……」



 ノルとファノはリリが最後に目撃された麦畑へと向かう。ここからの魔力の残滓を辿るのだ。



「……残念ながら、リリらしき魔力の残滓は感知出来ないが……」

「……何かあったの?」



 ノルは奇妙な魔力の残滓を発見した。



「おそらく、何かの魔術を使った跡……何か覚えがあるな……いつだ……どこだ……」



 その不思議な魔力の残滓は何処かで体験している。ノルはこめかみを抑え、過去の体験を思い出していた。



「……思い出したよ、おそらく……」



 ノルは、自分の考えをファノに話す。



「……それだと、足跡も臭いも残らないのは説明がつくわね……」

「ただ、犯人の行き先が見当つかないな……」



 ノルとファノは思案に暮れる。



「ファノ、俺の我が儘だけど、何としてもリリを救い出したい。もう少し頑張ってくれるか?」

「勿論。私もこのままでは嫌よ」



 既に昨夜の巡回から1日が経とうとしていたが、そのまま継続してリリの救出に奔走することにしたノルとファノであった。



 ◇◇◇



「……そうか。報告ご苦労。………私の思い違い、なのか?」



 ノル達を尾行していた者からの報告によると、ノル達が独自に調査をしているようであった。それも、ノル達は巡回当番から既に丸一日が経つが、今も調査を継続している。疲労が溜まっているだろうに、今も調査を続けているのだ。レパードの考えでは、ノル達が犯人と関係していると読んでいたのだ。だが、どうやら違っていたのかとレパードは思い始めていた。



「もう少し……尾行を継続してくれ……」



 レパードは優秀な人材を何人も使っている。それでも新たな失踪を防げなかった。このまま犯人の尻尾も掴めなければ、無能のレッテルを貼られてしまう。レパードは、ノル達が犯人と関係していてくれと願いながら尾行の継続を指示したのだった。



 ◇◇◇



 ノル達は、半年前からの失踪事件の資料を見返していた。



「良く纏まってるな……」



 以前からサウスヴァルト国が掴んでいた情報以外にもレパードが纏めた情報が付け加えられている。レパードは少し偉そうなところはあるが、真面目で出来るヤツというのがノルの持っている印象であった。今回、ノル達が疑われなければ、嫌いなヤツではなかったのだが……



「……ノル、これ見て」

「ん?どうした?」



 ファノは失踪事件のある共通点を発見したのだ。それは、事件当日の天候を記した資料である。



「西風か、南西の風に偏っているのか……」

「……そう。おそらく……」



 ノルとファノは犯人が潜んでいる或いは拠点を設けているであろう場所を絞り込むと、そこへと急ぐのであった。



 ◇◇◇



「街を出て行っただと?こんな夜更けにか……よし、戦闘班に準備させろ。至急、追跡班と合流させろ。もしかしたら、犯人と接触があるかもしれない」



 レパードは、ノル達が夜更けに街を出ていったとの報告を受けると、戦闘班に準備をさせ、追跡中の者と合流するように指示をする。

 そして、自らも支度を済ませ、直ぐに追跡班と合流すべく向かうのであった。



 ◇◇◇



「?ノル……」

「気付いてるよ。レパードが来たようだな。俺らの邪魔をしなければいいが……とにかく、急ごう」



 ノルは暗闇の中、ファノの手を引き、深い森の中へと踏み入っていく。


 暫くすると、ノルが感知できるギリギリの範囲に複数の気配を捉えた。



「……怪しいな……」



 近寄って様子を見ると、森の奥深くに比較的新しい家があるのだ。


 木造の平屋であるが、屋根は平べったく、屋上があるようだ。そして、周囲からは発見され難いように枝葉で擬態しているようであった。



「……何か来るぞ」

「空からね」



 蜥蜴のような爬虫類のように見える何か。それは、大きな翼を広げ、空から舞い降りようとしていた。竜ではない。いつか見た鷹獅子のような魔獣の一種であろうと予測する。その魔獣は、平屋の屋上に吸い込まれるように着地する。



「予想通りだな。あの大きさなら、1人や2人程度であれば運べるだろう」

「そうね……それで、どうするの?」



 平屋の中には複数、少なくとも3人以上の気配がある。それと、魔獣。2人で踏み込むのか……



「……癪だが、彼らにも協力して貰うか」

「……」

「……協力を仰ぎたくない?」

「……ノルと私ならやれる」



 ノルは、後方で此方の様子を窺っているレパード達の協力を得ようと考えたのだが、ファノがそれを拒む。どうやら、彼らに対してはファノの方が怒っているようである。



「……仕方ないな……じゃ、二人でなんとかしよう。作戦会議だ」

「ふふ、ノル、好きよ」



 渋々、ファノの意見に賛同するノル。ノルに抱き付くファノ。



「……俺もだよ」



 ◇◇◇



 平屋の壁に張り付く男の影が一つ。


 平屋の上空には冷たい雲が浮いている。


 その雲が高度を下げると、周囲の木々や平屋の屋根が凍り始める。やがて平屋の屋上を分厚い氷が塞ぐように覆い被さる。


 それを合図に、壁に張り付いていた男の影が屋内に侵入する。その後を追うように直ぐに女の影も屋内へと侵入する。


 短い悲鳴が幾つか聞こえ、魔獣の咆哮が響くと、直ぐに静まりかえる。



「……どうした、何があった?」

「ここからでは、分かりません」

「……様子を探って来い」

「分かりました」



 森の奥で様子を見ていたレパード達がひそひそと話をすると、隠密行動に優れた者が一人、集団を抜け出し、平屋へと近付く。


 すると、一人の少女を抱き、二つの影が平屋から出てくるところであった。


 レパードは木陰から出ていくと、二つの影へと話し掛ける。



「……ノル、これはどう言うことか……説明してくれるかな」



 ◇◇◇



「魔人だと!?」



 ノルから説明を受けたレパードが驚く。


 ノルが平屋に乗り込むと、中には魔人が一人、妖魔が二体、魔獣が一匹居たと言う。


 直ぐにレパードは部下に指示をして平屋を調べさせると、それらの死体が転がっていたと報告を受ける。



「お前らが魔人と繋がってたってことだろ?証拠隠しで仲間を殺したのか?」

「おい、やめろ」

「す、すんません……」



 レパードの部下の一人がノルと魔人の関係を疑う発言をするが、レパードがそれをやめさせる。



「とにかく、少女は無事だったんだな」

「少し衰弱しているようだ。続きは街に戻ってからにしないか?」



 レパードはノルの提案を飲み、皆で深夜の街へと向かう。


 少女を治療施設へと送り届け、レパードの伝手で一軒の酒場を開けさせる。そこで、ノルから説明の続きを受けることにしたのだ。



「食いながらで構わないから、説明してくれないか?」

「その前に、俺らを疑ったことに謝罪して欲しいところだが……」

「少女を救い出したことには感謝する。謝罪は、君の説明を聞いた後で判断しよう」

「……まぁ、いいか。それじゃ、説明する」



 失踪事件について


 ノル達の独自調査でも、犯人の痕跡が発見できず、リリの臭いも残っていないことが分かった。


 試しに魔力跡の探索をしたところ、麦畑で奇妙な魔力の残滓を発見した。


 最近、同様の魔力を近くで感じたことがあり、思い出してみると、魔人将である幻剣士アノーリオンが脱出のために使用した、上空に浮上する魔道具ではないかと思い至る。


 そこからはノルとファノによる憶測、推理となる。


 以前、姿を消す魔人と戦ったことがあった。同様に、犯人が何らかの手段で姿を消し、上空から少女に近付く。


 少女を気絶させ、抱え、浮上の魔道具を使う。


 上空で待機していた空飛ぶ魔獣に乗り、帰還する。


 リリの臭いが途絶えていたこと、犯人の足跡がないことが、この推理の根拠となっていた。



「目撃情報がないのは?」

「犯人が姿を隠せること、一瞬の犯行であること、予想外の空からの接近・脱出に誰も気付かなかった。のではないかと考えた」



 ここまではノルの説明に頷くレパード。



「だが、いくら姿が見えないからと言って、巡回兵や我々が少しも犯人や魔獣の接近に気付かないのは不自然だな。見えなくとも、臭いだって、音だって感知出来る者は多い。それに、君らが犯人のアジトを知っていたのも不自然だ」

「それも説明するよ」



 失踪事件の資料を見返した際、ある共通点に気付く。


 事件当日の天候の資料に記された風向き。


 事件当日の風向きはほぼ全てが西風、あるいは南西の風であった。

 狩人が獲物に接近する際、必ず風下から接近する。


 犯人も同様に風下から接近したのだとすると、巡回兵達は臭いも音も感知出来なかったのではないか。


 風下となる東側から接近し、東側に逃走したのではないか。


 東側に犯人の拠点があるのではないか。


 この辺りで怪しいのは、誰もが近寄らない東の森。


 普人族との不要な争いを避けるため、サウスヴァルトの者は暗黙のルールで東の森には近付かないのだ。


 見当を付けると、急いで東の森へと急いだのだ。


 その後はレパードも知っている通りの展開である。



「……見事な推理だ。風向きには気付けなかった。恐れ入る」



 風向きに気が付いたファノの鼻が少し高くなる。



「ノル、ファノ。君達を疑って済まなかった」



 黒豹系獣人族のレパードは二人に頭を下げるのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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