表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第3章 獣-人戦争
18/39

第18話 不穏な雲行き

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルフ大陸は大きく3つの地域に分けられる。


 1つ目は、大陸西部のテイーア地方。主に獣人族の国が集まっている。


 2つ目は大陸北部のネライダ地方。主に妖精族が住んでいる。


 3つ目は大陸中央部、南部、東部のファートゥル地方。主に普人族の国が集まっている。


 テイーア地方の獣人族の国は、特に種族の拘りがなく、基本的には魔人族以外であれば、どのような種族も受け入れている。獣人族の国は、北西部のノースグラス、西部のトワイライトメーア、南西部のサウスヴァルトの三国に分かれている。


 ネライダ地方の妖精族の国は、種族の拘りを持っており、殆どが排他的な国である。また、単一種族のみで作られた大集落が幾つも点在している。


 ファートゥル地方の普人族の国は、普人族至高主義であり、他の種族を下位種族とみなしており、奴隷制度も適用している。肥沃な土地を多く持っているため、経済的にかなり発展している。


 近年はアルフ大陸内の国同士での戦争は発生していないが、北西部、北部、北東部では魔人族との戦争がかなりの頻度で発生している。


 何十年も戦争とは無縁である、アルフ大陸の南西部に位置する獣人国家サウスヴァルト。平和な国であったが、ここ数ヶ月、相次ぐ事件の発生があり、不穏な空気が流れていた。



 白いふさふさの長髪、色白で優しい顔立ちの美少女が物憂げな表情で、バルコニーから外を眺めていた。



「陛下、ここにいてはお風邪を引きますよ。お部屋の中へお戻りなさいませ」



 その美少女に声を掛けたのは、こちらも美少女。ストレートの黒髪に黒い瞳の侍女である。



「ノワ、まだ事件は解決していないのですよ……心配でいてもたってもいられません」



 若くして獣人国家サウスヴァルトの女王となったビアンカ・ラパン・サウスヴァルトは、悲しげに侍女のノワへ語りかける。



「陛下、その件は大臣が手を打っております。もうすぐ解決なさりますよ」

「はぁ……一刻も早く解決させなくては……」



 ◇◇◇



「もう、なんでノルが、行かなきゃいけないの」

「カイラス陛下からの直々のお願いだからな。仕方ないよ」



 ファノはせっかくの新居で、ノルと楽しい生活が始まると思っていた矢先、同盟国のサウスヴァルトへ行かなければならなくなった。

 行かなければならないのは、ノル一人なのだが、ファノも一人で待っているのは面白くない。そうなると、当然、ファノはノルについていくことになる。



「馬車で1ヶ月って聞いたからな。高価なクッションでも買ってお尻の負担を減らそうか」

「もぅ……」



 二人だけの旅行と考えることで、幾分、ファノの機嫌が直る。



 サウスヴァルトは同盟国のノースグラスやトワイライトメーアに助けを求めたのだ。


 今現在、発生している事件は相次ぐ失踪。何者かによって、人が拐われているのだ。


 厳重な警戒体勢を敷いていても、いつの間にか拐われている。


 サウスヴァルトから同盟国への要請は、『犯人の発見』『犯人の追跡』が可能な優秀な人物の派遣。

 そこで白羽の矢が立ったのがノルである。曲がりなりにも索敵技能☆5つを持っているので、カイラス・レオンによって選ばれてしまったのだ。


 乗り気ではなかったものの、行ったことのない土地に行くというのは、それなりに楽しみでもあった。


 高価なクッションを尻に敷き、ノルとファノは1ヶ月の馬車の旅を楽しむのだった。



 ◇◇◇



 獣人国家サウスヴァルトは、西側が平野、南側が海、北側と東側が森となっている。東の森を越えると普人族の領土となる。普人族との争いを避けるため、東の森には近寄らないのが暗黙のルールとなっていた。



「遠いところから遥々…ご足労を願いまして……まことにありがとうございます」



 ノースグラスやトワイライトメーアから派遣された人材は、ノル達だけでなかった。他にも数組の人材が派遣されている。

 ノル達派遣組は、サウスヴァルトの女王に呼ばれ、勢揃いしたのだが、誰もが今の状況に困惑していた。



「陛下、あまりに自分を低くなさいませぬよう」



 大臣が女王ビアンカ・ラパンへと具申する。それほどにも、女王は低姿勢であったのだ。



「既に失踪者は両手の指では足りないほどになってしまいました。私どもの国には、優秀なハンターがおりません。同盟国から貴殿方のような優秀なハンターにお越しいただく他、ありませんでした。失踪者を見つけ、助け出して頂きたいのです」



 女王ビアンカ・ラパンが言う『ハンター』とは狩人等の探索技能、追跡技能に優れた者を指している。女王は見た目同様に少女である。若くして女王となった理由は人々の知るところである。


 ノルは、この少女のことは全く知らないが、誠実で、民を心から大事にしていることは痛いほとに伝わってきた。



「陛下、私はトワイライトメーアの黒豹系獣人族レパードと申します。此度の事件、私どもは命に代えても解決することをお約束いたします」



 黒豹系獣人族の好青年レパードがその場に集められた者を代表して返答する。ノルとしては、命に代えるは言い過ぎだろうと思ったのだが、他の者は目を輝かせ、レパードと同様に決心していた。



「……一種の魅了よね、これ」



 隣のファノはこの状況を呆れていた。



「女王様が美女過ぎるからかな?」

「……それもあるけど……庇護欲が掻き立てられる感じ?」

「なるほど」



 ノルとファノはひそひそと話をしていた。



 ◇◇◇



「今回、私がリーダーとして皆を指揮することとなった、黒豹系獣人族のレパードと申す。まずは、事件を整理したので、皆で共有したい」



 ノルは隣の猫系獣人族のネロと言う者に聞いたのだが、あのレパードという人物は、トワイライトメーアの貴族であり、自国ではかなり偉い人物のようだ。他にも爵位持ちの者もいるようであったが、彼がリーダーとなることに反対する者は居なかった。



「事件の発生はおよそ半年前に遡る……」



 失踪事件の概要


 事件の発生は半年前。


 月に1人~2人が失踪している。


 失踪者は、全て若い女性。


 失踪する時間帯は、深夜から明け方。


 街中を警備兵が巡回しているにも関わらず、犯人らしき目撃情報がない。



「分かっていることは以上だ。何か質問はあるか?」



 誰からも質問がなく、そのままレパードの話が続く。



「巡回班、情報収集班に分ける。希望がなければ、こちらで決めるが……」



 ここでも誰からも意見がない。皆、どう動けば良いのか分からないのだ。



「……君達は巡回班だ。街の外、東側を担当するように」

「はぁ、はい」



 ノルとファノは巡回班となった。巡回班は、大きく2つに分かれる。街中と街の外だ。そこから更に、東西南北に幾つかに分かれる。巡回班は、夕方から朝方まで巡回し、報告したら休息。休息は1日半あるので、そこまで厳しいシフトではないが……少々、不満のある者もいるようだ。



「レパードさん達は、何を担当するんですか?」



 不満があるような犬系獣人族の青年がレパードに質問する。言外に、お前らも何かしろよと言っているようだ。



「私は皆からの情報の集約と整理、皆への情報の展開・共有、それと何かあった場合の追跡を担当する予定だが……君が代わりにやるか?」

「い、いや。遠慮しときます……」



 決して楽ではなく、責任の重い任務である。その後、誰からも意見がなく、各自が散っていく。



 ◇◇◇



 ノルとファノは今夜から、東側で巡回するのだが、いきなり昼夜反転させることが難しく、夕方までの明るいうちに東側を少し探索することにした。



「こうして見ると長閑で、失踪事件が起きているとは思えないな」

「まぁね……」



 東側は平坦な平野が広がり、街の近くには麦畑があった。

 その麦畑の向こう側には遠くに森が見えている。



「なぁ、そもそも、失踪って、事件なのかな?犯人が居ないから、目撃情報がないとか」



 ノルは疑問をファノに投げる。



「……どうなんだろう?じゃあ、失踪する理由って何かな?」

「分からねえな……でも、事件だとしたら、若い女性を拐うって……」



 ノルはそこで言葉を切る。



「……分かりやすいのは、性的な目的でしょうね……」

「だよね……」



 ノルとファノは嫌な気分になりながらも、その日からの巡回当番をこなして行くのであった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ