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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第2章 獣-魔戦争
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第17話 一時の平和

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルフ大陸の北西に位置する獣人国家ノースグラスは、約1年前に魔人率いる妖魔軍団に侵攻され、砦や町村が被害を受けていた。


 ノル達は、魔人将・狂戦士ガガガランを討ち倒し、更に魔人将・幻剣士アノーリオンを本国へと撤退させた。


 しかし、獣人国家ノースグラスは国王ルーラス・レオン・ノースグラスを戦いの中で亡くしていた。


 長い戦いの末、ルーラス・レオン・ノースグラスの息子である獅子騎士カイラス・レオンが魔人軍の総大将である黒騎士デューランを討ち倒し、ノースグラス軍の勝利で戦争を終結させたのであった。


 そして、ノル、シンバ、ガイル、ファノの4人は三度(みたび)、呼び出されたのである。



「此度のそなた等の活躍、しかと……えーと、聞いている。大義であった……」

「……」



 新国王となったのはカイラス・レオンである。慣れないしきたりや言葉遣いにカミカミである。



「我が父、ルーラス・レオンが生前に約束した通り、褒章、報酬を……与えよう」

「……」

「まずは4人に白虎褒章を与える」



 四聖獣と呼ばれる聖獣のうちの一体であり、獣人国家ノースグラスでは神に近い存在として尊ばれている白虎。これを象った褒章は、この国の最高名誉の褒章であった。



「この度の褒章受章、誠に光栄に存じます。これを機により一層、世の平和の為に励んでいく所存でございます」



 ノル達は、受け答えを全てシンバに丸投げした。ノル、ガイル、ファノはシンバに合わせて頭を下げたり、膝をついたりしている。



「次に報酬だが、我が父はなんでも望みを叶えると申していたそうだが……望みを……言って……みるがよい」



 あまりにもたどたどしい言葉遣いに笑いそうになるのを堪えるノル。隣ではファノが肩を小刻みに揺らしている。



「はい。私、シンバ・レオンは、生前に我が父と騎士になることを約束しました。是非、私を騎士に任命していただきますよう存じます」



 何?我が父だと?国王の息子だったのかよ、とノル、ガイル、ファノはひそひそと話をしていた。



「良い。シンバ・レオンを騎士に任命する」



 あまりにも簡単な騎士の叙勲であった。騎士叙勲式などは行わないつもりかと、隣の大臣は驚いた表情である。



「拙者、ガイルは、今後継続して神秘メダルの情報を提供していただきますよう存じます」

「良い。我が国が知り得た神秘メダルの情報は都度、提供する」



 けっこう機密情報なのだが、これもあっさりと受ける新国王。隣の大臣の顔が青ざめてくる。



「……私、ファノは……特に望みはありません。強いて言うと……家が欲しいです」

「良い。家を与えよう」



 これには大臣もホッとする。



「私、ノルは……俺の望みは……俺と勝負してくんねぇかな?」

「望むところだ!」



 大臣がそれは不味いですよ~と小声で止めに入るが、新国王は聞く耳を持っていないようだ。



「だが、ダメだ」



 新国王のその答えを聞いて、あからさまにホッとする大臣。



「それは2年前に俺から言い出した約束だ。望みとは別に勝負すればいい。他に望みを言え」

「……じゃあ、俺も情報を求めるよ。普人族のダイジってヤツの情報だ。2ヶ月前にエメンの酒場に居たヤツだ」

「良い。誰だか分からんが、我が国の情報部を動かして其奴の情報を集め、提供する」



 こうして4人の望みは叶えられることになった。



「して……勝負はいつにする?」

「今すぐにでも」



 それだけは~と大臣たっての願いで、公にはされず、人知れずひっそりと二人の勝負が行われた。



 ◇◇◇



「賑やかだね~」



 首都グラスガンは、かつてないほどの盛り上がりを見せていた。戦争の勝利、新国王の誕生を祝い、国中が盛大に賑わっていた。


 ノルとファノは屋台で串焼き、ビールや果実酒を買い、食べ歩いていた。



「いいね~、平和だね~」

「……うん、平和。みんな楽しそう」



 知らない者同士が手を打ち鳴らし、肩を組み、歌を歌っている。なんの歌かは分からないがとても楽しそうであった。


 公園の芝生の上では昼間っから酔い潰れて気持ち良さそうに寝ている者もいる。


 木の下に(ござ)を敷いて、飲んで食って、歌を歌い、踊っている者もいる。


 楽器を演奏しながら、町をねり歩く集団。その後ろから踊りながら着いていく子供達。


 どこを見ても楽しい。誰もが楽しんでいる。



「これぐらい皆が騒げば、亡くなった人達も寂しくないかな……」

「……そうだね」



 二人はオーク討伐の祝勝会を思い出していた。馬鹿みたいに飲んで騒いで、皆を巻き込んで大盛り上がり。



「おお!あっちで腕相撲大会やってるよ、見に行こうぜ!」

「参加するの?」

「相手を見てからだな」



 ノルもファノもいつもよりテンションを上げて皆の騒ぎに乗じて盛り上がっていた。まるで、誰かを偲ぶかのように。


 町中を歩き回り、いつもの南地区へと戻って来たノル達。



「……家、できるの、3ヶ月も先だって」



 プンプンとにこやかに怒るファノ。1年前に買おうとしていた家がようやく手に入るのだ。嬉しくない訳がない。



「そっか、そんなに先なのか。じゃあ、それまで迷宮でも潜る?」

「うん、いいよ」



 二人はデート気分で迷宮管理局へと歩いていく。


 迷宮管理局内のカフェで、本日限定の特別料理であるチョコレートパフェを食べながら、これからの迷宮探索計画を話し合う。



「一気に27階層まで行っちゃう?」

「27階層までなら……1ヶ月半もあれば、たどり着けるね」

「そう。そして27階層を隈無く探索して、階層守護者(フロアマスター)を倒して27階層を突破するのに1ヶ月ちょっと。少しのんびり行けば……」

「……戻ってくる頃には……」

「家が出来てる!」

「いいね!」



 そしたら、27階層突破のお祝いと家完成のお祝いを兼ねてパーティーをしよう、と二人で盛り上がる。



「……そう言えば……」



 ここでファノはあることを思い出す。普人族のダイジだ。ノルが迷宮に()()なモノを隠していることを知っていたのだ。



「迷宮、潜っても大丈夫なの?」

「平気だよ。俺以外は誰も知らない。それに、絶対に近付かないよ」

「……なら、いいけど」



 普人族のダイジが情報をどうやって知り得ているのか分からないのが不気味であるが……


 今は気にしない。お祝いムードを楽しむのだ。そう、ノル達は切り替え、迷宮へと潜って行った。



 ◇◇◇



「それにしても、魔人軍はホント期待外れだったなぁ」



 薄暗い部屋。



「もっと頑張ると思ったんだけどなぁ。魔人将もくそ弱かったなぁ。もっと強いヤツにしとけば良かったよ」



 愚痴る男が一人。



「もう少しで『正義』が手に入ったのに。くそっ。あの老いぼれ、死ぬならとっとと死ねよ。結局、くそ息子に引き継がれるとか、どんだけ骨折り損だよ、くそっ!」



 男は罵り悔しがる。



「……ふぅ。まぁ、いいさ。

 次の手は……既に打ってるしね」



 にやりと不気味な笑みを浮かべる。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

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