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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第2章 獣-魔戦争
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第14話 敵討ち

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 第十八傭兵団と魔人将・狂戦士ガガガラン率いる妖魔軍団との決戦はなんとか傭兵団の勝ちで終わった。


 将であるガガガランは敗れ、妖魔軍団はその9割を失い敗走した。


 だが、傭兵団の被害も甚大であった。第一隊隊長であるジンガを失い、第ニ隊隊長、第三隊隊長をも失った。傭兵団自体も200のうち50を失っている。命はあるが重症者の数も50となった。


 第十八傭兵団は勝ちをおさめたのだが、壊滅的な被害も出しており、戦線からの離脱を余儀なくされた。


 グラスガンへと戻ると、第十八傭兵団は解散を宣告される。まだ戦う意志のある者は他の傭兵団に吸収されたが、団長シンバ、第四隊隊長ファノ、第五隊隊長ノルは傭兵団から立ち去った。



「シンバ、ガイル、ファノ。悪いけど、俺に付き合って貰うよ」

「僕の気持ちも君と同じだ」

「拙者は元よりそのつもりである」

「……私に聞く必要ない」



 ノル達は闇に紛れるように、グラスガンの街中へと姿を消したのだった。



 ◇◇◇



 一時は戦線を押し戻していたノースグラス軍であったが、左翼の傭兵団が次々と敗れると、少しずつ戦線を押し込まれるようになる。


 首都グラスガンの直ぐ近くまで戦線が降りてくると、ノースグラス軍の本体は、遂に獅子王ルーラス・レオン・ノースグラスまでもが出陣する。


 本隊の騎士隊を指揮するのは獅子騎士カイラス・レオン。かつて武闘大会でノルが負けた相手であり、全身に戦化粧の刺青を彫り、強くなったノルが再戦を誓う相手であった。



「本体がまた勝ったらしい」

「僕も聞いたよ。カイラス・レオンが活躍してるようだ」



 傭兵団やノースグラス軍に潜り込み、情報収集をしていたのはノルとシンバ。そこでは、魔人軍の動向やノースグラス軍の状況などが話されていた。



「で……そっちはどうだった?」

「僕の方は、他の魔人将の噂しかなかったよ」

「そうか……俺の方は、ガガガランではないが、あの鷹獅子の魔獣の噂を入手したよ」



 魔人軍には、鷹獅子を従えた特殊部隊が存在する。


 特殊部隊は、各地域の戦況を監視しているらしい。


 鷹獅子は、魔人軍の遥か後方に飛んでいくのを何度か目撃されている。



「どれも噂程度で、信憑性に欠けるけどな」

「何も情報が無いよりはマシだよ」

「そろそろファノ達と合流するか」

「恋しくなった?」

「シンバ、殴るよ?」

「痛っ!言う前に殴るなって」



 ◇◇◇



「……と言うわけで、西側を通って相手の後方に回り込む。そこにガガガランが居ない可能性もある。その時は、特殊部隊かなんか知らないが、そいつらを倒して戻ろう」



 ノルが作戦の概要を皆に話す。かなり大雑把な作戦である。


 地図を開き、大体の目標ルートを確認する。グラスガンの北西の村・パースの北側を東西に横たわる山脈が厄介である。標高が高いので越えて行くのはかなりの時間を要する。山脈が切れる西の端を通り、山脈の北側の麓を東に向かう。再び街道と交わる辺りが鷹獅子が飛んで行った方角と一致するのだ。



「……質問」

「ファノ、どうぞ」

「どのくらい、かかるの?」

「徒歩で約1ヶ月」

「……その間に特殊部隊が移動してたら?」

「そこら辺の魔人軍に八つ当たりして帰って来よう」

「……」



 仕方ないのだ。あれ以降、ガガガランは戦線に出ていない。目撃情報もなければ何の噂もない。不確かな情報しかないが、このまま指を咥えて待っていられない。


 とノルが熱く訴える。



「と言うことだね。

 ガイルさんとファノの方はどうだい?」

「全て完了である」

「……余計な物も買ったかも」



 長旅に必要な食料等の買い出しをガイルとファノに頼んだのだが、シンバは不安であった。この2人は少し常識離れしているところがあるからだ。



「よし、出発しよう」

「ノル君……焦りは禁物だよ」

「ノル殿、冷静にな」

「……ノル、慎重に」

「分かってるよ……出発は明朝にするから」



 ◇◇◇



 ノースグラス軍本体と魔人軍本体の距離がだいぶ近付いてきている。最終決戦が近いのではないかと噂され、首都グラスガンではピリピリとした雰囲気に包まれていた。


 その頃、ノル達は馬車を買い上げ、西の海岸線まで来ていた。



「ノル君、ここからは馬車は無理だね」

「元々歩く予定だったから、問題ないよ」

「それにしても、よく馬車を買う資金があったね?」

「……家、諦めたから」



 ファノが買った『余計な物』が馬車だったことが分かったのは、あの話し合いの翌朝。

 では出発するか、となった時に、ファノから『馬車で行く?』と発言があり、ノルもシンバも冗談だと思っていたのだが。まさかの本気だったのだ。



「馬達は勿体ないけど、ここで手放そう。じゃあな、達者でな」



 ノルが二頭の馬を放してやる。荷台はここで放置。夢のマイホームが二頭の馬と荷台に変わり……ここでお別れとなる。ファノの大胆な買い物のお陰で随分と時間短縮が出来たのだ。これで良かったのだ。


 と、ノルは何度も自分に言い聞かせるのであった。



 ◇◇◇



 ノースグラス軍本体の目覚ましい活躍があり、戦線をだいぶ押し戻すことに成功していた。魔人軍本体も一時的に下がったようで、とりあえずは危機を凌いだ状況であった。


 その頃、ノル達は山脈の北側の麓を東に進み、あと2、3日で街道に出るという所まで進んでいた。



 野営地点にシンバ、ガイル、ファノを残し、ノル1人で偵察に出ていた。


 朝、霧が晴れてくると、野営地点にノルが戻ってくる。



「ノル君、どうだった?」

「ここから徒歩で半日の所にそれっぽい隊が居た。鷹獅子は居なかったけど、数匹の翼がある魔獣がいる部隊がいた。おそらく偵察部隊だと思う」

「ガガガランは?」

「分からないが、ヤツが寝泊まり出来そうな大きさのテントはあった」



 ノル達は、その部隊を目標に設定する。


 慎重に近付いていき、近くの低木に身を潜めて様子を窺う。


 午前中に何度も鷹のような魔獣が飛び交っていた。おそらく、ここの部隊が集めた情報を各地に知らせているのだろう。


 すると、昼過ぎに、巨大なテントから巨躯の魔人が姿を現す。



「待つんだ、ノル君。もう少し様子を見よう」



 現れたのはガガガラン。思わず飛び出しそうになるノルをシンバが押し止める。


 ガガガランは左側の2本の腕で巨大剣を持ち素振りを始める。右側の腕を2本とも失っているのでバランスが悪いようだ。それと、左足の膝から下が義足になっていた。それもバランスの悪さを増長しているようだ。



「腕と足以外の傷は完治しているな……」

「……ノル君、ガガガラン以外の戦力を教えて欲しい」

「ああ……」



 ガガガラン以外の戦力


 魔人:1人

 妖魔:15~20体

 魔獣:大型3匹、小型4匹



「おそらく、あの魔人がこの部隊の隊長だろう」

「ノル君、魔人の特徴を教えてくれ」

「あぁ、魔人の特徴は……」



 魔人の特徴


 身の丈はシンバと同程度。おそらく185~190センチ前後。

 体格は細身でノルと同程度。

 顔には爬虫類系の特徴がある。

 武器は見当たらない。所持していないようだ。



「隊長クラスだから弱いことはないだろうけど。ノル君、妖魔の特徴も教えてくれ」

「あぁ、妖魔の特徴は……」



 妖魔の特徴


 身の丈はファノと同程度。160センチ前後。

 体格は細身でファノと同程度。

 魔人と同様に爬虫類系の特徴がある。

 武器は腰に短剣をさしている。



「この辺りだと見かけないタイプだ。蜥蜴に似た印象もあるが少し違う。爬虫類系なのは確かだな。魔人と同系統の妖魔だと思うよ」

「魔獣は?」

「あぁ、魔獣の特徴は……」



 魔獣(小型)の特徴


 鷹のような鳥タイプ。

 翼を広げた状態で150センチ程度。


 魔獣(大型)の特徴


 鳥と獣が混ざったような見た目。

 大きさは大型の狼から熊程度。



「いずれも翼を持っている」

「全て飛行型か……厄介だね」



 相手の特徴や数が分かったところで簡単な作戦を立てる。



「ガイルは妖魔を殲滅して欲しい。速度重視で頼む」

「心得た」


「ファノは魔獣。上空から襲われるのは厄介だ。風の魔術とかで叩き落としてくれ」

「……うん」


「シンバは魔人を。どのくらいの強さか分からない。油断しないでくれ」

「承知した」


「自分の担当分が片付いたら周りの状況を確認して状況が良くない方から手助けしてくれ。

 悪いが俺はガガガランに行かせて貰うよ」

「ノル君、くれぐれも死なないでくれ」

「拙者が駆け付けるまではなんとか頼む」

「……死んだら許さないから」


「それじゃ……行こうか」



 ノルの並々ならぬ想いが込められた戦いが始まろうとしていた。



 ◇◇◇



 魔獣が休んでいるところに、突然、氷の暴風が巻き起こる。油断していた魔獣はことごとく暴風に巻き込まれる。暴風がおさまった頃には、翼が傷付き、まともに飛び上がることが出来なくなっていた。


 魔獣への奇襲に驚き、直ぐに反応した妖魔達。腰の短剣を抜き、来襲者を探す。そこへ黒い影が飛び込む。縦横無尽に妖魔どもの間を駆け抜ける黒い影。気付けば妖魔どもは、頭と胴体が斬り離されていた。


 魔人は妖魔どもが襲われている光景を見るや姿をくらます。その場で溶けるように姿を消したのだった。


 味方の魔獣や妖魔達がやられて行く光景を見ながら既視感を覚える巨人。



「よぅ、大将、詰まんなそうだな。ちょっくら俺らと遊ばねえか?」



 巨人が振り返るとそこには見覚えのある男が1人で立っていた。



「……俺ら?貴様一人に見えるが…仲間はどうした?

 あぁ、ゴミ屑のように潰れたのだったなぁ?クククッ」



 明らかなガガガランの挑発に、ノルの眉毛がピクリと跳ねる。



「……ゴミ屑にやられて逃げ帰ったお山の大将は、こんな所で暇潰しかい?

 あぁ、恐くなって前線に出られなくなっちゃったのかなぁ?」



 ノルは何とか熱くなる頭を冷やして、逆にガガガランを挑発する。



「……ス……ロス……コロスコロスコロスコロス!GOOOOAAA!」



 ガガガランは油断するつもりはなく、はじめから全力である。魔人の覇気を纏うと、筋肉が膨張し身体が大きくなる。



「『銀狼の覇気』『闇金円舞』」



 ノルも全力でいく。闘気による身体強化と魔術による身体強化を並行させる。



「GUAAAAAA!」



 ガガガランが巨大剣を天に突き上げる。その巨大剣が降り落ちる前にノルは突撃した。



「おぅらぁぁぁぁぁあ!」



 白銀の槍と化したノルがガガガランの右足を突き抜ける。


 ガガガランは体を無理矢理捻りながら、ノルの進行方向に巨大剣を降り落とそうとする。


 ノルの頭上に落ちる予定の巨大剣は、しかし、すっぽ抜けたように遥か彼方へ飛んで行く。



「GAAA…………」



 ガガガランの左下腕がちぎれ、左上腕も半ばまで斬れていた。



「相手は1人ではないぞ?

 と言ったはずだがな」



 半竜化したガイルの必殺の一撃がガガガランの腕を斬り飛ばしていたのだ。


 ガガガランは地に膝をつき、体を支える腕もなく、無様に顔から地面に突っ込む。



「助けてくれる仲間は居ない。覚悟しろ!」



 ノルは再び白銀の槍と化すと、ガガガランの顔面へと必殺の中段突きを放つ。


 ガガガランの頭蓋骨とノルの棍がぶつかり、激しい衝撃が周囲に走る。


 声もなく生き絶えるガガガラン。



「ノル殿、ようやく3人で倒せましたな」

「……あぁ……」



 ◇◇◇



 シンバは見えない敵に神経をすり減らしていた。

 近寄る前に姿を消した魔人。無防備に魔術を放つファノが危ないと考え至り、直ぐにファノの護衛に向かう。ファノは、散り散りに逃げ惑う魔獣を一匹ずつ確実に仕留めていくが……



「……数匹、逃げられた」

「ファノ、魔人が姿を消した。油断するなよ」



 既にこの辺りには動ける魔獣は居ない。ただし、姿の見えない魔人がいる筈なのだ。



「……大丈夫。姿は見えなくとも、その呼吸は聞こえるから」



 ファノは耳を澄まし、魔人の気配を探る。


 魔人は見つかる筈はないとたかをくくっていた。

 ガガガランを仕留め油断している銀色の獣人に狙いを定め、そろりそろりと近付き、ナイフのように鋭く尖った己の手爪刃を突き立てようと……



「ノル!」



 ファノの叫び声。反応したノルが飛び退く。辺りには氷の矢が降り注いだ。



「ぎゃぁぁぁぁあ!」



 ピンポイントでは魔人の場所を特定出来なかったファノは、面で制圧することにしたのだ。氷の矢に串刺された魔人は姿を現し……



「居ね」



 ガイルの大太刀が一閃すると、魔人の頭は胴体と斬り離されていた。



「ノル君、早々に立ち去ろう。魔獣が数匹逃げた。仲間を呼ばれ兼ねない」

「分かった。撤退しよう」



 そうノルが決めると同時に、遠くに土煙があがる。おそらく、魔人軍の援軍だろう。相当に速い。



「ヤバいな!皆、逃げるよ!」



 ノル、ガイル、シンバ、ファノは全速力でその場を去った。


 遠くまで逃げ、木陰から様子を窺うノル。



「すげぇ数だよ。近くに本体でも居たのかな?」



 寸でのところで大軍との遭遇を回避したノル達。ジンガの弔い合戦にも終止符を打ち、グラスガンへと帰路にたった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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