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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第2章 獣-魔戦争
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第13話 魔人将

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 獣人国家ノースグラスの北には、大きな海峡があり、海峡を境にそれより北方は魔人の国と呼ばれている。

 その年、急に魔人が群れをなしノースグラスに現れた。魔物を引き連れ、砦や町村を襲撃し南下してくる。ノースグラスは次々に魔人軍に占領されていった。


 追い詰められたノースグラス。獣人国家ノースグラスの王である白獅子系獣人族のルーラス・レオン・ノースグラスは、名だたる戦士や魔術師を集め、起死回生の奪還作戦を結構する。



「行け!」



 斑獅子系獣人族のシンバの号令とともに傭兵団が妖魔軍団へと襲い掛かる。


 傭兵団の数は200。対する妖魔軍団の数は500を超えている。


 傭兵団の先頭を走る幾人かの頭上を越え、妖魔軍団の中心に氷の暴風が巻き起こる。


 混乱した妖魔軍団。そこへ、矢のように鋭く飛び込む傭兵団。


 先頭は黒竜系竜人族の男。身の丈を越える大太刀を振るい、あっという間に妖魔を葬っていく。


 2番手は剛猿系獣人族の戦士。黄金に輝く両拳で立ち塞がる妖魔を打ち砕いていく。


 3番手は銀髪で褐色の肌の男。淡い白銀色に身体を発光させ、棍を振り回し次々と妖魔を打ち倒していく。


 みる間に妖魔軍団の数は減っていく。


 敵わないとみるや、妖魔軍団は散り散りに退散していく。



「「「うぉおおおおおお!」」」



 いたる所から勝鬨が上がる。



 神出鬼没の傭兵団は、連戦連勝を繰り返し、徐々に奪われた町村を取り返していった。



 ◇◇◇



 戦線を徐々に北に押し返していくノースグラス軍。中央の本体は、屈強な王国騎士団が率いている。左翼は傭兵団。右翼は各領地から集められた貴族の連合軍である。



「この度のそなたらの活躍に王よりお褒めの言葉を頂くとともに戦功章が賜れた」



 おそらく猿系獣人族と思われる頭の薄い大臣に呼びつけられ、第十八傭兵団団長のシンバ以下、各隊の隊長が集まっている。



「なぁジンガ、俺達必要だったのかな?」

「さぁなぁ~。まぁ、シンバ1人じゃ寂しいだろうからよぉ」

「……ふぁ~」



 第一隊の隊長はジンガ。特攻隊である。隊員にはガイルもいる。

 第ニ隊は、攻撃・守備隊である。第一隊と連動した攻撃の役割と守備としての前線維持の役割がある。

 第三隊は守備隊。主に魔術師隊の護衛が役割である。

 第四隊の隊長はファノ。魔術師や治癒師を集め、遠距離からの先制と怪我人の治療が主の役割である。

 第五隊の隊長はノル。索敵、偵察、警戒を一手に引き受け、遊撃隊の役割を担う。


 偉い人に呼ばれて集まってはいるが、皆、それなりに忙しい。戦時中にこのようなことに時間を割かれるのを良く思っていなかった。



「まぁ、リーダーが偉くなれば、俺らもやりやすくなるのかな?」

「さぁなぁ~」

「……ふぁぁ」

「ファノ、眠そうだな」

「……寝てないから」



 隊長達の中でも特に忙しいのはファノだろう。戦闘が終わってからも怪我人の治療があり、隊長であるファノが色々と指示をしているのだ。


 ようやく、長たらしい大臣の口上が終わり、シンバ以下、各隊長が解放される。



「皆、すまん。こんなのに付き合わせちゃって。一応、褒章だからね。断ることも出来ない」



 この戦争に志願した傭兵は約4000人。王国は、それを一つの軍として運用するのではなく、20の団に分けて運用している。元より主戦力とみなしておらず、ゲリラ戦を仕掛けて相手を混乱させることが目的であった。戦時中に褒章を出すのも、各団での競争意識を高めるためだろう。

 シンバはそれが分かっている。だからこそ、こんなくだらないことにノル達を連れて来なければならないことを悔やんでいる。



「明日からはまた戦線に戻るよ。ようやくパースにも届きそうだ」



 シンバ達が傭兵団に志願したのは、パースを取り戻し、亡くなった者を弔うためだ。今まで取り戻した町村も全ての遺体を集め、弔ってきた。ようやくパースにもあと少しという所まで迫ってきたのだ。



「リーダー、水を差すようで悪いんだが……」

「ノル君、悪い報せかい?」

「あぁ……俺達がこれから向かう戦地でな、ヤツが現れたそうだよ」



 ノルが『ヤツ』と呼んだ者。それは、オークキングのような巨躯に4本腕の魔人。パースの村を滅ぼしたヤツである。後から分かったことでは、ヤツは魔人将の一人であり『狂戦士ガガガラン』と呼ばれている。



「厳しい戦いになるな。気を引き締めねば」

「……ヤツには俺とジンガ、ガイルの3人で挑もうかと思っている」

「ならば、僕も!」

「待てって。リーダーにはリーダーの役割があるだろ。代わりが居ない。それと、リーダーには、周りの雑魚を近付けないようにして欲しいんだ」

「……考えさせてくれ」



 ◇◇◇



 首都グラスガンから北に徒歩5日の地点。そこで、魔人率いる妖魔軍団と第十八傭兵団がぶつかろうとしていた。


 妖魔軍団は中央が飛び出た槍の穂先のような陣形を取っている。先陣となる中央がぶつかり相手を押さえているところに左翼、右翼が両脇から挟む戦法である。


 対する傭兵団は、方陣で向かう。前方に第一隊を置き、左側を第ニ隊、右側を第三隊で固めている。中央後方の第四隊は攻撃の主軸となる。第五隊は、大きく回り込み相手の後方から奇襲する。



「行け!」



 傭兵団団長シンバの号令とともに隊形を維持しながらゆっくりと前進する。



「ファノ!頼む!」

「任せて」



 妖魔軍団が射程範囲に入るや否や特大魔術が放たれる。


 極太の赤い閃光が妖魔軍団の先陣を襲う。閃光に晒された妖魔は瞬時に真っ黒い炭と化した。火属性魔術を得意としている魔術師が数人で魔術を同調させた特大魔術である。



「次、行くよ」



 ファノの指示の元、次々に特大魔術が放たれる。


 妖魔軍団は中央の先陣から総崩れとなり、僅かな間におよそ半数までその数を減らされていた。それでもまだ200は無傷で残っている。



「最後」



 ファノの指示の元、最後は妖魔軍団の中心に氷の暴風が現れる。暴風が収まる頃には、妖魔軍団は150まで減っていた。



「……もう、暫く打ち止めよ……」



 約20人の魔術師が初っぱなから全力で放った魔術。途中で何度も魔力回復薬を飲みながら死力を尽くした。妖魔軍団は、この攻撃により全体の7割を失ったのだ。



「来るぞ!備えろ!」



 特大魔術を免れた妖魔軍団の右翼、左翼が傭兵団の左右から襲い掛かる。


 傭兵団の左右は、皆、大盾を構えている。



「うぉおおおおおお!」



 襲い掛かる妖魔軍団を大盾で押さえ込む傭兵団。その後ろから5メートルを超す長槍で妖魔軍団を刺し殺していく。更に単発だが、氷の矢、火の矢、雷の矢が後方の妖魔軍団へ降りかかる。



「全力で押し返せ!」



 妖魔軍団150に対し、傭兵団160。数の差は殆ど無いのだが、傭兵団のうち40は魔術師と治癒師である。つまり、まだ数の上では劣勢なのだ。



「……もう少しだ……もう少し踏ん張ってくれ、みんな……」



 ◇◇◇



 妖魔軍団と傭兵団の戦いを後方で見ている巨人。胸の前と腹の前で腕を組んでいる。傍らには、4本の巨大な剣が地面に突き刺さっている。


 詰まらなそうに戦いを見ている巨人こそ、妖魔軍団の将である魔人将・狂戦士ガガガランであった。



「よう、大将、詰まんなそうだな。ちょっくら俺らと遊ばねぇかぁ?」



 剛猿系獣人族のジンガが狂戦士ガガガランの正面に立ち塞がる。



「3対1だが、悪く思わんでくれ」



 黒竜系竜人族のガイルがジンガの左後方に立つ。



「まぁ、奇襲しなかっただけでも良しとしてくれ」



 銀狼系獣人族と闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の混血であるノルがジンガの右後方に立つ。



「ほぅ……

 矮小な者どもが、この俺に挑むだと?

 うわっはっはっ!面白い、笑わしてくれる。

 まぁ良い。退屈しのぎにはなれよ!」



 狂戦士ガガガランが4本の巨大剣を手に持つ。


 同時に、ジンガの両拳が金色に包まれる。



「行くぜぇ」



 ジンガが正面から立ち向かう。


 そこへガガガランの巨大剣が四方から襲い掛かる。


 ジンガは金色に輝く両拳でガガガランの巨大剣を全て打ち返す。



「どうした、魔人将!そんなもんか!」


「人間風情がぁ!」



 ガガガランがジンガを狙い、巨大剣を振り回そうとした瞬間、ガガガランの右下腕から血が噴き出す。



「相手は1人ではないぞ?」



 半竜化したガイルの一撃がヒットした。



「小癪なぁ!」



 ガガガランがジンガとガイルに狙いを定め、巨大剣を振り回そうとした瞬間、ガガガランの左膝に衝撃が走る。



「だから、相手は1人じゃないって」



 白銀色に包まれたノルの棍の一撃が決まった。



「はっ、舐めるなクソ虫どもが!GOOOOAAA!」



 吠えるガガガラン。その巨大な身体を黒い光が包み込む。すると、ガガガランの身体が一回り大きく、更に力強くなっていく。



「身体強化?気を付けろ!魔人の覇気だ!」



 ノルが叫ぶ!



「GUOOOOA!」



 ガガガランは、4本の腕を全て大上段へと突き上げる。そこから凄まじい勢いで振り下ろす。



「ジンガ!」

「ジンガ殿!」

「うぉおおおおおお!」



 巨大な4本の剣が全てジンガに降りかかる。ジンガは腕を交差させ受ける。


 地響きとともに砂塵が舞い上がる。


 砂塵が晴れると、そこには仁王立ちのジンガがいた。



「へっ、大したこと、ねぇなぁ!

 うぉらぁぁぁあ!」



 持ちこたえたジンガが渾身の右ストレートをガガガランの土手っ腹へと放つ。


 何かが潰れるような砕けるような奇妙な音がした。



「あ、あれ?」



 ジンガの肩から肘までがグニャリと曲がっていたのだ。



「ジンガァ!離れろ!」



 ノルの叫び声に即座に反応したジンガ。直ぐにバックステップでその場を離れようとするが……


 ぐしゃりと下半身が潰れる。



「ガイル!」

「応っ!」



 即座にガイルが大太刀から真空波を放ち、そのまま、飛び込んで右足へと連撃を放つ。


 ガガガランの注意がガイルへと逸れる。


 ノルはその隙にジンガに駆け寄り、ジンガの体を持ち上げようとするが……



「あ、れ?

 あ、ぁぁぁぁ……ジン、ガ……」



 ジンガは、身体中の骨が砕け、筋がずたずたに切断されていた。ノルが持ち上げようとするが、肉体がぐにゃりと曲がり持ち上げられなかったのだ。



「ノ…ル……は…な…れろ……」



 ジンガはそれだけ絞り出すように言うと、吐血し、地面に沈み込むように倒れた。



「ノル殿!」



 ガイルの声に反応したノルは素早くその場を離れ……


 ガガガランの攻撃が降り落ち、ジンガとともに周辺の地面を砕く。



「うぁぁぁぁぁああああ!このヤロォォォォォオオオ!」



 ノルは怒りに身を任せ、ガガガランへ突撃する。白銀の矢と化したノルの一撃がガガガランの左膝を突き抜ける。



「GUAAA……」



 ガガガランが片膝を地面に付く。と同時にガイルの大太刀がガガガランの右下腕を斬り飛ばす。



「GUAAAAAA!」



 ガガガランの絶叫が響き渡る。


 まだまだガイルとノルの攻撃は止まらない。ガガガランの右側面からはガイル、左側面からはノルの渾身の攻撃が続く。


 だが、そのままでは終わらないのが魔人将なのだろう。


 ガガガランは残っている3本の腕を大上段へと突き上げると、凄まじい勢いで振り下ろす。


 ガイルは横に大きく飛んでかわす。


 ノルも横に大きく飛んでかわすのだが……


 ガガガランの左上腕の一撃だけが一拍遅れて振り下ろされる。


 飛び退いたノルの頭上から降りかかる巨大剣。ノルは転がるように避け、なんとか巨大剣の直撃は避けるが……



「がはっ」



 砕かれた石礫がノルの体を穿ち、その勢いでノルは吹き飛ばされる。


 だが、大技を叩き込んだガガガランにも大きな隙が出来ていた。



「GUAAAAAA!」



 ガイルの大太刀の一撃がガガガランの右上腕を斬り飛ばした。


 ガガガランは足を引き摺り、ガイルの方へと向きを変えようとするが、それよりも早くガイルが腕の無い側面へと回り込む。


 斬り飛ばされた腕の傷を抉るようにガイルの刺突がガガガランを襲う。


 大量に血を失ったガガガランの身体から黒い光が失せ、元の大きさへと縮んでいく。


 そこへ白銀の矢が突き刺さる。ノルの渾身の中段突きだ。


 ガガガランの左脇腹を大きく抉った。


 ガガガランは大きな音を立て、崩れ落ちた。



「ノル殿?」

「はぁはぁ、何とか……」



 半竜化から戻ったガイルと白銀色の光を失った血だらけのノルが居る。だが、ジンガはそこに居ない。地面に残った血溜まりだけがジンガがそこに居たことを示していた。



「あぁぁ……ジンガァァァァァア!」



 ノルの絶叫が響き渡る。


 膝をつき項垂れるノルを置いて、ガイルが止めを刺そうとガガガランへと近寄った時、上空から大きな影が舞い降りる。


 鷹のような頭と翼を持ち、獅子のような体をした何か。


 それが、ガガガランの巨体に降り立つと、4本の足でガガガランの体へ爪を食い込ませ、上空へと飛び立ったのだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



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