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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第2章 獣-魔戦争
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第11話 急転

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ファノの故郷である闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の村で濃密な2ヶ月を過ごしたノル。


 ファノの祖母であるエルミアに戦化粧の呪術を施して貰い、村一番の身体強化魔術の使い手であるエドラにみっちり稽古をつけて貰った。


 エルミアが施した呪術は、全身に入れた戦化粧と呼ばれる刺青である。特殊な白銀の墨を用い、足の先から頭皮に至るまでまさに全身に入れたのだ。不思議な紋様は銀狼を模した図柄であるらしい。銀狼の覇気を纏うと魔力が闘気に変換され全身を覆う。それらが銀狼の覇気を維持するのだ。これにより飛躍的に覇気の使用時間が伸びるだろう。


 エドラとの稽古では、まず『金剛』のダメ出しから始まった。金剛自体は悪くないのだが、並行して金剛と闇の乱舞を使うこと自体が阿呆であると罵られた。並行して2つの魔術を使うことはあっても、どちらも己の身体を強化する魔術ならば、2つの魔術を合わせるべきだと。そして、金剛と闇の乱舞を混ぜ合わせた『闇金円舞』という新たな魔術を完成させた。おそろしくじゃじゃ馬な魔術であり、強化された身体能力を使いこなすのにかなりの時間を要した。


 そして、半年。



「帰って来たぞ~!」

「……帰ったよ~」



 ノルとファノはグラスガンへと帰還したのだった。



 ◇◇◇



「ファノ、これからの予定を決めるよ」

「うん」


「まずは……」



 金策。1年2ヶ月の旅路でそれまでに貯め込んでいたお金は底を尽きかけている。早急に迷宮に潜ってお金を稼がねば、泊まるお金も無くなってしまう。当面の目標として小金貨10枚程度。数日の宿泊代と深層へ潜るための準備資金を稼ぐ。



「次に……」



 力試し。今のところ最深到達階層は22階層である。深層を探索する上級探索者ではあるが成り立て。上級探索者の中では駆け出しである。着実に1階層ずつ踏破し、どこまで行けるか力を試す。



「そして……」



 家の購入。2人がいつでも宿に困らないように、家を買う。そんなに大きな家でなくて良いので、マイホームを買うのだ!



「最終目標は……」



 30階層の踏破。史上最深到達階層である30階層を踏破、突破し、誰も足を踏み入れたことのない31階層へと踏み込むのだ!



「おぉ~」



 パチパチパチとノルの力説に拍手するファノ。



「と言うことで、今日の宿泊代もギリギリだから、早速だけど迷宮潜ろうか。半日で戻って来れる程度で頑張ろう。そしたら、帰還祝いと行こうじゃないか!」

「……うん、締まらないね。ノルらしい」



 帰還祝いどころか今夜の宿泊代も怪しいくらいの所持金。数年前の金欠時代を懐かしむノル。そんなノルを見てほっこり微笑むファノ。グラスガンに帰って来たことで少なからず心にゆとりが出来たようである。



 ◇◇◇



 アルフ大陸の北西に位置する獣人国家ノースグラス。その首都グラスガンには巨大な神造迷宮がある。この迷宮は地下1階層から10階層までを低層、11階層から20階層までを中層、21階層から30階層までを深層と呼ばれている。


 各階層には安全地帯と呼ばれる迷宮守護兵(ガーディアン)が入って来れない広間がある。過去の賢者が各階層の広間に転移陣と呼ばれる魔方陣を設置しており、各階層から地上までの移動魔術が組み込まれている。迷宮から帰還するには転移陣を利用することで一瞬で帰って来れるのだが、この移動魔術には制約があり、一方通行であるため、下層に降りるにはどうしても時間が掛かってしまう。


 ノルとファノの2人パーティーは、低層の最下層である10階層までは2日で辿り着ける。中層の最下層である20階層までは更に5日を要する。つまり、1週間あれば20階層まで辿り着けるのだ。


 だが、そこからが長い。まず20階層を突破するだけで5日、21階層を突破するのに更に6日を要する。22階層に辿り着くまでに半月以上掛かるのだ。


 ノル達の攻略方法はその階層を隈無く探索し地図を完成させる。完成した地図を眺めながら怪しい地点をチェックし、隠された宝箱がないか、隠し通路、隠し部屋がないかを慎重に調査するのだ。全てを探索し終えると階層守護者(フロアマスター)を倒し、次の階層へ降りる資格を得る。かなり時間をかけて探索しているので、新しい階層を突破するのに約1ヶ月ほどを要するのだ。


 そして、グラスガンに帰還してから半年後、26階層を突破したノルとファノが久し振りに地上へと帰還した。


 迷宮管理局で帰還報告を行い帰還報告書を提出し、馴染みの店を回り帰還したことを知り合いに告げて行く。それと同時に迷宮で手に入れた不要な宝を売り捌いていく。


 漸く、酒場に辿り着いたノルとファノは個室を借り、祝杯をあげながら、今回の探索の成果を確認する。



「乾杯!」

「乾杯」



 2人だけのささやかな乾杯。半年前は所持金が底を尽きかけていたのだが……



「なんと!」

「なんと?」

「金貨31枚、小金貨8枚の成果となりました!」

「おぉ~ぱちぱちぱち」



 大人1人が18年程度は暮らしていける程の額である。



「……ノルの目標額は?」

「クリアです!」

「……ということは……」

「家を買います!」

「おぉ~ぱちぱちぱち」



 その夜は2人で今後の夢を語りながら夜遅くまでゆっくりと過ごす。



 ◇◇◇



 翌日、朝早くから二人仲良く家探しに出掛ける。いつもは迷宮の入口がある南地区でしか活動していないのだが、どうせだからと東西南北の地区全てを歩いて回ることとしたのだ。



「なんだか、朝は人が少ないね」

「うん、少ない」



 思ったよりも出歩く人が少なく閑散としていた。そう言えばと、昨日のことを思い返してみると、やはり出歩く人が少なかったようだ。



「なんか変だよ、やっぱり」

「……う~ん、分からないけど……」

「俺らが暫く迷宮に潜ってる間に何かあったんじゃないかな?」

「……う~ん」



 これから楽しい家探しであったのに、何やら雲行きが怪しくなってきて、ファノとしては残念で仕方ない。余計なことに首を突っ込みたくないのだが、相方の性格からするとそうも行かないのだろう。


 南地区を抜け、西地区に入っても同じ。北地区に入ると更に人が少なくなっているようだった。



「斡旋所に寄ってみようか。何か分かるかもしれない」

「……はぁ。そうしようか」



 ノルは妙な胸騒ぎが大きくなってきていた。ファノはもう平穏はないのかなぁ~と落ち込んでいた。



「すんません、教えてください!」



 ノルは斡旋所に入るなり、受付のお姉さんの所に駆け込んだ。



「街の様子がおかしかった気がするんですけど、何か事件でもありましたか?」

「えっと……事件?もう結構経ちますが心当たりはあります」

「何ですか!」

「2ヶ月前くらいですが、魔人軍が攻めて来たんです」

「詳しく!」



 受付嬢から教えて貰った話を要約する。


 2ヶ月前、獣人国家ノースグラスの北の国境であるノース大海峡を渡り、魔人が率いる軍隊がこの国に攻め入った。


 あっと言う間に魔人軍は南に進軍し、幾つかの砦、町や村が滅んだ。


 今は王国騎士団を中心に魔人軍の侵攻を食い止めている。


 斡旋所でも傭兵を募集し幾つかの傭兵団が前線へと向かった。


 ノル達が思っていた以上に深刻な事態になっていた。


 呑気に迷宮に潜っている場合ではなさそうだ。家を買っている場合でもないかもしれない。ノルとファノもそう考えていた。



「ノル君?ノル君じゃないか。それとファノさんも居るなんて!丁度いい!」



 斡旋所内でノルとファノがこれからどうしようかと悩んでいるところに、突然声をかけられる。


 ノルが振り返るとそこに居たのは、ノルよりも少し背が高くがっちりとした体型の斑獅子系獣人族の青年だった。



「リーダー、久し振りだね!」

「リーダーはよしてくれよ。今はシンバで頼むよ」

「分かったよ。で、何が丁度良かったんだ?」

「依頼をかけようかと思ってたんだ」



 シンバの話によると、シンバの母親の生まれ故郷である村・パースがグラスガンの北西にあるらしく、母親からその村の様子を見て来て欲しいと頼まれているそうだ。



「で、僕の伝手を使って仲間を集めたんだけど、みんな戦闘バカだけでね。索敵も出来ないし遠距離攻撃も出来ないんだ。だから、その足りない人員を募集しようかと思って斡旋所に来たところなんだ」



 ノルは横で一緒に話を聞いていたファノと目を合わせる。相談する必要もなく、ファノも同じ考えだと読み取る。



「シンバ、俺らも加わるよ。よろしく」



 こうしてノルとファノは再びシンバとともに旅をすることとなった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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