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荷車

 ぶっ倒れたダルガに触ると、酷く熱かった。


 ここまで熱かったらかなり寒かっただろうに、こいつは本当に馬鹿なのかもしれない。


 とはいえ、ほっとく訳にもいかないので担ぎ上げ、川の中に放り込んだ。


 川の中で服を全部剥ぎ、血と傷口を洗う。ついでに汚れてそうな所は全部洗う。


「ちょ、やめ・・・」


 何か聞こえたが気にしない。

 昔の話だがジジィの介護にクソの始末までしてたんだ。手慣れたもんだ。

 まぁ、デカくて重い分、少しやりにくいが。


 しかし・・・本当に治りかけてる。化膿も・・・してない。すげぇ生命力だ。


 デケェな・・・。


 ついでに服も洗って乾かす。


 俺は服を収納から直接着れるが、他人まではそうもいかない。


「フーカ、敷物を川べりにまで持ってきてくれ。ビリィお前拭く物持ってたよな?貸してくれ」


「はいっ」


 ん?返事が一つしか聞こえない?


 見るといそいそと動くフーカと、露骨に顔をしかめているビリィが見えた。


 嫌か?嫌なのか・・・。まぁ、そういうのもあるだろう。仕方ない。

 フーカも持ってた筈だな。


「ならフー」


「今持っていく‼︎」


 ⁉︎

 ビリィが今まで見たことのない速さで走った。


 なんなんだ!?


 ダルガが一緒に行動するようになってから、ビリィの様子が変だ。

 同行を拒否した事から、最初は嫌っているのかとも思ったが、普通に話もするし、笑い合う事もあるから別段嫌い、という訳ではなさそうだし。


 俺がダルガに指南しているのが気に入らないとか、それに時間を取られるのが嫌。なのかとも思えば・・・多少はあるみたいだがそれだけでもないっぽい。


 ただ、本人の中でも揺れている所があるようだから、なんか色々とあるんだろう。


 水の中から担ぎ上げ、川べりに敷いてもらった敷物の上にダルガを降ろす。

 ついでに自分の服の水分を収納に仕舞い排水しておく。


「フーカ、火を焚いてくれ」


 ビリィから布を受け取りダルガを拭いていく。


 ん?


「フーカ?」


 フーカに動く様子を感じない。顔を上げるとフーカが両手で口元を押さえてぼんやりとこちら側を見ていた。


 何を見て・・・!?


「・・・デカイな」


 ビリィがポツリと呟いた。


「いらん事を言わんでよろしい。フーカ?」


「ひっ!ひゃい‼︎」


 顔を真っ赤にしたフーカが走っていく。


 なんか・・・こう・・・、すまんなダルガ。


「しかしだな。これが中に」


「やめれ。病人相手にアホな事言うな」


 ジェスチャーするな。


「じ、ジン」


「なんだ?ダルガ」


 どこか痛いのか?


「デカいって褒め言葉だと思う」


 お前、熱で馬鹿がより馬鹿になってるだろ。


「下手な事を言うと後で後悔するぞ。つーか黙ってろ」


 手早く拭きながらパンツを履かせ、服を着せていく。


「手慣れてるなぁ。本当にジンってなんでも出来るよねぇ」


「なんでもやらなきゃいけなかっただけだ。そういう状況に放り込まれりゃ誰でも出来るようになる。それよりビリィ、近くの町までどの位あるか分かるか?」


「全く。基本地図って国境付近が特に曖昧(あいまい)に出来てるからねぇ。土地勘のない場所は鼻も効かないよ」


 一応、周辺地図は買って持ってあるのだが、所詮は普通に買える地図。詳細には書いてないし、ある程度こんな感じで道が繋がってて山があって森があって町がある。と教えてくれる程度のものだ。


「そうなると・・・、どうするか」


 ダルガを再び担ぎ上げる。


「ビリィ、敷物持って」


「はいはい」


 ダルガを担いで行くと丁度火が立ち昇った所だったようだ。


 火の近くに敷物を敷かせてダルガを置き、俺の寝る時用の布をかぶせておく。


 それに万知さんに適当な魔石を選ばせ、回復の文様を刻ませて、ダルガの服の中に差し込んでおく。


 これでこれ以上に加速的な悪化はしないと思う。


「ふぅ」


 とりあえずひと段落は付いたが・・・、さて。


「ダルガの状態だが・・・、なんだと思う?」


「魔素が傷口から入ったのではないでしょうか?」


「魔素?」


「はい、魔獣との戦いの折、傷を負うとそこから魔素が入り込み、身体の内部から焼く事がままあります」


 魔素ねぇ・・・。雑菌って事かな?


「おぉ!」


 なんだ?声に振り返るとビリィが縛ってまとめた毛皮の束を解いて広げていた。


「見ろフーカ!森林大狼の毛皮だ!」


「えっ⁉︎」


 フーカがパタパタと尻尾を振ってビリィの所へ走って行った。


「本当だ・・・かなり良い物ですし、処理が私より綺麗です。これはジン様が?」


「そうだが・・・、なんだ?それはそんな良い物なのか?」


「森林狼は割といるし、捕まえ易いんだが、それより古い種の森林大狼は違う。仲間意識が強く一匹二匹倒しても仲間を回収するまで引かないし、執拗だ。その上、群(む)れ頭(かしら)の毛皮のまであるとか、かなり珍しい」


 なるほど、引かなかったんじゃなく引けなくなったのか。確かに俺とダルガの近くに死骸があったものな。


「群れ頭は確実に狩れると判断した時しか出てこないと言われていますから・・・ジン様は知っておられたのですか?」


「そんな訳ないだろう」


 こっちの世界の狼の習性なんて知るわけがない。


「はぁ、いい手触りだぁ。冬毛だったらふかふかモコモコでもっといいんだが、夏毛も中々に捨てがたい」


「いや、貴重な物というのは分かったから、その森林狼と」


「ジン、森林大狼だ。そこは間違っちゃダメだ」


「ん、あ、あぁ、分かった」


 突っ込んじゃダメだ。


「その森林大狼とダルガの状態に何か関係が?」


「ないな」


「森林大狼が毒を持っていると聞いた事はありませんね」


「なら、魔素が入り込んだ奴はどうなるんだ?」


「回復魔法がなかったら後は本人次第だな。傷が膿んだりしたなら別だが、そうでないなら本人の体力と入り込んだ魔素の量次第だ」


「私が回復魔法を使えたら良かったのですが・・・」


「まぁない事をとやかく言っても仕方ない。とりあえずは・・・町まで連れて行った方がいいか」


「まぁ、それはそうだが・・・どうやって?」


 それなんだよな。


 重いのも問題なんだが、一番の問題はデカい事。


 乱暴な持ち方をすれば持てるんだが、安静には出来ない。

 が、細かい事を心配してる場合じゃないか。


 縛って固定して担ぐしかないな。


 後、問題なのは・・・荷物か。


「フーカ、トカゲから出た素材ってこれとあれか?」


 焚き火の近くの川べりに、大きな葉っぱを下にこんもりと積まれた肉の山がある。

 それと木に吊るして干してある、畳四枚分はありそうな巨大な皮。


「あと、胆嚢と毒玉を川の中に入れて冷やしてあります」


 ふむ。


 とりあえず肉を収納にいれ、川に歩く。川のすぐ側に木の杭に繋がれた紐を見つけた。


 それを引くと川の中から大きな皮袋が二つ。


「大きい方が毒玉。小さい方が胆嚢です」


 近くに歩いて寄って来ていたフーカがそう教えてくれた。


 とりあえず両方とも収納に仕舞う。


「これで俺の収納は一杯だ」


 残りの荷物はトカゲの皮、狼の毛皮、ダルガの荷物。

 ダルガを俺が、ダルガの荷物をビリィに頼むとしたら・・・。


「荷物のほとんどは置いていくしかないなぁ」


「え⁉︎」


「えぇっ⁉︎」


「いや、持っていけないだろ?」


 驚かれても困るわ。


「いやいや、ダルガの回復を待ってからでもいいと思うけど?」


「いやいやいや、待って回復しなかったら手遅れになる。そうなったら俺はホルトルに顔向け出来ん」


 荷物と命なら秤に乗せるまでもない。


「ジン、ダルガを担いで行けるの?」


「そこはやるしかないだろ」


「それ、ダルガにも負担かからない?」


「まぁ、それもそうなんだが・・・な」


 十分二十分では絶対に辿(たど)り着けない事は分かってる。もしかしたら一時間・・・いや、二時間でも着かないかもしれない。

 そう考えれば負担はかなりかかる。


「だったら台車とか、荷車とか作れない?」


「台車・・・荷車か・・・」


「ティルフス様、さすがにそれは無茶というものでは・・・」


 まぁ普通に考えたら無茶だ。


 道具は魔王鎧が居るから何とかなる。釘がないのは組み込みと木釘を作ればなんとかなるか。

 後は・・・、問題なのは車輪と車軸、あと軸受けか。


 車輪をその太さの木の幹を輪切りにしてそのままタイヤにしちまうか。その位の太さの木なんてあったか??


 いや、そこまで太くなくてもいいか、デカいに越した事はないが。


 次に車軸と軸受け。


 金属が使えないと木の耐久性に頼らないといけなくなるんだが、何の木が車軸と軸受けに向いてるかなんて知るわけがない。

 ベアリングでもあれば簡単なんだけどなぁ・・・。ベアリング・・・ベアリング・・・ボールベアリングなんか、道具と材料があっても作れるかどうか。


 ベアリングってボールベアリングの他に何があったっけ?


 ニードル?


 ニードルベアリング・・・、あ、ニードルだったらなんとか作れそう。ベアリングならグリスも必要だけど・・・、トカゲ肉の脂で代用出来るかな?


 ある一定以上の精密さが必要になるけど、まぁなんとかなるだろう。

 ダメだったらソリにしてしまえばいい。


「よし、作るか」


「え⁉︎」


「台車」


「えぇっ⁉︎」


 何もそこまで驚かんでも。


「作れるのですか?」


「まぁ似た物なら作れるだろ。使えるかどうかは作ってみてからだな」


 という訳で、収納の中から鍋やまな板、包丁など料理道具を出してフーカに渡す。


「俺はこれから森に入って台車を作るからご飯の準備を頼む」


「は、はいっわかりました!」


「適当に食材を置いていくが、何が必要なものはあるか?」


「それでは・・・、あの時のウサギの肉をいただいてもよろしいでしょうか?」


 ウサギ?

 あぁ、初めて森に入った時に狩ったヤツか。


「おう、いいぞ」


 焚き火の近くに朴葉を敷き、その上にどさりと置いた。俺の収納でゆっくり熟成したはずだ。さぞ美味い肉になってる事だろう。


 ただ・・・、ダルガは食えないにしてもウチには大食らいが二人いる。

 ウサギも小さくないとはいえ・・・足りるかな?


 後は、と、野菜類を適当に出して並べていく。


 芋、人参、玉ねぎ、玉菜・・・。


「ジン様、これは?」


「ん?」


 フーカが手に取ったのは十キロ程の麻袋だ。


「これか、これはな」


 麻袋の口を解き、中を見せる。


「これは・・・蕎麦(そば)の実ですか?」


「そうだ」


 熊人の城塞都市で見つけて買った素材の一つだ。

 人も増えて消費量が格段に上がり、米の底が見えてきてしまった。


 後数回も食えばなくなるだろう。

 その代用品として見つけたのが蕎麦だ。そして蕎麦粥は俺の好物の一つでもある。


「使うか?」


「よろしいのですか?」


「よろしいも、よろしくないもあるか。好きに使え」


「ありがとうございます」


 ふむぅ。

 頭を下げるフーカの頭を撫でた。


「え⁉︎」


「作るのをお願いしたんだ。礼とか言わないでくれ」


 心苦しくなる。


「じゃ、俺はその辺にいると思うから出来たら呼んでくれ」


「は、はい。分かりました」


 フーカは蕎麦を使ってどんな物を作ってくれるんだろう。

 ダウンしてるダルガには悪いが楽しみだ。


 さぁ、ダルガの為にも台車を作ろう。

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