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乱入者1

 ホルトルの観覧席から飛び出し、階段状になっている闘技場を駆け下りる。


 ダルガの膝が崩れかけた。


 顔は赤から青に、青から黒へと色を変え、口から泡が吹き出してきているが、目に宿る光はまだ消えてない。


 カタカタと震える膝で再び地を蹴り、土の柱に突進した。


 これ以上はどっちもヤバイ。


 駆け下りる足に力を込め、闘技場の縁(へり)から跳ねた。


 ダルガが身体を裏返し、土の柱にフーカを叩きつける。その隙間に強引に身体を滑り込ませた。


 ドフッ


 結構な勢いで背中から滑り込んだものだから、その衝撃に肺の空気が押し出される。

 自分の身体を土の柱にぶつけての減速。フーカの身体を受け止めるにはこれしかなかった。

 間に合った。ギリギリだった。


 背中からくる衝撃をそのままにフーカの両肘の裏を手の平で叩き、首を絞めている腕を外し・・・、た所で背中の方からバキバキッと音が聞こえた。


 嫌な音だ。

 これは・・・、土の柱が砕ける音か!


 かなりの勢いで突っ込んだから、もしかしたら耐えられないかな・・・、とは正直な話、まぁ思ってた。


 唐突に背中にあった支えが消え、身体が投げ出される感覚が来る。


 不味い、思ったより勢いが死ななかった。


 フーカの身体を受け止める前に、自分の身体が土の柱をぶち抜けた。


 フーカに伸ばした手がスルリと抜けた。届かない!

 転げそうになる身体をなんとか引き戻し、足から着地した。


 ズズズズズズッ


 着地した足が滑る!


 まさか自分が生やした草がこんな形で邪魔になるとは・・・くそっ。


 見れば俺が壊した土の柱がフーカとダルガに降り注ごうとしている。


 いかん、間に合うか⁉︎

 いや、間に合う!間に合わせる‼︎・・・として、崩れる柱をどうにかするのが先か、倒れ落ちるフーカを守るのが先か・・・。


 いや、やるなら両方一気にだ。

 やってやる。


 靴に成っている鎧に力を込める。


 靴裏から生えた棘が地に突き刺さり、急ブレーキを掛かる。

 急制動に崩れかかるバランスを強引に整え、崩れ落ちる土の柱を睨んだ。


 ズガァン!


 腕輪を小手に変え、踏み出そうとした所で、崩れ倒れる土の柱が弾け飛んだ。


 ・・・。


 なんかデカい物が飛んできたように見えたが・・・、なんだ?


 いや、それならフーカを!


 と、再び踏み出そうした所でフーカを抱きとめるビリィが見えた。


 ・・・いつの間に。


 まぁいいか。


 しかし、吹っ飛んだ土の柱は誰が・・・。


 見回すといい笑顔でガッツポーズしてるホルトルが見えた。

 あいつがやったんか?


 そうみてみれば土の柱を打ち砕いたっぽい残骸(ざんがい)は、ホルトルが座ってたソファーに見えなくもない。


 あの距離を?このデカいソファーを?一息に??


 考えても意味ないか。実際にやったんだろうから。

 無茶苦茶だな、あのオッサン。

 いや、俺も人の事は言えねえが・・・。


 まぁいい。今はフーカだ。


 膝をついて咳き込んでるダルガはほっといていいだろ。

 そう考えてフーカに駆け寄り、ふと気付いた。


 今のフーカは上に薄手のシャツ一枚の状態だ。ビリィが優しく頭を撫でながら抱いている様子から、危ない状態ではなさそうだし、ダルガに剥がされた服を持って行ってやる方がいいか。


 走る向きを変え、叩きつけられたままになっているフーカの服に走った。


 草地にぺったりと張り付いている緑色の服は、こうして見るとフーカ本体より随分と大きく見える。


 ズタズタに破けたかと思った服は思ったよりも原型を留めているようだ。


 手に取り確かめて見る。


 これは・・・、破けたのではない?


 随分と綺麗に剥けたとは思ったが、背中の部分がザックリと綺麗に割れている。


 布地が裂けた後がなく、所々から千切れた薄い紐(ひも)が垂れ下がっている。って事はだ、最初からこういう服だったって事か。


 するとアレか。


 ダルガに掴まれた時に暴れていたのも、いざという時に服が剥ける様に細工してた?


 狙ってやったにしても出来すぎてるとは思ってたが、そう考えると色々と納得出来る。

 それでも無茶には変わりないが・・・。


「ぢょっどまで」


 服を持って歩いた所で声がした。


 振り向けば、がはっがはっと咳き込むダルガが居た。


「横槍を入れたのはテメェだな」


 掠れた聞き取りにくい声だが、ハッキリと聞こえた。

 明らかな敵意と一緒に。


「あぁ、俺だ」


「なんで俺とアイツの邪魔をしたぁ‼︎」


 ダルガの身体から湯気の様に何かが立ち登り、俺の方に突き刺さる様に飛んでくる。

 おぉ凄い、これが闘気という奴か?


 さっきまで咳き込んで苦しんでた奴とはとても思えん。身体中の筋肉が膨れ上がり、ダルガの身体が一回りも二回りも大きくなっている様に見える。


 元気だなぁ。


「俺は試合が見たかったのであって、殺し合いが見たかった訳じゃねぇ。殺し合いがしたいなら他所に行きな」


「なんだとテメェ!」


 さっきまで息も絶え絶えだったのに、なんのその。本当に頑丈な奴だなぁ・・・。しかし、頭を打たれ過ぎたんだろうな。ちょっとフラフラしてるのに本人が気付いてない。

 どうしたもんか。


 ドォン


 何かが破裂したような音がした。

 ホルトルの観覧部屋の方からだ。


 目を向けるとホルトルの巨体が空を切って飛んでくるのが見えた。


 ・・・跳ぶ⁉︎ここまで?一足飛びに⁇


 ズドォン


 凄まじい地響きと土を巻き上げ、ホルトルが俺とダルガの間に着地した。


「お、親父⁉︎これは!その」


「こんバカがぁ!」


 ホルトルの怒声と共に、元の大きさに縮んだダルガに鉄拳が飛ぶ。


 鉄拳を避けようと態勢を変えたダルガの膝が、カクンと落ちた。


 ベキィ


 人の頭を殴ったとは思えない音と共にダルガが吹っ飛ぶ。

 二転三転と跳ねるように転がり、ピクリとも動かなくなった。


 ・・・死んだ?

 トドメを刺したんじゃないのか?


「こんバカが!あんな無様を晒(さら)して文句を付けるたぁどれだけ恥を晒す気じゃあ‼︎」


 いや、流石に聞こえてないと思うぞ?


 怒声が寂しく響き渡るだけ、かと思いきや、ダルガの身体が跳ね上がり立ち上がった。


「お、親父すまねぇ!」


 おいおい起きたよホント丈夫だな?生きるてるよ。

 っていうか気を失ってない意味が分からない。


「けど、アレじゃ締まらねえんだよ。親父も分かるだろ⁉︎」


 ひ、必死だな。


「勝負に負けたんだよテメェは、これ以上に無様をさらすんじゃねぇ」


 まぁ、そうだなぁ。


 内容だけ見れば完敗もいい所だろう。ただ試合と見るならフーカのTKO負けなんだろうが。


 ホルトルとダルガの尻目にフーカを抱いているビリィに近付きフーカの服を渡す。


「フーカの状態は?」


「消耗はかなり激しいみたいだけど問題はなさそうだ。しばらくすれば目を覚ますと思う」


 よかった。


「フーカを任せていいか?」


「もちろん」


 にこやかに頷き返してくるビリィ。なにやら子犬を抱く母犬みたいだな。


 ビリィとフーカに背を向け、未だに言い争いしているホルトルとダルガに向けて歩く。


「もう一回、もう一回やらせてくれ!親父!もう一回やれば・・・」


「やかましい!戦場にもう一回はねぇんだよ‼︎」


 さて、この中にどうやって入ろうか。

 思案している所でダルガと目があった。


「なぁあんた!あんたあの娘(こ)のなんかなんだろう?いや、あんたが試合を止めたんだ責任とって再試合を組んでくれよ!」


 そんなに負けたのが悔しい?なんでそんなに必死なんだ??


「こいつ!まだ言うか!」


 ホルトルが腕を上げる。だが今度はダルガは動かない。


「親父!頼む」


 ダルガの声に構わず拳が振り下ろされる。


 なんでそんな必死なのか分からんが、これ以上殴られるのはちと可愛そうな気がする。


 ダルガと拳の間に飛び跳ねて割って入り、ホルトルの拳を右手でもって外に受け流した。


 ホルトルとダルガじゃ身長差はそんなに変わらんが、この二人に比べると俺は小人に近い。

 拳を受けるのも一苦労だ。


 顔を掠めて逸(そ)れていった拳に、ダルガは目を丸くした。


「な、」


 ダルガが何か言いたそうだが、あえて無視する。


「内輪揉め後にしてくれ、それより賭けだ。勝負に負けたかもしらんが、試合に勝ったのはそいつだ。賭けは俺の負けって事でいいな?」


「いや、待て。あの試合は引き分けだ。実際に止めてなけりゃそうなってただろう。つぅ訳でもう一(ひと)試合だ」


 なに?


「なんだ?今度は誰と誰でやろうてんだ?」


 ビリィとファサマントか?


「俺と」


 ホルトルの太い親指が自分自身を刺し、その後にゆっくりと人差し指が俺に向いた。


「お前だ」


 ・・・。


 はぁ??

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