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ギュスターブ・フォン・コペルニクス(仮)

 おや。


 ここはどこか。


 気が付けば、見たことのない部屋の中に居た。


 目を覚ましたという感じはない。落下してる感じから浮遊感のようなものは感じた気がしたが・・・気が付いたら立ってた。そんな感じだ。


 ・・・またこんな感じか。


 前回と違うのは部屋の中という事と、人がいるって事だろうか。


 ただ、その人っていうのが・・・。


「あぁ、召喚に応じて頂きありがとうございます英雄様」


 腰まで届く金色の髪、白銀に輝くティアラ、そして純白のドレス。どこかの姫っぽい女が膝を突き、手を合わせて指を組み、祈るように頭を下げている。


 英雄・・・様?


 言葉から察するにこの人が俺を召喚したって事か?

 いや、待て、召喚?


「突然の事に驚きとは思いますが、どうか私の話を聞いて欲しいのです」


 金髪姫の両隣には、黒くてゴツい全身甲冑の騎士っぽいのが一人づつ、そんで俺の周囲を遠巻きに立っている鉛色の全身甲冑を着たのが八人。顔は見えない。

 部屋は石造りぽい感じで窓はなし。出入り口は・・・姫さんの後ろだけか。


「わが国は現在、魔族の侵攻により存亡の危機にひんしております。我々も必死に抵抗を繰り返しておりますが、戦況は刻々と悪化しているのです」


 薄暗くて見えにくいはずなんだが、なんか妙によく見える。なんだろう、俺の身体になんか・・・。


 なんじゃこりゃ‼︎


 全身真っ黒⁉︎

 いや、鎧?姫の隣にいる黒い甲冑よりゴツくてトゲトゲしい・・・つぅか何?この呪われてそうな感じ。

 ゆっくりと右手を動かして見たが、カチャカチャと金属音がする。

 うぇぇ、違和感がない。鎧に神経が通ってるみたいに感覚がある。どことどこが擦れて音がしてるのかまで細かく分かる。

 気持ち悪⁉︎


「英雄様、そのお力の一端を貸して頂きたいのです。どうか・・・どうか弱き我らに一筋の光明をお授け下さい」


 姫さんが涙を流して切々と訴えてくる。

 魔族に存亡、その上に光明ときたか。話はファンタジックだが、いかんせん情報が足らなすぎる。

 頭を下げて涙ながらに語る様子は、庇護欲ひごよくき立てられるが・・・、なんつうか畳み掛けて決断をせまってきてるのが気に入らん。


 とはいえ、返事しない訳にもいかんなぁ・・・これ、拒否きょひの選択肢ってあんのかな・・・.いやぁねぇよなぁ、とりあえず引き延ばすか。


わしはただの老いぼれじゃよ、戦況を変えるほどの力なぞありやせん。すまんがお嬢さんの力にはなれんよ」


 実際、ただの農家のジジイだしな。


「そんな!困ります‼︎これは今は亡き勇者様が、もしもの時の為にと用意して下さっていた一度きりの召喚魔法なのです。英雄様がここへ呼ばれましたのもきっと何か理由があっての事。どうか、お聞き届け下さい」


 目に涙を浮かべて必死に引き止める姿に心が痛くなるが・・・、胡散臭うさんくさいんだよなぁ・・・。了承りょうしょうしちゃいけない気しかしない。


「ふむ・・・困りましたね。分かりました、では詳しい話を聞き、この老骨でお役に立てる事があるならば・・・その限りで力をお貸ししましょう」


逃げ道を用意して言質げんちを取られないように気を付けて・・・、いざとなったら逃げよう。全力で。


「あ、ありがとうございます」


 感極かんきわまった。そんな涙声で頭を下げる姫さん。

 うーん、いじめてるみたな悪い気分になって来た。見立て間違ったかな・・・。


「あ、申し遅れました。私はアンネマリー・パウル・ハウゼンベルクと申します。気軽にアンネと呼んで下さい」


 気恥ずかしげに顔を赤くしながらあわてて頭を下げる姫さん。事情説明と助力の嘆願たんがんしかしてないものな。

 こちらの事情をかんがみずに畳み掛けた事をじる気持ちくらいはあったって事かな?


「これはこれはご丁寧にありがとうございます。儂の名は」


 口を開きながら姫さんと目が合った。

 瞬間、身体の奥底から得体の知れない恐怖がき上がって来た。


「ギュスターブ・フォン・コペルニクス、と申します。お見知り置きを」


 とっさに嘘をいた。

 心臓が早鐘はやがねのように激しく打ち鳴ってる。落ち着け、表情に出すな、態度たいどに出すな、泰然たいぜんとしろ。さっきまでと同じ慎重に丁寧に、疑っている感じのままでいろ。


 姫さんを真似てゆっくりと頭を下げ、姿勢しせいを戻した。


 真っ直ぐに俺を見る姫さんと目が合った。

 姫さん、すっげぇ嬉しそうに笑ってる‼︎


 くっそ怖え‼︎


 姫さんは美人だ。顔は小せえ目はでけぇ、胸もでけぇし腰はきゅっとくびれてる。

 男ならこんな可愛い子に優しく微笑まれたらイチコロだろう。


 が、なんだあの目は。


 地獄の淵だってもう少し光があるだろう。この世の全てに絶望したってここまで気持ち悪くはならん。

 いうならば、この世のありとあらゆるものを心の奥底から憎悪している目、だろうか。


 これが本性なのか。


 つまり全ては俺の名前を知るための布石だったって事なのか。涙も必死な姿も全部演技だとしたら、この女かなりの食わせ物だな。

 本当の名前を言わなくてよかったー。いやぁ・・・とっさに嘘付けてよかった。


 いや、待て。


 名前を知って、ハイおしまい。なんて事になるはずがない。知った名前で何かしてくるはずだ。反応がなかったらすぐにバレる。


 くっそ、どうする。情報が足りねぇ。向こうは迂闊うかつにも本性の片鱗へんりんを見せて来た。

 ここで上手くかわせなかったら後がヤバいぞ。


 なんでもいい情報を探・・・。


 あれ?


 身体が動かん⁉︎


 もしかして・・・もう手遅れだった?

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