彼岸花が咲いた
彼岸花が咲いた。
たくさん咲いた。
地中から、幾万の蚯蚓が一斉に這い出るように、咲いた。
蛇が巻き付くように咲いた。
湿った土から、広く覆いかぶさる木の葉の陰で、艶やかに咲いた。
疎らな翠の光の中、暗い暗い陰の中で咲いた。
赤い海が咲いた。
太い樹々の間で咲いた。
幹の間をすり抜ける、梟のような風に吹かれて咲いた。
地上の獣を飲み込むように咲いた。
丘を下るように、もしくは登るように、人の言葉を冒しながら咲いた。
黒い蟻のように咲いた。
両手を開くように咲いた。
優曇華の花と呼ばれ、実はクサカゲロウの卵を差し出すように咲いた。
ネグロイドの巻き毛のように咲いた。
いつか轟く蝶の羽ばたきを、幼生のまま頬張るかのように咲いた。
息をするように、五蘊盛苦を吐き出すように咲いた。
花が花を真似るように咲いた。
(書いて想う所は)ないです。
お読みくださり、ありがとうございました。