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竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
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第1章 第42話 コーカス村攻防戦 第2幕 激流


 決行は9時。それまでに準備を整える。男性は彼女、家族と別れを済ませてその時を待っていた。そして遂にその時が訪れる。俺は馬に乗り南の橋に移動した。


 「これよりリリー、ならびに女性、子供の脱出作戦を開始する。橋を下ろしてくれ!」


 リリー、ジーナ、ミア、バディ、その他多くの村人が見送りに来ていた。


 「兄様、待ってます!」


 「アギト君、後で必ず会いましょう!」


 「アギト! 無茶はしないで!」


 「また会いたい……アギト」


 彼女達は俺に声をかけてくれる。声援がこれ程、勇気を与えてくれるとは思わなかった。俺は振り返らず彼女達に礼を言う。


 「皆こそ無事で。行ってくる!」


 『ギィー、ギィー』


 橋が降ろされると弾かれた弾丸の様に、敵陣の中に突っ込んで行く。


 「ドリャーー!!」


 アギトは敵の中に突進すると、手当たり次第に切り刻んでいった。少しして東の壁の穴を塞いでいた荷台をのけるとダレン部隊が村に雪崩れ込み、リリーナ達を乗せた馬車、荷車を取り囲む。準備の出来たダレンは脱出のタイミングをうかがう。

 それを確認した村人が仲間に合図を送ると、松明たいまつを角に括り付けた牛が大量に放出される。村人は牛の尻めがけて矢を放つ。牛は痛さのせいで暴れ狂い敵兵を薙ぎ倒していくと、オークス軍は取集が付かない事態に陥った。思わぬ展開に驚くレオナ。


 「こんな話は聞いてないわよ少佐! クソ、一杯食わされたみたいね!」


 その頃ダレンはタイミングを計っていた。


 「今だ、この期を逃すな、出るぞ!」


 「「「「オーーーー!!!!」」」」」


 すると東の壁からダレンの部隊が一斉に東の丘に向かう。ダレンは丘を目指しながらつぶやいた。


 「よし、今の処は順調だ。今の処は」


 今度は村人が橋から打って出る。


 「このままじゃ、アギトに美味しい処を全部持って行かれるぞ。俺達も嫁さんに良い処を見せないと笑われるぞ!」


 別の村人。


 「そうだな、この村の男はアギトだけじゃないぞ! 娘の為にも頑張るぞー!」


 「「「「「オーーーー!!!!」」」」


 その頃アギトは敵を斬り倒しながら、ダレンのいる東の方向を見ていた。


 「さて、俺もそろそろダレンさんの最後尾に取り付かないと不味いな」


 しかし、ダレンの部隊が丘を登り切る前に止まってしまった。その最後尾に向かうオークスとハンナの姿が見える。


 「何故止まる? まさか? まさかこの段階で俺達を裏切るのかダレンさん!」


 アギトはダレン部隊の先頭を、強化した目で視る。


 「何だ? 何を揉めている。女がいるな、誰だ? ア、アメリア! こちらの作戦が見破られたのか? 早い、早すぎる。最後尾が丘に上がらないと切り札が使えない。急いでダレンさんに追いつかなくては!」 


 アギトは近くにいたユアンに命令を出す。


 「ユアン、例のデマを流せ!」


 「了解! アニさん」


 敵兵の格好したユアンは返事をすると、そのまま敵の中央部に向かう。


 「頼んだぞ、ユアン」


 俺は馬を東に向けると、途中エリック村長に会った。


 「村長、俺は丘に向かう!」


 「アギト殿、こちらはいいから、ダレンさんを助けてやってくれ!」


 「村長……世話になった」


 「アギト殿、元気での」


 アギトは馬上から頭を下げると、村長の瞳から一筋の涙が流れる。


 「村長……」


 村長に背を向けると、そのまま東を目指す。


 「ダレンさん、すぐに行く!」






     ~妨害~


 その頃、先頭にいたダレンはある女性とにらみ合っていた。


 「そこをどいてくれないか、アメリアさん」


 「それは聞けない話ね、ダレン少佐。貴方はここでリリーナ様を中佐に引き渡す約束よね?」


 「そうだ。だがもう少し進まないと我が部隊は戦場の邪魔になる」


 「そうでしょうか? ここまで来れば邪魔になるとは思えないわ」


 「いや、邪魔になる。もう少し前進したい」


 「何で、そんなに進みたいの? まだ秘密があるのかしら?」


 村の方を見るアメリア。


 「そういえば火牛の事は教えてくれませんでしたね?」


 「いや、あれは本当に知らなかったんだ。アギトは完全に私の事を信用していなかったみたいだ」


 「そうかしら? まぁ、そう言う事にしておいてあげますわ」


 ムッとするダレン。


 「こちらが、下手に出ておれば、えらい上から目線でモノを言うなお前は!」


 「あら、遂に本性を現しましたか?」


 「退かないのであれば、力づくで押し通すまで!」


 「出来るかしら?」


 「出来るさ!」


 アメリアが口笛を吹くと、木々に身を隠していた500人の兵が姿を現す。


 「しまった!」


 「どうやらお分かりのようね。ご存知の通りこの道は幅が狭く両側は木々が覆っています。例え私の兵が少なくても、少佐の2300の兵は全てを展開出来ない。つまりここでは数の優位性は消えてしまう。

 しかも、私達は最後尾にオークス様が到着するまでの間、時間稼ぎをするだけでいい。つまり、貴方はチェックメイトよ」


 その時、村の南側で兵が動揺しているのをアメリアは気付いた。


 「な、何、何が起きているの?」


 この時ユアンが『将軍が来た。これから中佐の指揮権を剥奪する』と噂を流していた。


 「どうやら、向こうの方でも動きがあった様だな」


 「どういう事?」


 「さぁね、自分の目で確かめて来るんだな」


 「ちっ!」


 「それでは、突破するぞ!」


 「させないわ!」


 ダレンは振り向き少尉に命令を出す。


 「少尉!」


 「はい、少佐!」


 「この女を捕縛しろ。捕縛が無理でもここを突破しルード宮殿に向かえ、いいな」


 「了解!」


 「私はこれからリリーナ様のもとに向かう。中佐の手からお守りする為、一度後方に向かう」


 アメリアは軽装の服を脱ぎ棄てると、全身を覆い隠す黒いレオタード姿に変身した。


 「やはり裏切ったわね、少佐!」


 後ろを見るアメリア。


 「私も後方に向かいます。あとは宜しくお願いします隊長!」


 アメリア側の隊長が返事をした。


 「分かりました」






     ~激流~


 ダレンはそのまま後方に向かうが、アメリアは兵を避け木々を縫いながら後方へと向かう。その頃、後方では1台の荷車が南の道(ルード宮殿方向)ではなく北の道に進路を変えていた。その荷車にはジーナ、ミア、ジーン夫妻とその赤ん坊、護衛役の村人が乗っていた。ジーナがもう1台の馬車に声をかける。


 「お母さん、こっちは任せて!」


 「頼むわよ、ジーナ!」


 クレアの乗った馬車には、リリーナとバディが乗っていた。この馬車はダレン部隊の最後尾に位置し、そのままルード宮殿に向かう為、南の道を選んでいた。


 ハンナがオークスに声をかける。


 「オークス様!」


 「分かっている。1台だけ北の方に別れたな」


 「どうします?」


 「私とハンナ、それとレナーナは北に向かった荷車を追う。レオナとシーラはあの最後尾の馬車を追ってくれ」


 黒いレオタード姿の小悪魔達は一斉に返事をする。


 「「「「「了解!!!!」」」」


 オークス達は二手に分かれると、それぞれの獲物を追う事となる。オークスには200人、レオナには100人の精鋭が振り分けられた。この300人の精鋭はオークスが手塩にかけ育てた兵である。それ故、オークスの命令以外には従わない。それが例えフレイザー将軍の命であっても。


 「待っていろ、ラノフ。もうすぐパパはハンナママを連れて帰るぞ。そしたら家族3人で暮らそう」


 オークス様、その願いは叶えられません。

 ハンナは心の中でつぶやいた。



 その頃、ダレン部隊の先頭では激しい戦闘が繰り広げられていた。


 「敵はたったの500だ、押し切れ!」


 「持ちこたえろ、中佐が来るまで何としても持ちこたえるんだ!」


 こう着状態が続いていた戦線だが、徐々にダレン側が押し始める。そして、ついに最後尾が丘に上がった。それを見ていた村人が3本の火矢を天高く打ち上げる。川の上流と湖にいた村人がその火矢を確認すると、水をせき止めていた水門を開けた。解き放たれた大量の水はそのままコーカス村へと押し寄せて行く。川の水門を開いた村人。


 「皆、すまない! すまない」


 湖の水門を開いた村人。


 「許してくれ、許してくれ、皆!」


 荷車に向かうオークス。


 「な、何だ、何だこの地響きは? 何が起きているんだ?」


 最後尾に向かうダレン。


 「遂に最後の作戦が発動したか」


 数分後、大量の水が多くの敵兵と村の男性達を呑み込んでいく。そして村自体も。村長は水に流されながら最後の言葉を発する。


 「アギト殿、リリーナ様を、姫様をたの……む」


 村長の声が俺の心の中でコダマする。


 「村長、エリック村長ーー!!」


 分かっていた事だ。なのに俺はこの状況を、ただ茫然と見守る事しか出来なかった。そんな俺の前に現れたレオナとシーラ。レオナが声をかけてくる。


 「あら、こんな所でお会い出来るとは思わなかったわ、アギトさん」


 「お前等!」


 「色々と楽しい事を用意してくれてありがとう! でもこれからは私達の番よ。皆でアギトさんのお相手をしてあげなさい」


 10人の黒ずくめの男が現れた。


 「前回の改良版だけど、アギトさんに気にいってもらえると嬉しいわ」


 男達は次々に網を投げてくる。


 「何度やっても同じだ!」


 アギトはその網を次々と切り裂いていくが、5投目、6投目辺りから網が絡まってくる。


 「どうアギトさん、網の波状攻撃は?」


 「くっ!」

 

 「流石に動きが鈍くなってきたわね。お前達アギトを道連れに、この激流の中に飛び込め! この機会を逃すと、この男を倒すのは困難になる!」


 「はっ!!」


 黒ずくめの男2名が、網で動けなくなったアギトに抱き着く。アギトのすぐ後ろには激流が轟音を立てながら全てを飲み込もうとしていた。その中にアギトを道連れに飛び込もうとする男達。


 「く、くそー!!」


 「殺れ!!」


 その時、フィン隊長が男を斬り倒した。


 「アギト、こんな所で遊んでいる暇はないぞ!」


 「隊長!」


 シーラがダガーでフィン隊長に攻撃を加える。


 「クソが、邪魔なんだよ!」


 「若い娘が汚い言葉を吐いてはいかんぞ、シーラ」


 隊長の攻撃がシーラを徐々に後退させる。だが、レオナが加わり逆に押されはじめるフィン隊長。


 「ちっ!」


 遂にレオナのレイピアがフィン隊長の胸に突き刺さった。


 「ぐっ!」 


 ひざまずき吐血する隊長。そんな隊長の肩に右足を乗せるレオナ。


 「これで終わりよ、タ・イ・チョウ・さん♡」


 レオナは足に力を込めると、後ろの激流めがけて蹴りを入れる。


 「アギト、お前だけでも…お前…」


 「隊長、フィン隊長ーーー=!!!!」


 視線をフィン隊長からアギトに戻すレオナ。


 「遅くなってゴメンなさい、アギトさん。では貴方も彼の後を追ってくださいな♡」


 手下の男が再びアギトを掴むと、自身もろとも激流の中に身を投じる。勝ち誇るレオナ。


 「アハハハハ、勝ったわ、あのタツミヤ・アギトに勝ったわ! アハハハハハ!」


 激流に飲み込まれながら、大きな声で叫ぶアギト。


 「俺にかまうな、行けーー!! 行けーーーー!!!!」

 皆を、彼女達を頼んだぞ、ユアン。


 アギトはそのまま激流に飲み込まれると、完全に視界から消えてしまった。






     ~想い~


 アギトの様子を移動しながら見ていた女性達がいた。


 南の馬車。


 バディはペンダントを握りしめ呆然となる。アギトに抱きしめられた時の事を想い出すと、その頬に一筋の熱いモノが流れていた。


 「ア、アギト……嘘だ、アギトー-ーー!!!!」


 リリーナの口を手で塞ぐクレア。


 「アギト君!!」


 そして、口を塞がれたリリーは髪飾りを触りながら呟く。彼女の瞳には涙が溜まっていた。


 「そ、そんな、アギト……」




 北の荷車。


 放心状態で激流を見つめるジーナ。


 「ま、まさか、アギト君!!」


 ジーナは気を取り直すと隣にいた女性の口を塞ぐ。左手首にはめたブレスレットを触りながら、その女性は心の中でつぶやいた。


 『いや、いやー!!』


 赤ん坊を抱きながら驚くジーン。


 「ま、まさかアギト君が」




 離れた場所でアギトを見ていたユアン。


 「ア、アニさん!」

 アニさん、後の事は任せてください。お嬢達は必ず…必ず俺が守ります!



 ユアンはアギトの約束を胸に秘め、ジーナ達の後を追った。


 


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