5・13 停滞
5・13 停滞
今日もまた、ベランダに立った。こうして毎日書こうとすれば、書けない日はやってくる。今日がその日だ。あれを書こうか、これを書こうか、一行にも満たない断片はいくつも出る。だが、最初の踏ん切りがつかない。五月の穏やかな夜には、風がない。最大瞬間風速が、来ない。
一回休みにすることも、考えた。新しいセブンスターの箱を開けて、立て続けに三本吹かした。それでも、まだ踏ん切りがつかず、結局なにも書けないでいる。コルクボードの前に立ったまま、ずっとライターをカチカチやっている。周りを見わたしても、何もない。あるのは、昨日と同じ景色だ。もう五十日を超えて、いよいよ例の病気が来ている。
消費。此処ではない、また何処かへ。端的に言うなら、飽きが来た。もう何度投げ出そうとしたか、布団に戻ろうとしたか、煙草だけはどんどん灰になっていく。おれはなんにも書かないままで、ただ肺だけが汚れていく。頭は冴えない。風は吹かない。
きっと、昨日書きすぎたのだ。昨日は、久しぶりに、よく書けた。賢治の力を借りたからだ。今日は反動で、おれ自身だ。賢治は去って、おれだけが残った。おれは結局、何も持たない。持たないから、誰か他人の言葉を借りなければ、話らしい話を書くこともできない。話らしい話のない小説。これだって、芥川からの借り物だ。書かれる言葉は、すべて引用だ。ここまで書き連ねてみたが、今日は何ひとつ話を書いていない。
書けないまま、最後の行まで来てしまった。停滞。風はまだ来ない。(了)




