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4・3 流される話

4・3 流される話


今日も、私小説めいたものを書く。

 柾木は、久しぶりに大学に行った。大学院も、二年目になった。ただ年月だけが過ぎていた。

 大学の構内は、ひどく混んでいた。学部生たちは、サークル活動に必死だった。新入生勧誘は、恐ろしくうるさい。

 そこにいる人間のほとんどは、おそらく柾木より年下だった。柾木はそのことを考えたくなかった。同じ大学の学籍を持つ、数万人の若い学生。四年間の人生の夏休みを、我が物顔で謳歌する青春。柾木は、もうその中にはいなかった。そのくせ、彼らと同じ場所に寄生していた。柾木は、わざと早足で歩いた。

 学生たちは、彼らの中でも若く見える者に声を掛けていた。柾木には発情期の猿に見えた。柾木を気にする者など、いなかった。彼らの生に、柾木は必要なかった。

 彼らもまた、柾木にとって無関係だった。それはもう過去のことだった。柾木は、精一杯顔をしかめて歩いた。すれ違う年下たちを睨め付けた。それが彼の、抵抗だった。だが彼は、人の波に押し流された。進むべき方向に進めなかった。柾木の前に立つ数千人の若者たちが、彼の進路を塞いで立っていた。彼は、流されて進むしかなかった。それが、彼の人生だった。

 柾木は流されて生きてきた。彼は関東の東端の、寂れた港町で生まれた。中学までは、気絶して生きてきた。勉強だけはなんとなくできた。高校は、地元の進学校に通った。両親の意向。先生の意向。それで、なんとなく大学に入った。世間では有名な私立大学。大学が設定した、必要な単位だけは取った。気づいたらなんとなく卒業していた。彼は仕事には就かなかった。それで言い訳に大学院へ入った。やりたいことは、特になかった。

 人波に流されて柾木は、もうどこへ行きたいかも、忘れていた。(了)


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