第97章
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かつて俺がソフィアに出会った場所、リシタの『深淵の竜の迷宮』を起点に考えると、リシタの街の遥か西方のランス王国との国境近くにあるのが『虚無の狼の迷宮』だった。その存在は古くより世に知られ、成立からの年月とその広さが比例すると言われるこの世界の地下迷宮の中でも、『虚無の狼の迷宮』は最大規模とも言われている。
俺とソフィアの2人に同じくリシタの酒場で助けたシャーリーを加え、俺たち3人は正しく『虚無の狼の迷宮』を目的地として旅に出た。多少、鉱山都市リリチルカ、エルフのエルシャナが住むドーナの村に寄り道したが、別に目的地が変わった訳ではない。俺的にはちょっと、『まぁ、もう無理に「虚無の狼の迷宮」まで行かなくても良いんじゃない?』という消極的な気持ちになっているだけで、行くのを止めたという訳じゃない。
そして西へと向かう旅の最中、霧の湖の城でヴィヴィアンに出会い、そのアタックからは辛くも逃げ切った?ものの、ここ『世界樹の若木』でエゼルに出会った。結果、あくまでもこれも結果論ではあるが、何時の間にやらエレインとアリシアを新たに仲間に加える事となった。ヴィヴィアンとのほろ苦い思い出を未だ引きずる俺としては、エレインはまぁ仕方ないとして(最近、この種類の妥協が増えた気がするが、気のせいだろう)問題はアリシアの方だ。元いた世界では『情熱的な女は、死後サラマンダーになる』という俗説もある。アリシアはもちろん死んではいないが、一度、その首を切っているしな。つまり、何か俺に対する、憎悪と愛情を併せ持つ、というか。
つまり『元ドラゴンの美少女』、『合法ロリ』、『訛のある悪女(その2)』に加え、『目付きの悪い、情熱に生きる女』の4人な訳だが、この4人というのは少なくとも俺にとっては、昨夜の実績からも確実に限界と考えて良いだろう。
『虚無の狼の迷宮』を攻略出来るか如何か、というより、俺は、はたしてこの4人を連れて『虚無の狼の迷宮』に辿り着けるのか如何か、まずそれが不安な気がしてきた。
「神は自らが造られた大地の周りを三度巡り、この地に生きる者、その他の者たちを造られたと言います。今もこの地を巡る風は、その名残なのだと。ですが、この世界を巡る風に今更、何か確かな形を求めても無駄な事かもしれません。それでも私たちは、私たちを癒す暖かな南の風が吹く事を、願う事は出来ます。それでですね。・・・実は『虚無の狼の迷宮』に向かう前に、一つ皆さんに立ち寄って頂きたい場所があるのです。多分、アリシアが、導いてくれるでしょう」
朝霧の立ち込める、『世界樹の若木』であった大木のある広場。旅立つ俺たちを前に、エゼルは俺たちに向かってそんな話をした。
「エゼルはやっぱり、人使いが荒いんだな? それでエゼルは、俺たちがその寄り道だとか『虚無の狼の迷宮』だとかに向かった後は如何するんだ? 『世界樹の城』に戻るのか?」
この『世界樹の若木』でエゼルに出会うまでの道のりは、なんだかんだ言ってドーナのエルシャナの繰る糸に手繰り寄せられた様なものだったらしい。今度は、ここから先は更にエゼルからの頼まれ事、ということだ。まぁ、ヴィヴィアンから頼まれたと言うよりは、角が立たないだろう、いろいろと。
「そうですね、慣れない事をしたものですから、実は少し体にもガタがきていますし、私は暫し『世界樹の城』に引き篭もろうかと思います。では、皆さんにも、暖かな南風が吹きます様」
エゼルの言う慣れない事というのは、アリシアを守るべくダークエルフたちに立ち向かった事だろう。で、アリシアと『虚無の狼の迷宮』を俺に押し付けて、自分は引き篭もる宣言ですか! 流石、エゼル、見事なヘタれっぷりだが、今更なのでここは、にこやかに別れる事にしよう。次に会う時には是非、覚悟しておいてほしいものだ。
「では、俺たちも行こうか・・・」
アリシアとエレインは、エルフたちから貰った栗毛の馬に乗っている。少なくともエレインは限りなく軽量なので、重量的には問題はないはずだ。因みにアリシアは昨日確かめた限りでは、ソフィア並みくらいと思われる。つまり、しっかりとした重さがある。
一頭仲間が増えたので、うちの葦毛たちもうれしいみたいだ。葦毛のうちの一頭に、今回はソフィアとシャーリーが一緒。これについては、別に俺が自分以外と一緒でなければ、特にソフィアも反対はしないらしい。と言う事で、俺は今回は一人でもう一頭の葦毛に跨る。
僅かに森の木々の間を抜けて風が吹き、俺たち纏わりつくかの様な、じっとりとした朝霧を遠ざけていった。
本当にごく僅かな、それは、初夏を連れてくる南からの風だった。




