第91章
初めて目の当たりにした大規模戦闘の被害者たちの惨状に、泣き疲れて眠ってしまったシャーリーと、魔力を枯渇させてこんこんと眠り続けるエレインを敷布団代わりの電気ヒグマの毛皮に横たえると、俺は今夜は俺とソフィアの二人で不寝番をする事にした。ジルとジバもそれぞれ、シャーリーとエレインの湯たんぽとして活躍して貰う事にする。
俺と一緒に起きていると言い張るソフィアを如何にか寝かしつけると、朝方までは俺が担当と言う事になる。死んだ騎士たちを風の神に委ねたエルフたちも、俺と同じように不寝番を引き当ててしまった不幸な何人かを除けば、エゼルも含め焼け残った村の家々を寝床に束の間の休息をとっていることだろう。
元いた世界とは異なる星座を持つ満天の星々の巡る空を見上げながら、俺は一人、小さな薪の残り火を前に腰を下ろし、随分と遠く迄来たものだと、そんな事を考えている。
「久しぶりだね、ヴィヴィアン」
周囲にはいつの間にか、起伏のある物悲しい歌声が流れていた。
俺にも歌声が聴こえてきたのは、つい先程からだ。だが、グズっていた訳ではないが、自分も一緒に起きていると言い張っていたソフィアがやけに簡単に眠りに落ちてくれた。今はその役目を終えたらしいが、世界樹の若木だった木のそばで一夜を明かすのだ。寧ろ、何もないという方がおかしいだろう。
「わっちだと、判りんしたか?」
歌声が止んだ。
代わりに森に住む虫たちの合奏に混じって、ひたひたと軽い足音が聴こえる。その足音を彩るのは、幾つもの水の滴る音たち。
「ああ。・・・いや。俺はひょっとしたら、ヴィヴィアンとエレインは同一人物なんじゃないかと思っていたんだ。外れたな」
カラカラと笑い声が聞こえる。
薪の横で、エレインはシャーリーに抱きつかれたまま眠っている。僅かに魔力を使い尽くして疲労の残る表情を浮かべ、額に貼りついた金髪が少し痛々しくも妖艶さを放っている。
「フィレンツェはエレインを抱く時には、わっちだと思っていた?」
薪の前に立つヴィヴィアンが、俺を見下ろして小首を傾げる。
湖の城で別れた時より、何か愉しそうだ。彼女を見ていると、こちらも何時迄も不機嫌でいるのは難しい。
ファさりと長い丈のスカートが翻って、ヴィヴィアンが俺の横に座る。
さて。
困ったことに、きっと、悪女には悪女の、矜持というものがあるだろう。その可愛い口許から、如何なる言葉を紡ぎにきたのか、聞き届けなければならない。




