頭の良かった少年
ここは、ある国の小さな港町です。自然がたくさん残っていて、毎年たくさんのウミガメが浜辺にやってきます。
ある日のこと、港町に一艘の小船が流れ着きました。そこには、年老いた老人が一人だけ乗っていましたが、発見されて間もなく死んでしまいました。
するとどうでしょう。老人を助けた人が、その後すぐに病気になりました。老人の持っていた病気が、うつったのです。
病気は、瞬く間に町中に広まりました。高熱を出し、呼吸困難を起こし、たくさんの人が死にました。それはそれは、本当に凄い人数でした。
港町に住む13歳の少年、エリックは、とても頭のいい利口な子供でした。
中でも好きな教科は数学と理科で、将来は学者になりたいと考えています。
病気が流行りだしてから、彼の毎日は一変しました。大好きな家族や友人が、こぞって死んでしまったのです。エリックは、それをとても悲しみました。
エリックは、頭のいい少年でしたから、どうしたら、病気を防げるのかを一生懸命考えることが出来ました。港町を襲っているこの病気には、治せる薬がありません。どうしたら、その薬をつくることができるでしょうか。
エリックは、薬のことを考えたところで、自分には無理だと思いました。彼は、数学や理科こそ大好きですが医者ではなかったのです。薬の事はお医者さんにしかわかりません。
「なら、お医者さんに聞けばいいんだ。」
ああ、エリックは何て天才なのでしょう!そう、分からないなら調べればいいのです!
しかし、そこにたどり着くまでが遅すぎました。考えているうちに、エリックも、病気になってしまったのです。
動けなくなっても、エリックは病気から逃れる方法を頭で探しました。病人が隔離された部屋は、まるで箱のようでした。マス目の描かれた天井に、小さなシミが点になって見えます。
「点や線は、一次元だ。」
彼は、息も絶え絶えに言いました。
「点や線は、平面となって、二次元に脱出する。」
次元から逃げられれば、新しい世界に行けるのだとエリックは思いました。
彼は、病気から逃げる方法が分かったので、嬉しくて笑いました。
「平面は、平面は!立体になることで、三次元に脱出できた!」
何故か、目から涙が出てきました。エリックは、毛布をはねのけて、いろんなところにぶつかりながら立ち上がりました。
「立体は・・・!つまり僕は、三次元にいる!この立体から抜け出すことによって、次の世界へいけるんだ!」
これは世紀の大発見です!エリックは、四角い箱の中から抜け出そうとしています。
ここから出れば、彼は四次元へと旅立つことができますね。
点や線が平面になったように、平面が立体になったように、エリックは次の何かになるのです。
扉の向こうには何があるのでしょう。
「母さん、今いくよ。」
エリックは、扉をあけました。そこで意識が途切れます。
彼が次の次元へ旅立てたかどうか、それは、もう誰にもわかりません。