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秋元柚木の憂鬱

 秋元柚希の憂鬱

「まぁ、それは妹萌えってやつだね!」

 大学付近の喫茶店で、大学の先輩に弟のことを相談してみたところそんな答えが返って来た。

この先輩は私の所属する異文化交流研究サークルの先輩で、名前は水嶋美咲。整った顔立ちとモデルのようなスタイルで、言い寄ってくる男性の数は数え切れないという。成績もよく、大学側からの評価も高い。要するに完璧超人だ。それだからか、彼女を慕う人間も多く、顔が広いので様々な事情に精通している。相談を受けることも多いが、いたずらっぽい性格で、よく人をからかうことがある。以前私も一度騙されたことがあるけれど、真剣な相談には真剣に答えてくれるいい先輩だ……多分。

「いもう……ともえ……?」

「そうそう! 妹萌え!」

 初めて聞く言葉に困惑している私を見て、美咲先輩はどう説明すればいいのか、という顔をしていた。『イモウトモエ』とはなんだろうか? 人なのだろうか? 芋生巴さん? 聞いたことがない……。

「つまりだよ! シスコンってこと!」

「シスコン!? あの牛乳をかけて朝食べる!?」

「いや、それはシスコーンでしょ!」

 なるほど。違うということはシスターコンプレックスというやつか。昔は私も秋人と仲が良かったので、よくそんなことを言われたものだ。もっとも、私の場合はブラコンと言われていたのだけれど……。

「なるほど。つまり秋人は私が好きということですね! 好きだけど素直になれなくてあんなにそっけない態度をとっていると!」

「いや、そうじゃなくて……」

「え!? 違うんですか?」

「うん。違うね。話の流れから考えてわかるでしょ……」

 美咲先輩が呆れた様に言う。話の流れからして……?つまり……

「秋人は楓が好きなんですね!」

「うん。そういうこと。後、いちいち大きい声出さなくていいから……」

 周りをみると他のお客さんがこちらをチラチラと見ていた。なんとも恥ずかしい。私は少し顔を伏せ、声を潜めて美咲先輩に尋ねる。

「なんでそういう結論に至ったんですか?」

 私の質問に美咲先輩は楽しそうに答える。

「まぁ、同じ趣味の人……っていうか今の時代だったら普通はわかるんだよね。あんたはアメリカにいたからわからないだけで」

「と、いいますと……?」

 私は全く意味が分からず、美咲先輩にその先を尋ねる。

「あんたの話を整理するとだよ? アメリカから帰って来たら弟君と妹が仲良くなっていた。そして、妹が何故か冷たい。弟君の部屋に入ったらアニメのポスターやらフィギュアが大量にあった。ここまではいいね?」

 美咲先輩は今までの話を確認するように要約して話した。

そう、秋人の部屋には大量のアニメグッズがあったのだ。つまり、秋人はオタクと呼ばれるものになっていたらしい。別にその趣味を否定するつもりはない……というより実際どんな趣味なのか詳しくは分からない。とにかくアニメやら漫画が好きなのだろう。ただ、それが楓と仲良くなっていて、私には冷たいことの理由なのか、それが気になるのだ。

「はあ……それが秋人がシスコンな理由なんでしょうか?」

「まぁ、そういうことになるね」

 そこがいまいち理解できない。オタクであることとシスコンであることは関係あるのだろうか? 私の疑問が顔に出ていたのか、美咲先輩が補足をする。

「あんたはアメリカにいたから知らないかもしれないけど、オタク文化っていうのは今の日本じゃ以前より光を浴びててね、テレビでオタク文化についての特集組まれたり、オタクが主人公のドラマをやったり、オタクな総理大臣がいたり、まぁとにかく流行ってるのよ。中にはオタクはステータスみたいな感じのやつもいるくらいなのよ。それで、そのオタクの間で今流行ってるのが妹萌えってわけ!


「妹萌えですか……」

 妹萌えというのはシスコンということらしい。つまり、オタクの間ではシスコンが流行っているということか。

「それで、あんたの弟君はオタクになっていて妹とは仲良くなっていた。つまり……あんたの妹は妹萌えだったのよ!!


「な、なんだってー! ……まぁ、よくわかんないですけど秋人は流行の最先端を走っているということですね?」

「うん……まぁ一応、そういうことなのかな?」

 何故か複雑な顔をする美咲先輩。とにかく、秋人と楓が仲良くなっていた理由は大体わかったけれど、楓が私に冷たくなっていたことはまだ解決していないのだ。でも多分、先輩はもうわかっているのだろう。私はそのことを美咲先輩に聞いてみることにした。

「それで、なんで楓は私に冷たいんですかね?」

「それは知らない」

 即答だった。

「……秋人が妹萌えなのと関係あるんですかね?」

「さぁ? そもそも弟君が妹萌だとしても、妹の方がなんで弟にべったりなのかはわかんないしね。まぁ、まだ中学生なら思春期なんじゃない?いろいろあるのよきっと」

「そうなのかもしれないですねー……」

 楓ももう思春期か……確かに秋人が思春期になったのもそれくらいの時期だった気がする。それにしてもなんだかショックだ。思春期なら秋人にも冷たくなるんじゃないだろうか? なんで私にだけ冷たいのだろうか? お兄ちゃんは信用できるけどお姉ちゃんは……みたいな感じなのだろうか……?

「いや、それよりも!問題は弟君の方でしょ!?」

 楓の事で悩んでいる私を見て、美咲先輩がそう言った。

「秋人が? なんでですか?」

 秋人が思春期で冷たいのは元からだし、楓と仲がいい理由はわかった。特に問題はないと思うけれど……

「はぁ……。いい? よく考えるのよ? 妹を好きなのよ? それはやばいでしょ!?」

「そうですか? 家族を好きなのは普通じゃないですか?」

「いやいやいやいや。この場合の好きってそういう好きじゃないから! 妹は俺の嫁! みたいな! そういう感じだから!」

 妹は俺の嫁……?なんと!それはよくない。日本では兄妹での結婚は認められていないのだ。だから妹は嫁にできない。つまり、二人の未来はバッドエンドなのだ。きっと両親に反対されてしまい、二人は駆け落ちして遠い町でひっそりと質素な生活を送るのだ。いや、だけどそんな質素な生活でも二人が幸せならそれでいいのでは……!? あの二人ならきっと、町の人たちに暖かく迎え入れられ、楽しい人生を送れることだろう……私は少し寂しいけれど、二人の幸せを願うのなら、それもいいのかもしれない。

「……いや、なんか妄想してるところ悪いけど、基本的に家族間の恋愛はダメでしょ。別に恋愛は自由だとは思うけど世間体とかそういうのを考えたらダメでしょ?」

「そうかもしれないですね……でも、妹萌えというものが流行っているのなら大丈夫なのではないですか? 世の中には妹萌えな人はいっぱいいるんですよね?」

「まぁそうなんだけどさ……でも、基本的に妹萌えって二次元でやるものだから!」

「え? 二次元で?」

 つまり……どういうことだろうか?

「だからさ、普通はアニメの妹キャラとかを可愛いって意味で妹萌えなわけ。リアル妹萌えしてるやつなんてほとんどいないと思うんだよ? っていうか妹いる奴は大体、現実の妹なんて……とかいうけど二次元の話に三次元の話を持ち込むな! って私は言いたいくらいだよ。なら、お前はクラスで一人の地味系キャラ可愛いって言ったら、そう言う奴は大体可愛くないじゃんっていうのかよ! って話だよね!」

 何故か熱くなっている美咲先輩についていけない……が、つまり妹がいない人が妹萌えしているわけで実際に妹萌えしている人は少ないということだろうか?世の中ではまだ兄妹での恋は認められていないということだろう。

「つまりだよ? このままだと弟君にも妹にもよくないんじゃないかな? ってこと」

「まぁ、でも恋愛は自由だし、いいんじゃないですか?というか、私にはあんまり関係ない様な……」

「なに言ってんのあんた?」

「はい?」

「弟が間違った道を進んでいたら正してやるのが姉の勤めでしょうが!」

 ……確かにその通りだった。姉としてあの二人を悲しい未来に進ませる訳にはいかないのだ。

「そうですね! 美咲先輩! 私が秋人と楓を真っ当な道に戻して見せます!」

 そうだ。私はいつの間にか大事なことを忘れていたらしい。姉が弟と妹を導かないでどうするというのか!……とは言っても。

「……それって、どうすればいいんですかね?」

「そんなのは簡単なことよ! 妹萌えに勝つには姉萌えしかない! 名付けて姉萌え作戦! 姉にしかできないことを見せてやるのよ!」

 美咲先輩が楽しそうな顔をして言った。


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