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秋元柚木の決意

 秋元柚希の決意

「ふざけんな! 俺がそんなこと頼んだか!? あんたは姉だろ! ちゃんと弟と妹と向き合え!!」

「……」

 秋人のその言葉で私は何も言えなくなってしまう。部屋が静かになり、空気がより一層張り詰める。

「はぁ……」

 少ししてから秋人がため息をつく。この間と同じだ。

「姉貴って本当に馬鹿だな」

「なにそれ!?どういうことよ!」

 私は少し腹を立てて言い返す。

「結局、楓が姉貴を嫌がってたのは姉貴が何も言わないで留学したからなんだろ?」

「うん……」

「だったら、なんでまた何も言わないで海外に行こうとしてんだよ……それじゃあ前と同じじゃねえか」

「……」

 その通りだ……だけど、それ以外には思いつかなかったのだ。確かに私は馬鹿なのかもしれない……

「でも……じゃあ、どうすればいいの……?」

 私は少し泣きそうになりながら秋人に助けを求める。

「簡単なことだと思うけどね。楓が怒ってる理由がわかってるなら、後はすることなんて一つしかないじゃん」

「というと……?」

「謝る」

 秋人が短くそう言う。しかし、そこでやっと気がつく。そうだった……私はまだ楓に誤っていなかった。こんな簡単なことにも気がつかないなんて、私は本当に馬鹿だと思った。

「まぁ、楓が話を聞いてくれるかはわからないし、俺も手伝うからちゃんと楓と話そうぜ」

「……うん。ありがとう」

「困ってたら助け合うのが家族だろ?」

「うん。そうだね」

 私は秋人の言ったことに少しびっくりしつつ、頷く。

「秋人もいつの間にかしっかり男らしくなってたんだなぁ」

「なんだよそれ……」

 秋人が少し照れたように言う。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんとくっついていた秋人も、今ではしっかりと長男になっていたのだなぁと感心する。我ながら良い弟を持ったものだと思った。

「楓が帰ってくるまでちょっと話そうか……」

 きっとこれも大事なことなのだろうと思う。秋人とはちょっとの間、普通に話せる様になったものの、あの時はなんだかぎこちなかったし、話さなかった三年間のことをもっと話したかった。その前のことも、いろいろ話したいことがあったのに、いつの間にか忘れていた気がする。

「秋人が中学生になって、急に私のことを姉貴って呼び始めた時はびっくりしたなぁ」

 私は懐かしむ様にそう言う。

「なんでだよ……」

 秋人はちょっと照れる様に答える。

「だって、昔はお姉ちゃんって言って甘えてたし、まさかそんな日が来るとは思わなかったからねえ……」

「そうだったっけ? そんなことないと思うけど……」

「いやいや、そうだったって」

 私は少し笑ってしまう。昔の秋人と今の秋人は全然違うからだ。

「何かあったらすぐお姉ちゃんお姉ちゃんって私に報告して来てたんだよ」

「いつの話だよそれ……子供の時の話だろ?」

「そうだったかな?」

「そうだろ?」

「あの時の秋人は可愛かったなぁ……ぷっ……あはははは」

 思い出すと笑いが止まらなくなってしまう。

「な、なんだよ!」

「昔,私が隠れたら秋人が泣いた時のこと思い出してさ……ぷぷ」

「はぁ? そんなの覚えてねえよ。嘘だろ?」

「本当本当。すぐ泣いてたんだから」

「そうだったかぁ……?」

 少しずつだけど、秋人と前みたいに話せる様になっている気がした。これからまた、前みたいに仲のいい姉弟に戻れるだろうか?きっと戻れるだろう。家族なのだから……

「おっと、帰ってきたかな……?」

 玄関のドアの音が聞こえる。きっと楓が帰ってきたのだろう。私は秋人と話すのを一旦やめて、意識を集中させる。ドアが締まる音が聞こえて、階段を昇る足跡が聞こえてくる。多分、楓は着替をしに自分の部屋に戻るのだろう。それが終わった頃に楓の部屋に行こう。そして、ちゃんと話をするのだ。

「あのさ、秋人……」

「なに?」

「楓とちゃんと話して、みんな仲良くなれたらさ、前みたいにお姉ちゃんって呼んで?」

「はぁ? なんで?」

「なんとなく。姉貴って呼ばれるのはなんかなれなくてねぇ」

「はぁ……わかったよ……」

 秋人がそう言ったのを聞いて、私は部屋を出る。秋人もそれに続いて部屋を出る。秋人とはしっかり向き合った。これからは楓と向き合おう。

「楓、入っていいか?」

 秋人が楓の部屋のドアをノックして、声をかける。私が声をかけても無視されるだけだからだ。

「どうぞー」

 中から少し機嫌の良さそうな声が聞こえる。友達と夏祭りを楽しんで来たのだろう……私と秋人はドアを開けて部屋に入る。上機嫌そうな楓の顔が、私を見た瞬間に冷たいものに変わる。

「……どういうこと?」

 表情だけでなく、声もまた冷たいものに変わる。

「まぁ、落ち着けよ。少しちゃんと話そうぜ」

 秋人が宥める様に言うが、楓の態度は変わらないままだ。

「楓、ごめんね!」

「……え?」

 私は頭を下げて楓に謝罪する。きっと言い訳したって仕方がない。あの時は忙しかったとか、そんなことは関係ないのだ。私が楓に黙って行ったことには変わりない。

「楓には寂しい思いをさせたと思う……あの時ちゃんと楓に話しておくべきだった。お姉ちゃんが一年も勝手にいなくなってごめんね……」

「……」

 顔を上げて楓の方を見ると、楓は黙ったまま複雑な表情をしていた。きっとそう簡単に許してもらえることではないだろう。一年もずっと我慢していたのだ。楓の気持ちはわかるとは言わないが、わかってあげたい。

「そんなこと……」

「え?」

「そんなこと! 今更言われたって!!!」

「楓っ!」

 楓が声を上げながら走って部屋から出て行く。また怒らせてしまったのだろうか……? いや、どうしたらいいのかわからないのかもしれない。この一年、ずっと溜めていた気持ちをどこにやればいいのかわからないのかもしれない。簡単に流していい問題ではないのだろう。

「どうすんの?」

 秋人が私に聞く。

「それは……追いかけるしかないでしょ!」

「……だな」

 私はすぐに楓の後を追う。既に玄関のドアが開く音が聞こえる。外に出たのだろうか……?時間もかなり遅い。早めに追いつかないと危ないかもしれない。

 外に出ると楓の姿はもう見えない。どの方角へ行ったのだろうか……。

「姉貴はあっち探して、俺はこっち探すから!見つけたら連絡してくれ」

「わかった!」

 秋人が指を刺した方向に走り出す。楓の足はそれ程早くないはず、方向が合っていればすぐに追いつけるだろう。……と、思っていたのが五分前。

「はぁ……はぁ……」

 最近体を動かしていなかったからか、すぐに息が切れてしまう。楓は全く見つからない。秋人の方だったのかなぁ……一度飲み物でも買って休もう。早く楓を見つけた方がいいのだろうけれど、想像以上に体力が落ちている。私は近くの自販機で適当に飲み物を買おうとした……そういえば、財布なんて持ってきていない。携帯もだ……急に外に出たものだから、準備なんて全くしてなかったのだ。秋人は見つけたら連絡してと言っていたが、連絡することはできなさそうだ。逆に連絡が来ることも……

「はぁ……どうしたものか……」

 とりあえず、そこら辺を探すしかないか……いや、もしかしたらどっかのお店に入っている可能性もあるのではないだろうか? 楓もそんなに体力があるわけではないだろう。歩いているにしてもこんな時間だ、人気のないところは避けているだろう。そう思って私は近くのコンビニに入るが、そう簡単に見つかるはずもなく、店内を一回りして楓がいないのを確認して外へでる。

「うーん……秋人の方が見つけてるのかなぁ……」

 私は秋人の方の様子が気になる。こういう時に携帯がないと不便である。一旦家に携帯を取りに行くべきだろうか? しかし、こうしている間にも楓は遠くに行っているのかもしれない……どうするべきか?どうするのが一番いいのか……

「姉貴!」

 後ろから声が聞こえる。振り向くと秋人がいた。

「楓は!? 見つかった?」

「見つかったよ。っていうかなんで電話出ないんだよ……」

 秋人が少し怒った様に言う。

「いや、急に出たから忘れちゃって……それより楓はどこにいるの?」

「あーまぁ説明は後で、とりあえず家に戻ろう」

 秋人の態度に少し違和感を感じたが、私はそれに従って家へと戻る。

 家に着くと楓の靴があることから、既に戻っている様だ。恐らく今は部屋にいるのだろう。それにしても見つかって良かった。

「部屋で楓が待ってるから」

 待っている?

「どういう……」

「まぁいいからいいから、早く行きな」

「え……うん」

 さっきから秋人が何かを隠しているような気がする。しかし、今はそれよりも楓だ。多分、楓も今なら落ち着いていて、ちゃんと話せるだろう。私は楓の部屋の前に行く。

「楓、入るよ」

「……うん」

 少し遅れて返事が聞こえる。楓から返事が返ってくるというだけでも少し嬉しい。でも、今はその感情を抑えておかなければならない。楽しい話をしに来たわけではないのだ。楽しくはないけれど、大事な話だ。私はドアを開けて部屋に入る。

「……」

 楓はさっき部屋に来た時のように怒った様子ではない。かと言って、私に好意的なわけでもない様子だ。まだ結論を出してはいないのだろう。私を許すのか許さないのか。きっと、許してはもらえないかもしれない……それでも、ちゃんと向き合おう。話をして、昔みたいに一緒に遊びたい。今度は秋人と楓と私の三人で……。

 

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