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秋元秋人の問題

 秋元秋人の問題

 あーむかつくむかつくむかつく。なんなんだ姉貴は……自分勝手すぎる。あれだけ人にちょっかいかけておいて、普通に話せる様になったと思ったら、今度は話しかけるなか! ありえない。もうあんなやつ知ったことか。もう姉貴に振り回されるのはごめんだ。どうとでもなってしまえ!

「はぁ……」

 それにしても、今日はよくため息が出る。もう何度目かもわからない。姉貴と話さなくなるのなら別に楓と仲直りできるのだ。かといって、楓にどう説明すればいいものか……もう姉貴とは話さないから仲直りしよう? それでは楓の条件を受け入れた様ではないか。それだけはダメだ。姉貴が気に入らないからって無視しようなんてのはいじめみたいなものだ。それを楓に良しとするのはよくないだろう。そもそも、楓があんなことを言ったのもむかつく! 姉貴もむかつくが楓もむかつく! どいつもこいつも自分勝手だ。もうあの二人のことは知らん!……そういえば、今日も家に全員いるわけだけれど、夕食のとき気まずくないだろうか? そう考えると気が重い……

「お姉ちゃん今日は外で食べてくるって」

 そんな想像は母の一言で断ち切られる。どうやら姉貴は出かけたらしい……恐らく、俺と同じく、夕飯の席が気まずくなることに気がついたのだろう。まぁ、そうしてくれるならそれの方がいい。気まずい思いをしながら食事をするのは最悪だ。しかし、楓とはどうするか……姉貴がいなくても楓とは気まずいままである。……まぁ、なるようになるか。俺は諦めて食卓につくことにする。

「お兄ちゃん! 後で遊ぼうね!」

 俺より先に席に着いていた楓がそう言った。不気味なほど元に戻っている。一体どうしたというのか……

「お兄ちゃん、どうかした?」

「え……いや、うん。そうだな!」

「二人は本当に仲いいわねぇ〜」

 楽しそうに母がそう言ったが、俺は苦笑いで返すのが精一杯だった。

 夕食を済ませ、俺は楓より先に自分の部屋に戻る。楓が何を考えているのか全くわからない。まぁ、言っても一年ほどの付き合いだし、それほどわかるわけでもないのだけれど……姉貴に引き続き、訳のわからないことばっかりで参ってしまう。まぁそろそろ楓が部屋に来るだろう。こういうのは考えるよりも直接聞いたほうが早い気がする……答えてくれるのかはわからないけれど。

「お兄ちゃん、入るよー」

 案の定、楓が来た。

「あいよー」

 俺は適当に返事をして身構える。何があるかわからないからだ……妹相手に警戒するというのもおかしな話だが、本当に何があるかわからない。今は仲が悪いとは言え、あの姉貴の妹なのだ。まぁ当然のことだが、俺もあの姉貴の弟であり、楓は俺の妹でももあるのだけれど……全く似ていない家族だ。

「どうしたの? そんな変な顔して……」

 楓がドアを締めながら聞いてくる。

「変な顔してた? おかしいな。あはは……」

 楓が普通すぎて逆に怖い……さっきまであんなに怒っていて、お兄ちゃんなんて大嫌いとまで言った楓が、たった数時間で今まで通りになっている。一体この数時間の間になにがあったというのか……

「なに?」

 楓の方を見すぎたか、俺がおかしいと思っていることに気がつかれた。どう切り抜けるべきなのだろうか……?

「いや……なんていうか、その、さっきまで怒ってたのにどうしたのかなぁ……とか思ったりして……」

 俺は少し濁した言い方をしつつ、楓の反応を伺う。

「お姉ちゃんが言ってたの……」

「なにを?」

 姉貴が何かしたのか……

「お兄ちゃんはもうお姉ちゃんとは話さないんだよね?」

「え!?」

「さっきお姉ちゃんの部屋に来て、お兄ちゃんにもう話さないって言われたって……だから、お兄ちゃんと仲直りして上げてって……」

「は?いや……へーそうなんだ」

 姉貴のやつ何を考えてるんだ……俺がもう話さないって言った? 姉貴が話さないって言ったんだろ……うーん……わからん。本当に姉貴の考えることはわからん。何故こうまでして俺と楓の仲を元通りにしたかったんだ? 姉貴にメリットなんてないだろう……結局、楓には俺が姉貴と話さないことで決着がついてしまったけれど、これで良かったのだろうか……これでは結局、楓の条件を受け入れたようではないだろうか? しかし、ここで否定するのも話がこじれそうだ。なにより、もういろんなことが面倒くさい。


 夏休みも残り二週間。そろそろ夏休みの宿題なんて厄介なものにも手をつけなければいけない時期、全く宿題に手をつけていないにも関わらず。俺は夏祭りに来ていた。もちろん、一緒にいるのは楓だ……ったはずなのだけれど……何故か俺の隣には坊主頭の男がいる。夏休み中は楓と遊ぶかこいつと遊ぶかだった様な気がする。別に他に友達がいないわけでもないけれど、家も近いので遊びやすいのだ。

「石原慎二です」

「誰に言ってんだお前……?」

「いや、お前に会うのも久しぶりだから、忘れてるかなと思って……」

「久しぶりって夏休み中はたまに遊んでただろう……」

 全くもってバカな坊主である。それにして、なにが悲しくて男二人で夏祭りに来なきゃいけないのだろうか? 普通、夏祭りと言えば女の子の浴衣がメインだと俺は思う。普段とは違う服装、髪型、その他多くの要素が男のロマンと言えよう……出来ることなら浴衣姿の楓と一緒に夏祭りに来たかった……しかし、楓もどうやら学校の友達と行く約束をしていたようで、暇を持て余していたところに、たまたま来た誘いに乗ったというわけだ。丁度良かったといえば丁度よかったのだけれど……

「まぁ、お前が妹と来たかったであろうことはわかる……だけどな、こういう時こそ男の友情を深めるべきなんじゃないか!?」

 どうして俺がそんなことをしなければいかんのだ……

「それよりも、この間言ってたお姉さんことはどうなったんだよ?」

「あー姉貴なぁ……いろいろあったよ……」

「なんだよいろいろって、聞かせろよ」

 ニヤニヤと笑いながらそう言う慎二。全く……なにがそんなに楽しいのか? 悪趣味なやつである。

 近くのベンチに腰をかけ、俺は慎二に姉貴と話せるようになったことや、楓が姉貴を嫌って、結局は姉貴とまた離せなくなったことを軽く説明する。

「なるほどねぇ……また大変な事になっている様で……」

 俺の話を聞き終えた慎二がそう言った。こいつは人がわざわざ話したというのに、人ごとのように言いやがって……実際人のことなのだから仕方がないけれど……

「まぁ、お前がそれでいいならいんじゃないの?」

「なんだよそれ……」

 含みのある言い方をする慎二に少し腹が立つ。

「いや、いつまでもお前はシスコンなんだなぁと思ってさ」

「うるせえな。俺が妹萌えなの知ってんだろ……」

「そっちじゃなくてさ」

「は? どっちだよ」

「姉の方」

「はぁ? 姉貴……?」

 慎二の予想外の言葉に少し動揺する俺。

「確かお前、中学の時はお姉さんと仲が良くて、シスコンだって馬鹿にされたことがあったよな? それからほとんどお前とお前のお姉さんが一緒にいるのを見てないけど、あれはシスコンって言われて恥ずかしくなったからじゃねえの? お前は違うって言うのかもしれないけどさ……」

「そうだったっけ? 全然記憶にないなぁ……普通にあの年になると家族と話すのってちょっと恥ずかしくなるだろ? それだけだよ……」

 俺はそう言いながら当時のことを少し思い出していた。昔は姉貴と一緒に出かけたりなんかすることもあって、それを同級生に見られた次の日、学校でシスコンだなんて馬鹿にされてから、家族と仲がいいのは恥ずかしいことなんだと思い始めたのだ。それから姉貴と話すことはだんだん少なくなった。

「つまりさ、お前がシスコンなのは図星だったんだよ。それでそのことを馬鹿にされたからお前はお姉さんと距離をとってたんだろうけど、本質的にお前はずっと中学の時からシスコンのまんまなんだよ」

「はぁ? なんでそうなるんだよ?」

 知ったような口を利く慎二に更に腹が立つ。

「今回の件にしてもそうじゃねえの? 結局、お前はお姉さんに甘えたまんまじゃん。妹と仲直りするのにお姉さんを犠牲にして、なあなあで元の関係に戻ったわけだろ? それって男としてどうなのよ? お姉さんには甘えて、妹は甘やかしたままで終わり。お前はそれでいいわけ? 俺は別に関係ないからいいけどさ」

「……」

 慎二の言うことはもっともだ。しかし、俺にどうしろって言うんだ……どうするのが正解だったというのだろうか? 姉貴はもう俺とは話さないというし、楓とも姉貴のせいで、姉貴とは話さないという約束になってしまった。もうどうしようもないだろ……なにができるというのか……。

「結局お前がどうしたいのかは知らないけどさ……俺は家族ってのはみんな仲良くしたほうがいいと思うけどねぇ」

「……帰る」

 俺は慎二にそう告げて立ち上がる。。

「え!? ちょい待てよ! そんな怒るなって!」

「いや、ちょっと用事を思い出した」

 そう、別に怒って帰るわけじゃない。やるべきことがあるのを思い出したのだ。まだやっていないことがあった。姉貴ともっとちゃんと話し合うべきだったのだ。俺はあの時、すぐに諦めて、姉貴と向き合うことを放棄した。そうじゃなかったのだ。しっかりと話してから結論を出すべきだった。

「ふーん。まぁ頑張ってこいよ」

 慎二がそう言ってニヤッと笑う。本当に趣味の悪い奴だ。だが、こいつと友達で良かったと思えた。


家に帰るとまだ楓は帰って来ていないようだった。まぁ、夏祭りに行ったのにこんな早く帰ってくるなんてことは普通はありえないか……しかし、楓がいないのは好都合だと思った。そっちの方が姉貴と話しやすい。楓と姉貴の問題については今はいい。まず姉貴をどうにかしなければならない。俺は姉貴の部屋に向かう。

「姉貴、入るぞ」

 俺は軽くノックをして、少ししてから勝手にドアを開ける。どうせ、返事をする気がないことはわかっているからだ。それに、姉貴だって何度も俺の部屋に勝手に入っているのだ問題ないだろう。

「……」

 姉貴は黙ってこっちを睨むように見ている。きっと勝手に部屋に入ったことを怒っているのだろう。しかし、口を利けないのだから怒ることもできないのだ。ざまあみろ。俺はドアを閉めて、姉貴の手元にあるものに気がつく。何やら荷物をカバンに詰めていた様だ……何処かへ泊まりにでも行くのだろうか? よく見ると、そのカバンとは別に旅行用のキャリーバックが広げられている。

「どっか旅行にでも行くの?」

「……」

 姉貴は何も答えない。予想通りだが少し腹が立つ。

「今、楓いないし別に話しても問題ないだろ……」

 俺がそう言うと姉貴は一瞬、少し困ったような顔をしてから立ち上がる。

「はぁ……言わないで行こうと思ってたんだけどさ……私、夏休み中海外行くから……」

 姉貴が荷物をカバンに入れながら答える。とりあえず、これで楓が帰ってくるまでは話ができそうだ。それにしても、海外? また? この間帰って来たばかりだというのに、また行くのだろうか?

「ふーん……なんで?」

 俺は動揺を隠しつつ、質問する。

「いや、えーっと……なんとなく?」

「大学の人と?」

「一人で……」

 いつもは何を考えているのか全く分からない姉貴だが、今はなんとなくだがわかる。要するに……

「逃げるのか?」

「え?」

 姉貴が驚いたように顔を上げる。

「要するに姉貴は、俺と楓から逃げるんだろ?」

「違っ……」

「違わないだろ!」

 俺は今まで溜めていた物を吐き出す。

「楓と上手くいかないからって逃げて、その結果で俺からも逃げてるだけだろ! 何が違うんだよ!」

「そんなこといったって……そんなこといったって仕方ないじゃん! 楓になんにも言わないで勝手に留学して、それなのに急に帰って来た私が秋人と普通に話して、そのせいで二人が喧嘩してるんだったら私がいなくなるしかないじゃん!他にどうしろっていうの! 他に方法があるなら私だってそうしたいよ!」

 姉貴も立ち上がって声を荒げる。

「ふざけんな! 俺がそんなこと頼んだか!? あんたは姉だろ! ちゃんと弟と妹と向き合え!」


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