六話
随分とあけて申し訳ないです。待ってる人いないですよねすいません。
呆然として口が塞がらない私を、発光した目が静かに見つめてくる。
はっ、そうだった質問されたんだったよ。落ち着け、落ち着け。
「あ、はいそうです手綱のことです。じゃなくて、いや、あの、ちょっと聞いて頂けますか?」
決して混乱してるわけではないです。
彼は納得した様な顔を見せるとコクリと一つ頷いた。動作が素直ですね、素敵ですよ。
よし、実験を始めよう。
「こんにちは。」
此方の世界の言葉でご挨拶。
「こんにちは。」
母国語でもう一度ご挨拶。
これで実験は終了だ。
さてはて結果は如何なものか。
フードの中を更に覗きこんでみると鎧男は目を瞬かせて少々戸惑っている様だ。
まあ確かに日本語が理解できているなら同じ言葉を英語と日本語で言われているような感じだろうか。
「どう聞こえましたか?」
「どう、とは…この世界の言語で二度昼の挨拶を言われたように聞こえたが、なにか違いがあったのだろうか。」
あれ?
日本語も同じように聞こえてる?
そんな筈はない。だって私には全く違う言葉にしか聞こえないのだから。けれど彼に日本語がそのまま理解できているのもまた事実。
(取り敢えず日本語は通じるってことでいいんだろうか。)
理由は分からないけれど、そう納得するしか無いようだ。
けれどあの美少女がもし気付いて同じように混乱してはいけないので誰かがいる時は此方の世界の言葉で喋ろう。
「いえ、違わないならいいんです。すみません。」
言っても分かり難いだろうからにへらと笑っておく。何事も笑って誤魔化せ、だ。
完全に誤魔化されてはくれないようだが彼はそうか、と一言言って未だに掴んだ手を軽く引いた。歩き出すつもりのようだ。
引っ張られるままヒョコヒョコついて行く。
歩きながら考える。先程の怖い人と私の日本語と美少女。
怖い人についてはもう会いたくない。嫌いだ、大嫌いだ。
思い出したらまた足が震える。トラウマだよまったく。
頭を振って無理矢理頭から追い出す。もっと別のことを考えよう。
日本語は彼らに通じる。というより私の言葉はこちらの言葉に変換されるらしい。あとで文字も試してみよう。
既に随分と遠くにいる美少女。彼女はどうなんだろう。
本当にこの世界の言葉が分からなかったのだとしたら、それは私とは異なる。
こんなズレは、いらない。
彼女が分からなかったなら、私も分からなかった。それでいい。
口の端をゆるりと上げ、笑みを作る。
彼女が特別で私はおまけ。
なんの用でこの世界に呼ばれたかは知らないが、純日本人なめるなよ。
平均大好き真面目上等。
このスタンスをそのままにこの世界でもおまけはおまけらしく生きてやる。
そんな事を思いながら視線を上げれば鎧男がガン見してきました。すいません急に笑ってすんませんそんな目で見ないで。目が発光してるからぁ!怖いからぁ!
主人公は雑草根性丸出しです。