初めての戦い
バトルに突入します。主人公の動き、ややチートってます。つか無双。
ピンピロリン。
楽しげなリズムを持った音と共に、《レベルアップ。LV2になりました》と誰もがゲームをする上でうれしい気持ちになれる軽快な声が脳内に直接響く。
経験値入手が楽なこのゲームはレベルアップのためにかかる総所得経験値が多く設定されている、と希から聞いた。
レベル1の差によって所得経験値が1%増えるらしいから、結構レベル差が有ると予測される。
少しでも油断すると引っこ抜かれる雑草のようにHPを削られる。
―――油断大敵。情けは無用、か。
「かかってこいよ」
だから俺は己の限界を越える感覚を解放し、それでも目の前の茶色鱗の蜥蜴野郎―――じゃなかった、リザードマンに向け右手を前に突き出し、くいくいと挑発する。
「シャアアアァァァァァ!」
裂帛な叫び声を上げ、超突進してきた。挑発に釣られたのか、仲間の仇討ちなのかは分からないが間違いなく言えることはただ一つ。
俺の命を狙ってるっつー事だけだ。
「遅せぇよ」
やたらめったらに大振りで振り下ろされる曲刀に対し、迅速に対処する。
「俺もだけどな」
俺の頭をカチ割る軌道を取る曲刀を危なげなく、横っ飛びで回避する。そのまま流れるような足運びで
「藤山式拳闘術『破ノ脚』『水天一碧』!」
足掛け。
ドデンっとややオーバーリアクション気味に身体が倒れる。
別に刀で戦うのが侍じゃねぇよ。身体全身を用いて戦うのが普通だ。まあ、今のは邪道の技だが。
すきだらけのリザードマンの胸に
「藤山式剣闘術『剣技・裏』『看破の牙』!」
高速で短剣を左手に持ち替え、突き刺す。
追い討ちのように強烈な拳が寸分も狂わず短剣の柄の部分に叩き込まれ、インパクト音が炸裂。
ドッという音と共に鋭利な魔獣の牙の如く威力の短剣が身体に捻りこまれた。
頭の上にあるHPのバーが1ドット残さず真っ赤に染まった。
今刺した所は、人間の身体的な位置的から見れば心臓。言わば急所。
急所を狙えばどんな能力でも一撃死なのかもしれないなと頭の中で考えつつ、迫り来る4匹のリザードマンの猛攻撃―――俺的にはそこまで大したことの無い攻撃―――を回避する。
見切るのではなく、予測する。
敵の目線。身体中の筋肉のわずかな動きから、関節一つ一つから鳴るわずかなきしむ音。その他刀などを振るうときの風切り音、踏み込みの音、一回一回の呼吸から自分の計算上どのように、どのような角度で、どのような速さで来るかを。
コンピューターの演算機能のように、素早く。
もちろん肉弾戦ならギリギリで回避し、カウンターの『断罪』を叩き込むが。
雄たけび声を上げ迫り来る、リザードマンの獲物。四方向からの同時攻撃に俺は―――
「藤山式剣闘術『剣技』『螺旋』!」
旋風のような時計回りの回転斬りを放つ。
激しい火花が散り、全ての曲刀を弾く。
「藤山式剣闘術『剣技』『竜巻』!」
今度は反時計回りに回転斬り。『螺旋』『竜巻』瞬転、瞬転と放たれ続ける剣戟は、破壊だけを残して去る、荒れ狂う暴風のよう。そう表現するが正しいはずだ。
そして、リザードマンの獲物、曲刀をほぼ同時に打ち砕く。折られた刀は粒子となって虚空に消える。
「いくぜ」
獰猛な笑みを浮かべさせ
「藤山式剣闘術『剣技・裏』『旋風刃』!」
アイススケートの終盤に出てくるドーナツスピンに似た断続とした超高速の回転斬り。
短剣の先から白銀色の流星の尾のような水蒸気の円錐が渦を巻く。
とぐろを巻いた剣先から放たれる衝撃波が何度も何度もリザードマンのHPを削り
0まで追い込み、身体は黄色の粒子へと変わった。
ピンピロリン。《レベルアップ。LV3になりました》とアナウンスコール。
気を緩めずにあたりを警戒。敵は無し。違う。希を追い込んでいた。
「はあああぁぁぁぁ!」
藤山式剣闘術『剣技』『三日月』
背後からの奇襲。後ろに対して気を配っていなかったリザードマンに対し上段斬り。首が飛ぶ。奇襲というほどでもない。大声で俺の現在地を言った。
「初めてにしてはやるね」
「現実世界最強クラスをなめんな!」
突っ込んでいって、背と背をあわせる。たまにテレビであるから、これ一度やってみたかったんだぜ。
「よーし、動くなよ」
ダッ
地面を足で蹴る。『無拍子』
どうやら『息』というものはモンスターにも存在するらしい。
相手から見れば動いた瞬間移動のように俺は無抵抗のリザードマンに―――
「藤山式剣闘術『剣技』」
問答無用。
「『爪』」
煌めく五閃。右袈裟懸けの攻撃は全てリザードマンの胸をえぐるようにヒット。
心臓まで深くえぐった攻撃により、一瞬にしてHPゲージが赤に。
後ろでは希が拳銃で頭を打ちぬく―――HSという―――でゲージは0に。
人型モンスターは、『脳』『首』『心臓』が急所のようだ。
残ったのは、赤鱗のリザードマン―――リザードマンキング。
見ただけでさっきの奴とは違うと、俺の戦闘本能が告げている。
持つ槍は鋭利、盾は堅牢、鱗は鎧のように硬い気がする。
だが
「俺が人型に負けるわけがねぇだろ」
「どうする、征哉?」
「はっ、これが逆境っていうんなら」
俺は腰を低く構える。古代オリンピックの短距離走に使われた、超加速の体勢。
「それは・・・乗り越えねぇとな!」
ドンッという空気がゆがむ音を立て、俺は勢いよく突っ込む。
危険警告。『|You are over acoustic velocity now《あなたは今、音速を越えています》』。それは無視。HPがものすごいペースで減るが無視。
それよりも
まさかうまくいくとは思わなかった。
藤山式拳闘術という裏に存在する物の
裏がな
今日は大盤振る舞いだ。
見ておけよ。蜥蜴やろう!
「藤山式拳闘術『真髄』『流星』!」
関節、筋肉を連動。瞬間的に超音速まで加速。
水蒸気の円錐を纏ったその一撃を
赤色蜥蜴にぶち込む。
「唸れ、俺の右腕ッ!」
ドンッ
とアニメじみた音と
グザッ
と短剣が突き刺さる音が森の中に共鳴し、リザードマンキングのHPが五割以上削られた。
「ヴルアァァァァァ!」
さあ、潔く負けを認めろ。お前の槍はもうとどかない。なぜなら
「いくぞ、征哉!」
いつでもどこでも頼りがいのある、希の声。
お前は一人で強くても
俺たちは
二人で一人なんだぜ。
「『抜き撃ち』!――――――『瞬く間の銃撃・二丁・四連射!』
俺でも認識できないようなスピードの抜き撃ち。二丁の拳銃から一瞬だけ光る銃口炎からは推計八発の弾丸が放たれて、全て俺に当たらないように調整された弾丸は
バチバチバチバチバチバチッ!!!
リザードマンキングのいたるところを撃ち抜き
リザードマンキングのHPを表す緑のバーは
紅色に染まった。
「あぁ、楽しかったぜ」
あのリザードマンたちとの戦闘を思い出すたびに、心の内がざわめく。
思えば、全力で戦った記憶はほとんど無い。
俺が全力で戦ったのは、このゲームを賭けて親父と戦ったときだけだ。
全力で力を振るう。己の全てを用いて戦う。それがどんなに楽しいことか。
稽古はあくまでも稽古。訓練はあくまでも訓練。
同年代に本気で戦ったらおそらく大惨事になるだろうし、大人と戦ったら体格差がありすぎてまともに戦えない。
大きくなったらなったらで本気でやったら、やったじゃなくて殺るになってしまう。
ちなみに親父は今骨折の治療中だったりする。
常に手加減して、力を抑えて、気を使っていた俺の前に出てきたのだ。
手加減無用のモンスターが。
「やべぇ、俺の血が騒いでいやがる。そろそろ発散しないと木をバキバキ折っちまいそうだぜ」
「はいはい、それは少し我慢。もう少しで街に着くから」
俺の今のLVは6。リザードマンは普通10LV三人くらいが目安で、そのうえのキングは20LV五人組が目安でそれを倒すどころか圧倒した俺は、化け物の部類に入るらしい。
希曰くその実力じゃ《四天王》くらいは独力でいけるかもと言っていた。
なんだその《四天王》ってと頭をよぎるが、そんな雑念を振り払う。
「そういや、ここにダイブしたのって朝の七時ぐらいだったよな。なんでもう暗いんだ?」
空はもう黄昏色に染まっている。夕焼けはきれいでよろしいのだが、俺の感覚時間的におかしい。故にゲーム設定に何かがあるとしか思えない。
「それは、この世界では経過時間が二倍になっているからなんだ。現実では約八時。こっちは十六時、つまりは四時過ぎだ」
「なるほど」
意味が分からない、それだけが分かった。
「意味分からないって顔に出てるよ。だから、このゲームしたくても忙しい人だっているだろ。その人たちだけが夜のイベントとかが出来なければ。それだけならともかく、もしそのクエストで激レアユニークアイテムが出た瞬間ゲームが崩壊。と言うか会社倒産だ」
「簡単に言えば暇人イマジンはぜってーさせねぇ見たいな奴が出てこないようにするためにやってるのか」
「まぁ、半分くらいは・・・正解?だな」
俺たちは色彩鮮やかな緑の木々に囲まれた道を進んでいく。一番近い街が一向に見えない。このゲームおかしいんじゃね。
そういうことが頭の中によぎる中、俺のスキル(現実世界で身に着けたほうではない)『気配察知』が何かをとらえる。
すぐ側でがさがさと付近の草むらが揺れる音。草を掻き分けては出てきたのは兎。普通の兎よりもやや大きめな身体の輪郭。額に生えた、真っ赤で大きい立派な一対の角。頭上にはお決まりの緑色のHPを表すバー。プレイヤーとは思えない(あたりまえか)。モンスターのようだ。
「希、ここは俺に任せろ」
「かっこいい主人公的な台詞ありがとう。でもその雑魚じゃ私の拳銃で一発KOだね。というかその台詞って確実に死ぬ奴が言う台詞だよね」
けなし続けるな、希。これでも俺の心は弱いんだぞ。
兎は最初に攻撃する標的を俺と見たのか、なかなかの駆け足で突っ込んできた。角を前に突き出し、俺をド突こうとしているらしい。どうやらこの兎型モンスターの最大の武器はかわいらしい姿に似合わない角らしい。
「遅っそ」
ただ率直な一言。さっきのリザードマンとは比べ物にならないほど遅い。
横ステップ。その行動と共に短剣を一閃。目標の無い体当たりをかます兎の横腹を切りつける。
「理解できねぇ馬鹿だな」
柔らかい土を蹴って立ち上がり、再び突進してきた。バーの半分は赤に染まっている。
藤山式拳闘術『破ノ拳』『毒蠍尾』
カウンター。左拳はすくい上げる軌道を取り、兎の腹を殴りつける。拳から伝わる肉を打つ感覚。結果骨まで達し、ゴキンッと硬いものが真っ二つに折れる音がした。
短剣を使ってない攻撃は威力補正が無いが、兎の五臓六腑に衝撃を与えたのかなかなかのダメージを与えた。
そのまま右脚を一歩後ろに下げる。大威力の一撃を与えるための構え。
「彼我の戦力くらい把握できるようにしとけ。戦場ですぐ死ぬぞ」
藤山式拳闘術『破ノ拳』『断罪』
体当たりを決行した兎の進路上にあわせた爆速のストレートが顔面中央をとらえる。
鈍い感覚を感じると認識すると兎が赤いエフェクトを巻き散らかし吹っ飛んだ。
HPバーが0になると、細かな粒子となって消えた。
ダメージ無しの完封勝ちだ。
・・・・・・違った。めっちゃ最初のダメージが大きい。
心のダメージが。
「ったく弱ェなぁ。最低でもあのリザードマンクラスはいねぇのか?」
「このあたりじゃそうそういないね。そのあたりを抜けて街に着いたら一回休憩しよう。もう現実世界は九時に近いよ」
「おっ、まじか。・・・ん?」
「どうしたんだい、征哉?」
「このアイテムってのはなんだ」
俺は時間を知るために開いたステータスウインドウの一部分を指す。そこには『アイテム覧』と『新しい』の文字。
そういえば説明してなかったねと希は前置きしてから説明する。
「それは簡単に言えばなんでも収納箱。武器、防具、回復薬、金属塊、素材、スキル書。ありとあらゆるどうぐを入れられる。ちなみにドロップ品は自動的に収納されるから。あとそれにも筋力が関わっていて、STRが高ければ高いほどいろいろなものを入れられるから」
「分かった」
しばらく歩くと街が見えてきた。大きなビルが立ち並ぶ、都会のような町。
周りすっげド田舎っすけど。
「ここが最初の街、クリアタウン。このゲーム治安がいい街さ」
「『きゃー、助けてー』とか『万引きだー、捕まえてくれー』とNPCが騒いでいるのにか?」
「NPC?何を言っているんだい、君は?このゲームは超スペック。すべてAIだよ」
スペックもスケールも桁違いだな。
ゲームマスターが動かす機械的NPCに対し、AIは『推論』と『学習』を兼ね備えた人間味がある存在だ。
最近確立できたばかりだと言うのに、もうゲームに取り入れてるとは。
「じゃあいったん俺帰るわ」
「じゃあまた。今度は一体どのくらいに来るかな?」
「速くて昼の二時くらい」
「大体次の日の四時か。―――じゃあ、私は普通にいさせてもらうよ」
「じゃあな」
俺はステータス画面を開き、『ログアウト』と書かれたカーソルをクリック。
すぐに俺は淡い光に包まれ―――
徐々に意識が遠のいていった。
とそこで思う。
「刀のオーダーメイドを頼むの忘れた」
しかし大丈夫であろう。なにせ
「希のことだ。何でもわかってるだろ。たとえ何も言っていなくても」
ところで希。
征哉が去ったしたあと、ふとこう思った。
「そういえば、征哉の刀は武器系鍛冶師に頼んで無かったな。よし、こちらの方で頑張ってみるか」
二人はまさしく、以心伝心だった。
えーと、これから藤山式剣闘術とか入れずに『断罪』とか『毒蠍尾』とかって入力します。はい。