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2:凡



前にも言ったように、俺には放課後に遊ぶような親しい友人はいない。


それは、休日も一緒であり……。




「……なにしよう」




俺は現在、日曜日という一週間の中で最も喜ばしいであろう日を、部屋のベットの上で堪能していた。



現在時刻、午前十時。


つまり、目が覚めてから約一時間が経過したわけか。



このまま、二度寝するのもいいが、如何せん暑い。


とりあえずシャワーでも浴びようか。



そんなことを考えた、ちょうどその時である。




――ピンポーン




インターフォンが鳴った。



誰だろうか、と思いつつも、どうせ親が出るだろうと高をくくり、シャワーの用意を進める。

が、




――ピンポーン




「……」




――ピンポーン




「…………」




――ピンポーン




「………………」




――ピンポーン

――ピンポーン

――ピンポーン

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン




「だぁぁぁ、分かった! 分かりました!?」




急いで階段を駆け下りる。


途中でリビングを覗いたが、どうやら親は二人ともどこかに出かけているようだった。



つまり、現在家にいるのは、俺と未だに眠っているであろう陽香の二人だけ。


……しょうがない。




「はいはい、今出ますよ」




玄関までたどり着いた俺は、そう言って扉を開けた。


そこにいたのは、二人の女の子。


一人は、俺と同じかそれ以上に背が高く、まるでモデルか何かのような体つきをしたつり目気味な子。


もう一人は、前髪が目にかかるくらいに伸ばし、びくびくとした様子で挙動不審に陥ってる子。




「おはようございます。せっかくの休日ですのに、また今日も家にいますのね」




嫌味たっぷりにそう言うのは、つり目の方だ。




「………………ます」




前髪の方は、まったくもって聞き取ることのできない小さな声でそう言う。


おそらく「おはようございます」と言ったんだろう。




「あぁ、おはよう」




まぁ、どちらにも慣れたもので……。

とりあえず、俺は二つの見知った顔に挨拶を返した。





説明をしておこう。



彼女たちは陽香の友達である。


つり目の子が、鷹宮鈴奈(たかみやすずな)

前髪の子が、烏羽風乃(からすばかざの)


二人とも、陽香が病を患った時から御見舞いに来てくれている。



『親友』。



きっと陽香と彼女たちには、そんな言葉が相応しいだろう。





「それでは、失礼いたしますわ」




と、鷹宮が靴を脱いで家に上がってきた。


無遠慮な上に図々しい。

まったく、あかりと気が合いそうな奴である。



それに対して、




「…………ぅぅ……」




烏羽は玄関で立ち往生していた。

どうしていいか分からない様子である。


見舞いを始めて、もう三年も経つのだから、いい加減慣れても良さそうではあるのだが……。


とにかく、だ。




「どうぞ」




そう促す。


俺の言葉を聞いて、ようやく我が家に上がる烏羽。


ちょこちょこと、二階に上がっていった。




「はぁ」




大きなため息をつく。



なんでこう、俺とか陽香の周りには面倒で『普通』じゃない奴が集まるのかねぇ……。





正直な話。

俺は『普通』から大きく外れたことが好きではない。



『普通』じゃない奴は、良くも悪くも注目される。


そして、色々な感情の捌け口になる。


憧れ

妬み

憐れみ

憎しみ


そんなのは面倒だろう?


だから、



人間は『普通』が一番だ。







――コンコン




「はぁい」




陽香の部屋のドアをノックすると、中から陽香の返事が聞こえた。


どうやら起きていたようだ。




「お茶菓子、持ってきたぞ」




そう言って、部屋の中に入る。




「ありがとう、お兄ちゃん」


「御苦労様」


「…………ます」




三者三様の返事が返ってくる。


それを聞いて、立ち去ろうとした俺に、




「あら? どこに行くんですの?」




鷹宮の偉そうな声がかけられた。



ほんと、よく人ん家でここまで尊大でいられるな、こいつ。


と、心の中で毒づきながらも一応振り返り、質問はしてやる。




「何か用でもあるのか?」


「わたくしはないですわ。……でも」




そう言って、鷹宮は陽香の方を見る。


その視線につられて陽香の方を見ると、




「……お兄ちゃん」




陽香が寂しそうな目で俺を見ていた。


その様子は、まるで捨てられた仔犬か仔猫のようである。



陽香がそんな目をする時は、決まって構って欲しい時だ。


そんな目をされては、立ち去れない。


で、結局。




「……しょうがない」




俺は陽香の近くに行って、腰を下ろした。



その途端に、陽香の顔が明るくなる。


その表情を見ると、少し安心する。




「今日は調子いいみたいだな」


「うん」


「でも、無理はするなよ?」


「分かってるよ、お兄ちゃん」


「なら、いいさ」




陽香の頭を軽く撫でてやる。


十六歳、学年で言えば、高校一年生の妹に、こんなことするのは、些か子供扱いし過ぎかと思う。


だが、陽香はこうされるのが好きらしい。

普段、好きなことが出来ないのだから、この位はいいだろう。




「……ほんとに、仲よすぎますわねぇ」




と、そんな俺たちの様子に口を出す不粋な輩がいた。


見れば、その不粋な(たかみや)は、俺たちのことをじと目で見ている。




「……なんだ?」


「いえ、別に。ただ、年頃の兄と妹とは思えない仲の良さでしたので?」


「そう、かなぁ」




鷹宮の言葉に俯く陽香。


それに吊られたのか、烏羽も何故か俯いていた。



ちっ、余計なことを……。


心の中で舌打ちをし、毒づく。



もちろん、それは表には出さずに『普通』っぽく対応する。




「いいんじゃないか? 仲がいいことは悪いことじゃないだろう?」


「…………」




少し間があって、




「…………まぁ、そうですわね。変なことを言ってごめんなさい、陽香」




鷹宮がそう言った。




「え? ううん、気にしてないから大丈夫だよ」




そう言った陽香にも笑顔が戻った。



これでいい。


陽香がこれ以上、元気を失うのは見ていられない。







俺の『夢』は、陽香が元気になることだと言った。



その『夢』のためにも、『普通』は必要だ。


俺が『普通』を演じれば、もしかしたら、陽香も本来の元気な姿を……『普通』を取り戻すかもしれない。


…………。



……あぁ、分かってる。

分かってるさ。


そんなのは、ただの願望だ。


俺が『普通』を演じれば、陽香が元気になるなんて、そんなことあり得ない。




そんな夢みたいなことが起きるのなんて、それこそ、



『夢』の中でもないと、あり得ない。






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