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『鑑定が遅い』と追放された見積士、寿命と原価が見えるので要塞を最強にする  作者: 霧原なぎ
要塞建国編

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30/42

第30話:新しい見積書

グラナード要塞、地下300メートル。

そこは、かつてアルスとガリウスが最初の一滴の水を求めて岩盤を穿った、すべての始まりの場所。今、その地下空間はカイルの土木魔導によって、巨神の体内を思わせる巨大ドックへと変貌を遂げていた。


ドックの中央、鈍い銀光を放つ魔導列車「グラナード・ワン」が、蒸気と魔力の脈動を上げながら発車の時を待っている。


「――主様マスター。デット・ナイツ5,000名、全車両への『格納』完了。積載貨物、王都再建用重機および食糧2,400トン。異常ありません」


ミラの無機質な報告が、静謐な司令室に響く。

モニターには、貨物車両の中で泥のように眠る他国の騎士たちの姿が映し出されていた。かつて白銀の甲冑に誇りを懸け、神への忠誠を誓っていた精鋭たちは、今やアルスの帳簿上で「王都再建用ユニット」という名の在庫として分類されている。


「……移動時間は1時間45分。彼らにはその間、最高効率の睡眠を義務付けてある。……ミラ、彼らが目覚める頃には、地上で三日かかる距離を『過去』のものにしろ」


アルスは手帳を開き、淡々と数値を書き込む。

地上を馬車で行けば、魔潮ストームの残滓に怯え、悪路に足を取られ、三日の夜を越えなければならない。だが、この「地下の動脈」において、距離はもはや障害ではない。それは、計算によって削減可能な「無駄コスト」に過ぎなかった。


アルスは司令室のバルコニーに立ち、要塞の深淵を見下ろした。

カイルが地下12層まで穿った垂直都市の回廊には、4万人の民衆がひしめき合っている。

かつて王都の路地裏で希望を失っていた彼らが、今はアルスの発行した白磁硬貨「グラナ」を握りしめ、地底から伝わる微かな震動――「利益」が生まれる鼓動を、固唾を呑んで待っていた。


アルスは手元にある、古びた王国の紋章が入った見積書を取り出した。

それは、自身を無能と断じ、この地に追放した際に発行された「過去の遺物」だ。


「……計算違いだったな、陛下。あんたたちは三日の距離を『逃げる』ために使い、俺たちはその距離を『投資』に変える」


アルスはその紙を、迷いなく魔導裁断機の投入口へ差し込んだ。

シュレッダーが唸りを上げ、旧い世界の秩序が細かな紙屑となって、暗いダストボックスへ吸い込まれていく。


その瞬間、地底の静寂を切り裂く、鋭くも重厚な汽笛が鳴り響いた。


「――発車しろ。世界を、適正価格で書き換えるぞ」


アルスの命を受け、グラナード・ワンが地鳴りのような咆哮と共に動き出した。

時速100キロメートル。

地下の闇を切り裂き、カイルが均した鏡面のような軌道を滑る鉄の塊。

三日の絶望を、わずか二時間の休息へ。


地上の常識を、旧来の権威を、そして全ての「非効率」を、その重厚な車輪が粉砕していく。

地上では、4万人の民衆が熱狂的な歓声を上げ、手にした「グラナ」を高く掲げた。

その光景は、暗い地底に生まれた新たな太陽のようだった。


アルスは新しい手帳の真っ白な1ページ目に、力強くタイトルを刻んだ。


【件名:大陸全土の再建リストラ


「この見積もりはいささか骨が折れそうだな……」


追放された見積士が作り上げたのは、侵略者を「最も効率の良い道具」に変え、地上の三日を「地下の二時間」で上書きし、絶望を「純利益」に変えて回る、冷徹で美しい新世界。


闇を切り裂き、王都跡地へと向かうグラナード・ワンの絶叫が、世界を買い叩く新時代の始まりを告げた。

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