第3話:ゴミ山に眠る「一万年」の価値
王都から馬車で三日。たどり着いた北方の地は、寒風が吹き荒れる不毛の荒野だった。
目の前には、巨大な岩山と一体化した『旧グラナード要塞』がそびえ立っている。
だが、その姿は無惨だった。外壁は剥がれ落ち、魔力の灯りは絶え、今にも崩壊しそうな「巨大な粗大ゴミ」そのものだ。
「……本当に、ここを買うつもりなのかね?」
隣で、土地の管理役である老役人が、気の毒そうな目で俺を見た。
「ここは数年前の地震で地脈が狂い、結界すら張れなくなった『呪われた廃墟』だぞ。修復するだけで国家予算が飛ぶ。やめておけ、若いもんが破産するだけだ」
老役人の言葉は、世間一般の「見積もり」としては100点だ。
だが。
俺が手帳をかざすと、黄金の数字が要塞の「真実」を弾き出した。
【物件:旧グラナード要塞】
【表面評価額:マイナス一千万ギル(解体費用が必要なため)】
【真の価値:一億二千万ギル】
【理由:基礎石に希少石『金剛霊石』が三千個“誤用”されている】
かつての設計者が、ただの硬い石だと勘違いして、伝説級の魔導触媒を土台に使ってしまったのだ。
いわば、最高級のダイヤモンドを砂利代わりにして建てられた城。それがこの要塞の正体だ。
「……一万ギル」
俺は提示した。
「一万ギルで、この要塞と周囲の土地全ての権利を買い取ります。もちろん、現状渡しの修復義務免除で」
「なっ……本気か!? 捨てるのにも金がかかる負債だぞ!?」
「ええ。ゴミの処分なら、専門家に任せてください。……それと、これ」
俺は契約書の隅に、小さな追記をした。
『物件購入に伴い、管理役への退職金として三万ギルを別途支払う』
「な、なんだこれは……?」
「あんた、予算が削られる中で、自腹を切ってこのボロ城の掃除を続けてたろ。その『管理コスト』の正当な対価だ。受け取っておけ」
老役人は絶句し、震える手で判を押した。
誠実な者が損をする見積もりは、俺の美学に反する。
数時間後。
俺は一人、要塞の最も深く、最も「ボロボロ」だと言われている地下区画へ降りた。
ヒビ割れた巨大な支柱の前で、俺はナイフの柄を当てる。
「さて……『中抜き』の残骸を掃除するか」
――パキィィィィン。
表面を覆う安物の石灰を叩くと、剥がれ落ちた層の下から、淡い黄金色の光を放つ透き通った結晶体が現れた。
『金剛霊石』。
一個で王都の最高級宿に一年泊まれる価値がある秘石。それが、この要塞には「地盤」として三千個も埋まっている。
「地脈が狂ったんじゃない。この石が、周囲の魔力を全部吸い尽くして溜め込んでいただけだ」
俺が支柱の特定の「点」に指を触れ、魔力の流れを正しくバイパスさせる。
すると――。
ゴォォォォン……!
地底から響くような重低音。要塞全体が生命を得たように震えた。
消えていた魔導灯が一斉に点火し、淀んでいた空気が一瞬で浄化される。
数秒前まで死んでいた廃墟が、巨大な生き物のように鼓動を始めた。
【判定:再起動成功】
【耐用年数:10,000年】
【資産価値:測定不能】
「……合格だ。これなら、俺の城として申し分ない」
一方、その頃。
王都では、レオンたちが「アルスが金を横領して逃げた!」と騒いでいたが、誰も気づいていない。
彼らが「ゴミ」として捨て、俺が一万ギルで買い叩いたこの場所が、間もなく世界で最も「価値ある場所」に変わることを。




