第29話:中立経済特区「グラナード要塞」独立宣言
王都の消失から数日。滅びた王国の「遺産」を奪い合うべく、周辺国が動き出した。
「――アルス・ロベントよ! 貴様の『計算ごっこ』もここまでだ!」
要塞グラナードの第4ゲートを包囲したのは、ガルア聖王国の5,000騎。デトモルト将軍は、要塞の門前に立ち塞がるアルスを見下ろし、勝ち誇ったように叫んだ。
背後に控えるのは、大陸最高峰の硬度を誇る白銀甲冑を纏った精鋭、『白金騎士団』。
「陛下と聖女を救出してやるぞ! 全軍、突撃ッ!」
だが、アルスは動かない。手帳すら開かず、ただ退屈そうに指を鳴らした。
「……ガリウス。あの『粗大ゴミ』、邪魔だ。片付けてくれ」
「がはは! 任せとけ、小僧!」
城壁の上で、ガリウスが巨大なレバーを引き下ろした。
ガコンッ、と要塞の深部で駆動音が響いた瞬間――騎士たちの魔導槍が火花を散らして爆ぜ、白銀の鎧は関節部が赤熱して「強制ロック」された。
「バ、馬鹿な!? 最新鋭装備が、なぜ一瞬で……!」
「最新鋭? 笑わせるな」
アルスが、泥濘に這いつくばるデトモルトの前まで悠然と歩み寄る。
「その装備の基本特許は、すべて俺の横にいるガリウスが持っている。あんたたちが誇っている武力は、俺たちが指先一つで『ただの鉄クズ』に変えられるガラクタなんだよ」
デトモルトが屈辱に顔を歪める中、アルスは城壁の上を指差した。
そこには、一晩中搾り取られ、ボロ雑巾のようになって「燃料石」を運ばされているレオンとセリアの姿があった。
「忠義を尽くしたいなら、あの勇者様の隣に席を用意してやるが……どうだ?」
デトモルトは絶句した。王国の象徴だった勇者が、ただの作業員として扱われている。その光景は、何千もの言葉より重く、騎士たちの戦意を粉砕した。
「……リン。こいつらの鎧から、魔力を根こそぎ『回収』しろ。一滴残らずだ」
「はい、主様。……喜んで」
リンが杖を突き立てると、5,000の騎士たちから絶叫が上がった。
騎士たちの魔力が光の帯となって要塞へと吸い込まれていく。それは、4万人の避難民のパンを焼き、地下12層まで増設された垂直都市の灯りとなる「ただの燃料」へと成り下がった。
数分後。そこには魔力を吸い尽くされ、重い鉄の塊の中で震える男たちの群れだけが残った。
「……アルス・ロベント……。貴様、我々を、殺しはしないのか……」
「殺す? 無駄なコストだ」
アルスはここで手帳を開き、ペンを走らせた。
「立て、デトモルト。あんたたちは今日、この瞬間に『白金』の価値を失った。残ったのは、俺への莫大な『救出費用』という名の負債だけだ」
アルスは冷徹に、新たな「見積書」を突きつける。
「今日からあんたたちは、『債務騎士団』だ。その身体で王都の瓦礫を運び、新たな外郭都市を建設しろ。拒否するなら、今この場で廃棄処分(処刑)。受けるなら、パンとスープを貸し付けてやる。どっちの収支が合うか、あんたの頭でも分かるだろう?」
デトモルトは、自分を「敵」としてすら見ていないアルスの瞳に、底知れぬ恐怖を感じた。
自分たちは、戦士ですらない。ただの「回収可能な資産」として買い叩かれているのだ。
「……わかった。我々の命を、買い取れ……」
デトモルトが首を垂れた瞬間、武器が落ちる乾いた音が連鎖した。
その背後では、4万人の避難民たちが、かつての支配者たちが泥にまみれて働く姿を、せせら笑いながらパンを齧って眺めていた。
アルスは書類を高く掲げ、要塞の全方位に向けて宣言した。
『全大陸に告ぐ。――旧王国は倒産し、ガルアの武力は我が帳簿の一部となった。これより、ここはどの王にも縛られない。数字と信頼の聖域――中立経済特区「要塞都市グラナード」の独立を宣言する!』
4万人の歓声が、朝の空気を震わせた。
それは、血筋や武力が支配した暗黒の時代が終わり、アルスが描く「新しい見積書」が世界を塗り替えた瞬間だった。
モチベーションになりますので、よければブクマや評価をお願いします




