第21話:要塞の急成長
要塞グラナードの朝は、巨大な蒸気機関の咆哮と共に幕を開ける。
門の前には、もはや数えきれないほどの亡命者が列をなしていた。王都のハイパーインフレ、そして聖教会の実質的な「破産」を受け、もはや王国の権威にすがる者はいない。
「――主様。入国審査、および査定完了。本日午前10時をもって、要塞の登録居住人口が5,300名を超えました」
司令室でミラが、水晶板に浮かぶ膨大な数字を弾き出す。
かつてバルガスと2人で始まったこの拠点は、わずかな期間で王国の地方都市を凌駕する規模へと膨れ上がっていた。
「……予定通りだ。カイル、第二外郭の接続はどうなっている」
アルスの問いに、魔導通信越しにカイル・グレイの野太い声が返る。
「おう、バッチリだ! ベックの野郎が、昨日没収した金貨から精錬した『魔導補強材』を夜通し運び込んでくれたおかげでな。……今、最後の要石を打ち込んだところだぜ!」
地響きと共に、居住区を包み込む新たな外壁がせり上がる。
5,000人。それは単なる数字ではない。
カイルの設計、ベックの運搬、そしてガリウスが鋳造した鉄骨が組み合わさり、人口密度による不衛生やスラム化を一切許さない「モジュール式都市」が完成した証だった。
「主様、防衛ラインも再定義しました」
ミラの傍らで、魔導主任のリンが指を走らせる。
「5,000人分の魔力を循環させ、結界の強度を当初の1.5倍に引き上げました。これなら、来る『魔潮』の第一波も、見積もり通りに捌けます」
かつて王都で冷遇されていた魔導師たちは、今や要塞の心臓を動かす不可欠な「歯車」として、誇らしげにその任に就いていた。
一方、要塞の「顔」となる中央広場では、エレーナが厳しい視線を亡命者たちに送っていた。
「いいですか。ここには『お客様』は一人もいません。住居と食糧、そして安全が欲しければ、アルス様が定める労働に従い、グラナを稼ぎなさい。……無能に割くパンは、この街には一欠片もありません」
エレーナの言葉は冷酷だが、その手元からは、確実に焼きたてのパンと清潔な衣類が「役割」を得た人々に手渡されていく。
かつて要塞に侵略しにきた元王国騎士団の500名が、今は現場のリーダーとして新参者たちを導き、混乱を未然に防いでいる。
「……衣食住。そして金融。すべてが整ったな」
アルスは手帳を開き、要塞のステータスを更新した。
【判定:要塞都市グラナード・建国準備完了】
【人口:5,342名】
【資産:グラナ経済圏による周辺都市の完全掌握】
【リスク:王都の機能停止による、最後の『暴走』】
窓の外には、カイルが築いた美しい街並みと、ガリウスの工房から上がる活気ある煙が見える。
だが、その反対側――はるか遠くの王都ブランシェットの上空には、ドス黒い雲が渦巻き始めていた。
「……ミラ。王都の『ライフライン』の状況を」
「はい。カイル様と私が抜けた後の魔導維持管理が限界に達しています。……明日には、王都の魔導水道および照明術式が、完全停止する見積もりです」
「……そうか。いよいよ、古い世界の『賞味期限』が切れるな」
アルスは冷徹に、王都という名の「不良物件」を切り捨てる決断を下した。
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