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『鑑定が遅い』と追放された見積士、寿命と原価が見えるので要塞を最強にする  作者: 霧原なぎ
要塞建国編

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第18話:要塞通貨「グラナ」の命名

王都の「権威」が、音を立てて砕け散った。

要塞の門前に積み上げられたのは、王都の貴族たちが必死に守り抜いてきた、数万枚の金貨だ。だが、それを受け取る者は誰もいない。かつてアルスを無能と嘲笑った伯爵が、泥にまみれて叫ぶ。


「頼む! この金、全部やる! だから、その石っころ……白い硬貨を一枚、恵んでくれ!」


デスクに脚を投げ出し、優雅にパイプを燻らせていたセドリックが、冷ややかに目を細めた。


「ククク……旦那、勘違いしちゃ困ります。これは『恵み』じゃない。……アルス様が定義する、この世界の新たな『尺度』ですよ」


セドリックが指を鳴らすと、背後から巨漢のベックが現れた。

彼は貴族が差し出した金貨の袋を、まるでゴミ袋でも扱うかのように無造作に掴み取ると、はかりにすら載せずに背後の溶鉱炉へと放り込んだ。


「おい、待て! 何を……!」


「【判定:資材価値のみ】。……不純物の多い王国金貨は、ガリウスの工房で使う『歯車』の素材に丁度いい」


アルスがバルコニーから見下ろし、無慈悲な宣告を下した。


「金貨一万枚につき、この白磁の硬貨を一枚。……それが俺の見積もりだ」


広場が静まり返る。一万対一。王国の富が、一瞬にして一万分の一に「損切り」された瞬間だった。

アルスは手元にある真っ白な硬貨を、高く掲げた。

ミラ・アストレイの演算が刻まれ、リンの魔導術式が脈動し、ガリウスのプレス機が「価値」という概念を物理的に固定した、究極の信用。


「――名を、『グラナ』とする」


アルスの声が、魔導通信を通じて要塞全域、そして王都の耳目スパイたちへ響き渡った。


「一グラナは、パン三個、水一リットルと等価だ。この価値は、世界が滅びようとも、俺が支配する領域では一ミリも変動させない」


「グラナ……」


人々が、その名を畏怖と共に呟く。

王都ではパン一つ買うのに金貨の山が必要になり、明日にはその山すら紙クズになる。だが、この白い石――『グラナ』を一枚持っていれば、アルスの要塞では「確実に命が繋がる」のだ。


「エレーナ、配給を開始しろ。……ベック、カイル、増え続ける『資産ひと』を次の居住区へ叩き込め。一秒の停滞も許さん」


「了解だ、アルス様! お前ら、休む暇もねえぞ!」


ベックの怒号と共に、要塞が生き物のように脈動し始める。

カイルが石を組み、ベックが運び、職人たちが仕立てた清潔な服を市民が纏う。エレーナが管理する配給所からは、湯気の立つ『古代天恵麦』の香りが、門の外にいる飢えた王都貴族たちの鼻を執拗に攻め立てた。


「セドリック、隣国の商会への通告は終わったか?」


「ええ。彼らはすでに、王国の金貨での決済を打ち切りました。……今、この大陸で最も信頼される名前は『国王』でも『勇者』でもない。……貴方が名付けた、この『グラナ』ですよ」


セドリックは、自らの帽子を脱ぎ、アルスに恭しく一礼した。

アルスの手帳には、王都の資産評価額に「ゼロ」という終止符が打たれ、新たに立ち上がった『グラナ』という巨大なグラフが、天井知らずの右肩上がりを描いていた。


王都は死んだ。

一枚の「白い石」が、古い世界の息の根を止めたのだ。


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