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『鑑定が遅い』と追放された見積士、寿命と原価が見えるので要塞を最強にする  作者: 霧原なぎ
要塞建国編

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第15話:若手騎士団の『損切り』

王都ブランシェットの状況は、もはや「困窮」の域を超えていた。

北壁は崩れたまま。石材は要塞側に買い占められ、バルガスが必死に増刷した金貨は、市場で「ただの重り」として忌避されていた。

焦った新・国防卿バルガスと勇者レオンが下した決断は、あまりにも短絡的だった。


「壁が直せないのなら、外の魔物を根絶やしにすればいい。……若手騎士団を出撃させろ。これは王命だ」


出撃を命じられたのは、まだ実戦経験の浅い若手騎士たちが中心の第四小隊。彼らに与えられたのは、刃こぼれした中古の剣と、エレーナの指摘通り「中抜き」によって防護魔法の質が落ちた粗悪な鎧だけだった。


「……こんな装備で、魔潮ストームの先触れと言われる大蜘蛛の巣に突っ込めというのか?」


小隊長のリックは、震える手で折れそうな剣を握りしめた。これは遠征ではない。ただの「不祥事隠しのための捨て駒」だった。

王都郊外、深い霧が立ち込める森の入り口。

絶望に包まれたリックたちの前に、音もなく一台の馬車が停まった。


「……待て。その先へ進めば、あんたたちの生存率はゼロだ」


馬車から降りてきたのは、漆黒の外套を羽織った男――アルスだった。


「アルス……! 追放されたはずの見積士が、なぜここに……」


「あんたたちの命を『査定』しに来た。……リック、あんたの小隊の現在の価値は、バルガスの帳簿上では『消耗品』として計上されている。補充にかかるコストは金貨五枚。あんたたちの命は、あの大蜘蛛一匹を仕留めるための『撒き餌』程度の価値しか置かれていない」


アルスが手帳を開き、冷徹な数字を突きつける。


【対象:第四小隊(一二名)】

【現状:死地への強制派遣(生存率:〇・八%)】

【騎士たちの潜在価値:熟練歩兵としての将来性(B級)】

【損切り案:王権への忠誠を破棄し、要塞へ移籍】


「……そんなこと、言われなくてもわかってる! でも、俺たちは騎士だ。命令に背けば反逆罪……家族まで路頭に迷う!」


「家族なら、セドリックが昨夜のうちに王都から『移住』させた。今頃は要塞の暖かい宿舎で、カイルが作った強固な壁に守られてスープを飲んでいるはずだ」


アルスの言葉に、小隊員たちの間に動揺が走る。


「バルガスはあんたたちを『損切り』した。不要な在庫として処分しようとしている。……なら、俺がその在庫を丸ごと買い取ってやる」


アルスは、リックの目の前に白磁の硬貨グラナを詰めた袋を置いた。


「それは、あんたたちがこれまで王国に捧げてきた忠誠の、正当な『退職金』だ。そして、俺の要塞での『再雇用契約金』でもある。リック、死ぬのが騎士の仕事じゃない。価値ある場所で生き抜くのが、プロの仕事だ」


「……俺たちの、命の価値を……あんたが保証してくれるのか?」


「俺の見積もりにミスはない。あんたたちの剣は、あの大蜘蛛に折られるためにあるんじゃない。……俺の『聖域』の門を守るために振るえ」


リックは、目の前の「死」と、アルスが提示した「生」の数字を見比べた。

王都を見上げれば、そこにあるのは自分たちを使い捨てる無能な権力者と、崩れた壁だけだ。


「……全員、剣を捨てろ! 俺たちは今、この瞬間をもって王国騎士団を退職する!」


リックの叫びと共に、森の入り口に錆びた剣が次々と投げ捨てられた。


「賢い選択だ。……セドリック、彼らを回収しろ。装備はすべて、ガリウスに新調させる」


数時間後、森の奥で「騎士団全滅」の報告を待っていたバルガスの元に届いたのは、死体ではなく、もぬけの殻となったキャンプ地と、一枚の「見積書」だった。


そこには、簡潔にこう記されていた。

『貴殿が放棄した一二名の戦力。当要塞が適正価格で買い受けた。――見積士アルス』


アルスの手帳の中で、要塞の軍事力評価が一段階跳ね上がり、王都の評価はついに「機能不全」を意味する領域へと転落した。

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