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『鑑定が遅い』と追放された見積士、寿命と原価が見えるので要塞を最強にする  作者: 霧原なぎ
要塞建国編

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第11話:聖域の査定

王都ブランシェットの外郭、北門付近。そこには、王都の華やかさとは対照的な「土の臭い」と「絶望」が漂っていた。


「……クソッ、魔力が足りない。あと少し……あと少しだけ持ってくれ……!」


青年カイルは、ひび割れた城壁に両手を突き、震える声で詠唱を続けていた。彼の職業は土木魔導師。本来なら王国のインフラを支えるエリートのはずだが、今の彼は、ボロ布のような服を纏い、不眠不休で壁の修繕を繰り返す「使い捨ての部品」に過ぎなかった。


彼の視線の先には、昨夜の魔物の襲撃で大きく穿たれた石材の隙間がある。それを塞がなければ、今夜にも魔物が王都へ雪崩れ込む。だが、カイルに与えられた予算はゼロ。支給される食事は乾燥した硬いパン一切れのみ。


「おーい、土木野郎! さっさと壁を直せよ。勇者様が明日ここを通るんだ。見栄えが悪いだろ!」


壁の上から、着飾った騎士が嘲笑いながら小石を投げてくる。

カイルは唇を噛み締めた。彼が一人で支えているこの壁がなければ、あの騎士も、酒場で笑っている貴族も、全員死んでいるというのに。


「……見積もり終了だ。あんたの苦労、完全な『赤字』だな」


不意に、背後から落ち着いた声がした。

振り返ると、そこには見慣れない黒いコートを着た若者が立っていた。その隣には、大きな天秤の紋章が入った馬車と、初老の男が控えている。


「……誰だ。ここは立ち入り禁止だぞ」


「アルスだ。見積士をしている」


アルスは手帳を開き、カイルと、彼が触れている壁に視線を走らせた。その瞳には、カイルには見えない「数字」が浮かんでいる。


【対象:カイル・グレイ】

【職業:土木魔導師(五級)】

【現在の市場価値:金貨200枚/月(技術独占性による)】

【現在の実支給額:銅貨五枚/日】

【損出率:98.5%】


「カイル、あんたはこの一ヶ月、一人でこの北壁を支え続けてきた。あんたの魔力で行っている『補強』の価値は、王都の全予算の5%に匹敵する。だが、あんたへの支払いはその100分の1にも満たない。……不当な搾取だ」


「……何を知ったようなことを……! 俺がやらなきゃ、ここが壊れるんだ!」


「壊れればいいさ。価値を正しく見積もれない組織は、一度更地になるべきだ」


アルスは淡々と告げると、ポケットから一枚の「白磁の硬貨」を取り出し、カイルに投げ渡した。


「それは『要塞硬貨』。俺の要塞で流通している硬貨だ。王都の金貨と違って、インフレもしないし、必ず価値が保証される」


カイルは戸惑いながら、滑らかな手触りの硬貨を見つめた。


「それをあんたに提示する俺の契約条件オファーだ。カイル、今すぐその手を壁から離せ。そして俺の要塞に来い」


「な、何を言って……! 俺が手を離したら、今夜にもここが……!」


「今夜どころか、三時間後にはその壁は崩落する。あんたがどれだけ魔力を注いでも、基礎の石材が中抜きで安物にすり替えられているからな。……あんたの努力は、最初から『無』だ」


アルスの冷徹な鑑定結果に、カイルの顔が青ざめた。


「あんたの技術を、俺に『適正価格』で買わせてくれないか? 俺の要塞なら、あんたの壁一枚に相応のグラナを支払う。清潔なベッドと、三食の温かい食事が付く。何より……あんたの仕事を『石ころを積む作業』とは呼ばせない」


傍らにいたセドリックが、ニヤリと笑って付け加えた。


「カイル殿。このアルス様の『見積書』は、一度も外れたことがない。この泥舟(王都)と一緒に沈むか、新しい世界の礎になるか。……商売人なら、考えるまでもないでしょう?」


カイルは、自分の魔力を吸い取り続ける冷たい壁と、アルスが掲げた「価値を保証する」という言葉を交互に見つめた。

騎士の罵倒。貴族の無視。空腹。……すべてが限界だった。


「……あ、ああ。……わかった。あんたの見積もりに、賭けてみるよ」


カイルが壁から手を離した瞬間。

ピキッ、と乾いた音が響いた。

彼が魔力で繋ぎ止めていた「歪み」が限界を超えたのだ。


「おい! 何をやっている土木野郎! 手を離すなと言っただろうが!」


上から騎士が叫ぶ。だがアルスはカイルの肩を叩き、馬車へと促した。


「……行こう。ここはもう、俺たちの関知する場所じゃない」


馬車が走り出して数分後。

背後から、ズズズ……という巨大な地響きと、民衆の悲鳴が聞こえてきた。

王都の北壁が、ついに物理的に崩壊したのだ。


手帳を閉じたアルスの瞳には、王都の価値がさらに一ランク「下落」した数字が刻まれていた。

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