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繋げてくれた大切な子

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/01/14

 

 出会った頃の君は自信のなさそうな少女だった。

 実際、君は自己評価が著しく低く半ば自虐的とさえ言えるほどだった。


「私。両親に捨てられたんです」


 それが君の口癖だった。

 そして、きっとこの口癖は試し行動だったのだろう。

 だからこそ僕はその言葉を聞く度に君を強く抱きしめていた。


 僕は君の味方だよ。

 何があっても君を独りにしないよ。

 そんな意味を込めて。


 僕のその行動は君の心を癒した。

 少なくとも僕はそう信じていた。


 やがて、僕と君は結婚した。

 君の心は少しずつ前を向いた。

 僕は君のそんな姿が好きだったし、この事実が嬉しかった。


 ――だけど。


「あなたと私の子供」


 君は我が子を愛おしそうに抱いていた。

 その姿はもう僕の伴侶ではなく、僕らの子の母親だった。


「私とあなたを繋げてくれた大切な子」


 そう愛おし気に話す君の姿。

 その穏やかな光景を見つめていた時、僕は突如気づいてしまった。

 ――君はもう僕を必要としていないって。


 そう。

 君はそもそも両親に捨てられたという事実で苦しんでいた。

 そして、僕と言う存在を得たことで少しずつ前に進めるようになった。


 だけど、その中でも君はいつだって不安に晒されていた。

 何故なら僕と君を繋ぐものは愛という不確かなものだったから。


『私とあなたを繋げてくれた大切な子』


 この発言が君の全てだった。

 君には僕の捧げた愛だけでは足りなかったのだ。

 だからこそ君は子供が出来たことでようやく『繋げてくれた』と感じたのだ。


 そうだ。

 そうなんだ。

 君は僕との繋がりに不安があったんだ。

 だから、そんなことを言うんだ。


 そう分かった以上、僕は――。



 *



 夫が何故こんなことをしたのか。

 私には永遠に答えは出ない。


「どうして」


 そう問えば夫は答えた。

 理解できない答えを。


「君が僕を愛していなかったから」


 意味が分からない。

 私は夫を愛し続けていたのに、何でこの人はこんな事を――。


「いいか。歪みは早い内に直さないといけないんだ。そして、歪んでいる内は君は母親になってはいけないんだ」


 意味が分からない。

 何を言っているのか一つだって分からない。


「子供にとっても不幸なんだよ。未熟な状態で母親になられるのは」


 意味が分からない。

 そして、寄り添うつもりも絶対にない。


「また作り直せばいい。君が母親になる準備が出来たら――ね?」


 もう、うんざりだ。

 私は牢屋を後にした。


 ……自分が本質を見抜けなかったことを後悔しながら。

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