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繋げてくれた大切な子

作者: 小雨川蛙

 

 出会った頃の君は自信のなさそうな少女だった。

 実際、君は自己評価が著しく低く半ば自虐的とさえ言えるほどだった。


「私。両親に捨てられたんです」


 それが君の口癖だった。

 そして、きっとこの口癖は試し行動だったのだろう。

 だからこそ僕はその言葉を聞く度に君を強く抱きしめていた。


 僕は君の味方だよ。

 何があっても君を独りにしないよ。

 そんな意味を込めて。


 僕のその行動は君の心を癒した。

 少なくとも僕はそう信じていた。


 やがて、僕と君は結婚した。

 君の心は少しずつ前を向いた。

 僕は君のそんな姿が好きだったし、この事実が嬉しかった。


 ――だけど。


「あなたと私の子供」


 君は我が子を愛おしそうに抱いていた。

 その姿はもう僕の伴侶ではなく、僕らの子の母親だった。


「私とあなたを繋げてくれた大切な子」


 そう愛おし気に話す君の姿。

 その穏やかな光景を見つめていた時、僕は突如気づいてしまった。

 ――君はもう僕を必要としていないって。


 そう。

 君はそもそも両親に捨てられたという事実で苦しんでいた。

 そして、僕と言う存在を得たことで少しずつ前に進めるようになった。


 だけど、その中でも君はいつだって不安に晒されていた。

 何故なら僕と君を繋ぐものは愛という不確かなものだったから。


『私とあなたを繋げてくれた大切な子』


 この発言が君の全てだった。

 君には僕の捧げた愛だけでは足りなかったのだ。

 だからこそ君は子供が出来たことでようやく『繋げてくれた』と感じたのだ。


 そうだ。

 そうなんだ。

 君は僕との繋がりに不安があったんだ。

 だから、そんなことを言うんだ。


 そう分かった以上、僕は――。



 *



 夫が何故こんなことをしたのか。

 私には永遠に答えは出ない。


「どうして」


 そう問えば夫は答えた。

 理解できない答えを。


「君が僕を愛していなかったから」


 意味が分からない。

 私は夫を愛し続けていたのに、何でこの人はこんな事を――。


「いいか。歪みは早い内に直さないといけないんだ。そして、歪んでいる内は君は母親になってはいけないんだ」


 意味が分からない。

 何を言っているのか一つだって分からない。


「子供にとっても不幸なんだよ。未熟な状態で母親になられるのは」


 意味が分からない。

 そして、寄り添うつもりも絶対にない。


「また作り直せばいい。君が母親になる準備が出来たら――ね?」


 もう、うんざりだ。

 私は牢屋を後にした。


 ……自分が本質を見抜けなかったことを後悔しながら。

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